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第2章 主人公の心、揺れ動く
2回目の断罪イベント
しおりを挟む貴族には基本婚約者がいる。その婚約者と共に夜会やパーティに参加するのが通例である。
しかし、セオドアは1人である。こればかりは仕方がないとは思うけれど、最後の卒業パーティには、アミィール様と共に向かいたいとは思っていたが……………とはいえ、サクリファイス大帝国の皇帝殿下と話すということは余程の要件なのだろう。国を揺るがすような言い合いであれば、卒業パーティよりも大事である。
これも皇女様と婚約を交わした者の宿命というか…………自分も遅れて行きたいとは思うが、今日はパーティには父・セシルも来ている。恥をかかせるわけにはいかない。
そう思い、会場に足を踏み入れた……………………のだが。
「…………………?」
足を踏み入れた瞬間、周りが暗くなった。窓ひとつない密室。そこに____ザッシュ、ヘイリー、ロヴェン、ターニャ、マフィン……………そして、沢山の男がいた。
なんだ、ここ………………?
「よぉ、セオドア」
ザッシュは敬称なしで馴れ馴れしく俺を呼んだ。状況がわからないまま俺も口を開く。
「ここは、どこだ?パーティ会場では…………」
「ここは、わたくしの魔法で作った檻ですわ」
そう言ったのは転校生・ターニャだった。いやらしい笑みを浮かべている。続けて、マフィンが口を開いた。
「あなた、本当にこのまま無事に卒業出来ると思ってませんわよね?………そんなの、許しませんわ。
ですがあの女に何かをすればわたくしたちは殺されてしまうのでしょう。ですから、セオドア、貴方には死にたくなるほどの屈辱を与えようと思いまして………まあ、最終的には殺しますけど!」
「っ!?」
マフィンはそう言って風を起こした。
風の刃は頬を、首を、服を切り裂いた。
これは____"ヒロインの特殊能力"…………!
ヒロインの特殊能力___それは、『理想郷の宝石』に出てくる攻略対象が使う魔法である。ヒロインは何かしらの特殊能力を持ち、『男よりも強い女をハーレム』にするギャルゲーで、攻略対象者が使えるものだ。
ヤンデレ転校生・ターニャは『監禁』
溺愛系婚約者・マフィンは『風刃』
唯我独尊系幼馴染・ヘイリーは『服従』
そして、妖艶系後輩・ロヴェンは___『淫行』
そこまで考えて嫌な予感がした。
体が震えて、冷や汗をかく。
「や、やめてくれ………ロヴェン………」
震えながらも、か細い声で言うセオドアにロヴェンは___冷たい笑みを浮かべた。
「セオドア様が悪いんですよ…………?あんな女にうつつを抜かすから___でも、大丈夫です、死ぬほど気持ちよくしますんで」
緑色の瞳がピンク色に変わった。
その瞬間、身体が熱くなる。呼吸がしづらい。そして___いやらしい、醜い感情が過ぎる。
ロヴェンの『淫行』は媚薬のようなものだ。"そういう気持ち"にさせる、特殊能力。そして。沢山の男と、4人の女。
これが何を意味するか____口に出すのもおぞましい、エロゲ展開である。こんなゲームだったか?この世界…………?
「ッ、うう…………!」
物欲しそうな顔になるセオドアに、ザッシュは言う。
「このゲームの主人公になっておきながら攻略対象者を攻略せず、あろうことか___公式にないキャラを、アミィールを拐かすなど許せることがあろうか!」
ザッシュは、そう叫んだ。
"このゲーム"という言葉を、確かに使った。熱く張り詰めたそれを抑えて言葉を紡ぐ。
「ザッシュ、お前も…………転生者か…………!?」
「やっぱり貴様も転生者か、セオドア………そうだ!俺は異世界転生者!『理想郷の宝石』のプレイヤーだった俺は死んで生まれ変わった!だが、与えられたのは主人公ではなく悪役………だが、悪役でも主要キャラだ、お前から攻略対象を奪うのは楽しかったさ!
だが____そんな時に、あの御方が現れた」
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