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第3章 "軍事国家"・サクリファイス大帝国

旅立ち

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 「話とは…………?」



 セオドアが首を傾げていると、セフィアは額の木刀をやっと手に持ち振り返る。



 「____"サクリファイス大帝国は呪われている"」


 「……………え?」


 「ユートピアで王族に仕えている人間が必ず聞く話さ。お前は聞いたことがないか?


 "龍神"の話」



 「龍神……………………?」



 聞いたことがなかった。そんなワード、このゲームの世界にあったか…………?


 未だに首を傾げているセオドアに『まあ、分からねえよな』と言って笑った。


 「俺もその時は赤ん坊さ。こんな気になるワードがあるのに、誰もそれを話そうとしない。…………まるで口に出すのが恐ろしい、って言わんばかりにな。


 でも、とにかく"サクリファイス大帝国の皇族"は呪われているんだと」



 「…………………呪い……………」



 「…………………お前が皇配になるんなら、それ相応の覚悟が必要だってこった」



 「こ、皇配なんて、気が早いです!」


 「じゃあなんだ?別れるのか?」


 「それはありません!……はっ」



 思わず大きな声が出た。急いで口を手で塞ぐが、兄はけらけらと笑っている。は、恥ずかしい………………



 「お前が選ばれたのは凄いことだが、皇女だと言うのを知った上で慕うお前も凄いなあ。


 まあなんだ、とりあえず頑張れ」




 そう言って頭をひとつ撫でてからさっさと屋敷へ戻っていった。


 な、なんなんだ一体…………………けど、龍神か。16年生きてきたけど、聞いたことがない。それに、呪いって…………このゲームは隠し設定があるのか………………?



 セオドアは一人、月を見上げながら考えた。




 *  *  *



 次の日。




 「セオ、しっかりと勉強してきなさい」


 「セオ、体に気をつけて、手紙はちゃんと書いて下さいね」



 「はい、父上、母上」



 セオドアはそう言って自分の両親を1人ずつ抱きしめた。今日から1ヶ月かけて、俺はサクリファイス大帝国に馬車で向かうのだ。


 …………本来、普通の貴族で花嫁修業をするのは令嬢だけで、男はしない。しかし、それは"本来"であって、自分はその"本来"ではない。




 「___アミィール様、どうか息子をよろしくお願いします」


 「ええ、大事なご子息様をわたくしに託して頂きありがとうございます」


 そう言って尊い頭を下げるのはサクリファイス大帝国皇女にして次期皇帝と呼び声高いアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイス様。


 サクリファイス大帝国は一国どころかユートピア全土を管理し、有事の際率先して動く……………大国や皇国とは一線を画す大帝国なのである。その皇帝の配偶者となると、並大抵の覚悟では居られない。覚悟が出来ていたとしても技量が無ければ務まらない。




 だから、俺は1年かけて扱かれにいくのだ。…………自分にどこまでできるか分からないけれど、それでも、この御方と共に居たいと思うからこそ頑張らねばならない。

 「……………!」

 セオドアの顔が強ばっているのに気づいたアミィールはセオドアを自然な素振りで抱き寄せる。


 「大丈夫ですよ、セオドア様。セオドア様ならできるとわたくしは信じております」



 「……………ッ」


 ………………皇女様というのは心まで読めるのだろうか……………侍女が読めるのだから、読めてもおかしくない気がする。


 そんな事を思っていると、俺の執事のレイとアミィール様の侍女のエンダーが来た。



 「アミィール様、馬車の準備が出来ましてございます」


 「ええ。わかったわ。………セオドア様、ご挨拶をなさってくださいまし」



 「はい、……………父上、母上。行ってまいります」


 「ああ。……………皇配としての自覚を持ち、行動するのだよ」


 ___父上は公爵家の人間としての心構えや上流階級の貴族としての礼儀、教養を厳しく、でも優しく教えてくださった。



 「セオ、わたくしは誇らしいのです。セオの優しさや気配りが、この世界をお守りくださるサクリファイス大帝国の力となることをヴァリアースの地にて願っております」




 ____母上は俺が可愛いものを好きだと言っても、女子のするようなことをしても怒らなかった。それどころか、令嬢が覚えるような事を親切に教えてくれた。



 この両親と、今日は仕事でいないが優しく面白い兄のおかげで異世界の世界でもやっていけた。そして、そのおかげでアミィール様に見初めて貰えた。……………感謝してもしきれない。



 そう思うと涙が出てきた。ポロポロと零れるそれを放置して、大好きな両親を見据えた。




 「父上、母上_____私は、立派な皇配として成長し、アミィール様を支えてみせます」



 「では、わたくしはこの愛らしく優しい皇配様を必ず幸せにしてみせます。


 では、また一年後に」




 アミィール様は泣く私を優しく撫でて、優しい笑みでそう言った。




 _____ちゃんと、頑張ろう。




 新たに決意を固めた。






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