52 / 469
第4章『理想郷の王冠』と『理想郷の宝石』
人狼キャラは皇妃の側近
しおりを挟むセオドアは最初こそ顔を赤くして緑の瞳を見開いていたが、ゆっくり目を細めて応え始める。どうしてもこの愛らしい仕草をする積極的な皇女を前にすると理性は仕事を怠けてしまうらしい。何度も何度も唇を重ねながら無意識に姫抱きから逃れ、自分から押し倒す。
柔らかいソファでこれをせずベッドでなんてしたらきっとそれ以上のことをしてしまうだろう。でもここなら、まだ理性が残ってる………ように思う。
けれど、キスでスイッチの入ってしまったセオドアは唇を離してもなおアミィールの身体に唇を落とした。かぶりつくように首筋に、額に、耳にも自分の跡をつける。アミィールもそれに応じつつ、自分もセオドアにキスをする。
そんなキスの攻防は暫く続いて、終わった頃にはセオドアは顔を真っ赤にし逃げるように布団を被ってしまい、アミィールは上機嫌で再び執務に戻った。
今日も2人はラブラブです。
* * *
「素晴らしいです、セオドア様」
「ガロ様が教えてくださったおかげです」
ガロは感嘆の声をあげた。セオドアはその言葉に照れる。……………毎日6時間はガロの教育を受けている。ガロはとても教え方がうまく、すんなりと知識が頭にはいっていく。
おまけに、剣技も魔法も武術もあまり得意ではない俺に、コツや気構えなど一つ一つを懇切丁寧に教えてくれるのだ。知れば知るほどよくできた側近だなと思う。
だけど、それをかさに着ることなく控えめに言う。
「そんなことはございません。全てはセオドア様が努力した結果にございます。レイ様からもお聞きしています、空き時間や深夜にも勉強をされていると。
その結果なのですから、自信をお持ちください」
「そ、そんな……………」
そんな所まで知ってくれているのか。なんだか、前世も合わせてここまで親切に、ちゃんと向き合ってくれる先生がいなかったから凄く嬉しい。
……………やっぱり、アミィール様が結ばれた方がいいのはこの人なのではないだろうか。
嬉しい半面、こんなことを考えてしまう自分が本当に嫌だ。邪念が凄い。
「……………?どうなさいましたか、セオドア様」
「あ!その!えっと………ガロ様はアミィール様のことをどう思ってるのかなって……あっ」
何を言っているんだ俺ー!?本人に!直接!言うことじゃないだろう俺!
1人自己嫌悪に陥るセオドアを横目に、ガロは首を傾げる。
「アミィール様のこと………アミィール様はアル様の御息女なので、大切ですよ」
「そ、そうですよね」
「はい。…………私は、アル様に救われた者なので。アル様の大事な人は私の大事な人です」
そう言ったガロはとても優しい顔をしていて。それに、攻略対象キャラなのに、アミィール様ではなくアル様…………アルティア皇妃のことばかり言っている。不思議だった。『理想郷の宝石』の攻略対象キャラであるマフィン達は無条件で自分を好いてきていたから。
「あの…………ガロ様、ガロ様にとってアルティア皇妃とはどのような人なのですか?」
「私の全て、です」
ガロはにっこりと笑って断言した。イケメンの笑顔の爆発力すごいな………俺って本当に主人公なのか?この笑顔に勝てる自信がないんだが。
そんなことを思うセオドアの存在を忘れて、静かに言う。
「……………私はそれまで名前すらなく諾々と自分の運命を受け入れていたのです。全てを奪われる人生を…………ですが、そんな私に笑いかけてくれたのは、アル様でした。ガロ、という名前を頂き、学ぶ機会を頂き、………運命に抗う、ということを教えて貰い…………
全部を教えてくれて、私はここに立っているのです」
そう言ったガロは、幸せを噛み締めるように胸に手を置いた。
運命に、抗う……………か。
その言葉が、俺の胸に刻まれたのはこの時だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
71
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる