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第2章 主人公の心、揺れ動く

1つの懸念事項

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 本来であれば皇女が行う執務は少ない。けれど、アミィールは"サクリファイス大帝国"の皇女なのだ。サクリファイス大帝国___ユートピアでは一番大きく、他の国々を纏めるような役割を担う国だ。 


 次期皇帝確実視をされている皇女が政治に関わらないわけにはいかない。加えて、サクリファイス大帝国皇帝の父は極度に人を信用しないため宰相はいない。政治面は全て皇族の自分達でやるという徹底ぶりだ。


 しかし。


 その皇帝は現在サクリファイス大帝国の北に位置するセイレーン皇国の近くの諸国の反乱鎮圧に駆り出されていて執務が出来ないのだ。で、全て娘のわたくしに押し付けられた。

 確かに、学園はもう自由登校だ。留学の本来の目的である"ヴァリアースの歴史や名物についてを知る"というものもとっくに終わっている。別に無理して卒業をしなくてもいいのだが、セオドア様を慕ってしまった為"まだ知識を得たい"などと嘘を言って滞在しているのだから行かなくても問題は無い。



 ………………セオドア様。


 アミィールはセオドアを想う。
 セオドア様は婚約を受け入れてくれた。今すぐ会いに行ってお礼を言いたい、と準備までしてたのにこの執務の山がそれをさせてくれない。


 ……………セオドア様は学園を卒業しなければならないのだろうか。本当ならすぐにサクリファイス大帝国に招きたい。わたくしの傍にいて欲しい。




 ヴァリアース大国への根回しは終わった。だけど、問題は____




【はぁーい、アミー!】



 「わ」



 不意に目の前に長方形の魔法が現れた。この魔法を使えるのはこの世界に一人しかいない。そして、その人_正確には人ではないのだけれど_の姿が映し出された。


 アミィールは半ば呆れ気味に言葉を紡いだ。



 「………………驚かせないでください。お母様」



【「お母様じゃなくてママでしょ!まーま!」】


 と、こういうふざけたことを言っているのはわたくしの母親でありサクリファイス大帝国の皇妃・アルティア=ワールド=サクリファイスである。黒髪にわたくしと同じ黄金色の瞳で、よくわたくしとそっくりだと言われる。………認めたくはないけれど。




 「で、なんでしょうかお母様。わたくしは忙しいのです」


【「ラフェーがいないからね、ラフェーに似た娘の顔でも見て気を紛らわそうと思ってさ」】


 「…………貴方が内乱を収めてくればお父様はわたくしに仕事を任せなかったと思いますが?」



 本心だ。このおちゃらけているお母様はこうみえてユートピアで一番強いと言っても過言では無い存在。内乱だろうが戦争だろうがその身一つで全部収まってしまう。



 しかしお母様はさもつまらなさげに言葉を返した。




【「いやよ、私は世界が滅亡するくらいヤバイ状況にならなきゃ動かないって決めてるの。

 それより、どうなった?あの、セオドア?だっけ。アンタがお熱なコ」】




 「………………………」




 上手く話を躱された。我が親ながら本当に掴めない人である。しかし、セオドア様のことを知っている数少ない"味方"でもあるのだ。



 「………………婚約を承諾してくださりましたわ」 


【「まあ!なら、そのセオドアくんがサクリファイスに来てくれるのね!私も早く会いたいわ~!ちゃんと連れてきてよね、未来の旦那様を!」】



 「…………………お父様はまだ意地を張っているのですか」




 私がそう聞くと、浮かれていたお母様はピタ、と止まって大きな溜息をついた。



【「ええ。いくら言っても認めないの一点張り。本当に子供なんだから………まあ、私がうまーく誤魔化しておくからアンタは安心して連れてきなさいな」】



 「……………………」



 そうなのだ。いくらヴァリアースの根回しが終わったからと言ってそれで全てが収まったわけではなく。あの石頭な父親は頑なに婚約者を連れて帰ることをよしとしない。とはいえ、父親の言うことを素直に聞くわたくしではない。




 「最初からそのつもりですわ。では、お母様、わたくしは執務に戻りますので、これで」



【「ええ、よろしくー!」】




 それだけ言い残してふ、と長方形の画面は消えた。…………正直、執務を行うより疲れたわ。



 アミィールは椅子に深く腰を沈めて、天井を見上げながら目を瞑った。






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