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第11章 人外皇女の秘密
主人公は無力
しおりを挟むアミィール様は、いつだってかっこよくて美しくて意気地無しな俺をリードしてくれていた。
いつも俺には笑顔を向けて、甘くしてくれていた。
けど。
俺は____アミィール様の苦しみを何も知らなくて。
勝手に1人で浮かれて、この苦しみを理解すらしていなかった。
何が、………何が皇配だ。何が夫だ。なにが____愛する人だ!
セオドアは涙を流しながらも、それでも蹲るのをやめて、3人を見た。
「それは____治らないのですか?
なにかできることはないんですか?
アミィ………アミィール様を救える方法は、ないんですかッ!」
静かな部屋に、セオドアの叫びにも似た怒鳴り声が響く。アルティアはそれを聞いて……………静かに言う。
「____根本的な解決は、この20年ずっと探している。けど、手がかりはない。
けれど___抑圧する方法なら、ひとつある」
「…………!ッ、それは!なんですか!?」
「お前だよ、セオドア」
「!」
威厳がある声で、俺の名前を呼ばれた。
入口に居たラフェエル皇帝様が、俺のそばまで来ていた。そして、俺の顎を持ち上げた。
アミィール様と同じ紅銀色の髪、ルビーのような紅い瞳に俺の顔が映っている。口元は、アミィール様に似ている整った顔で、真剣に言った。
「_____お前の"治癒血"なら、抑圧ができるんだ。
発現した時を思い出せ。…………アルティアの発作は止まっただろう?」
「____!」
その言葉で思い出す。アルティア皇妃様も、アミィール様のように倒れていた。けれど、俺の血が落ちて、緑の光に包まれて____起きたんだ。
そこまで思い出した所で、セオドアは自然と普段持ち歩いている短刀を手に取った。そして、手首を切ろうとするが…………その手をラフェエル皇帝様に掴まれた。
「何するんですか!俺の血があれば!アミィール様は………!」
「落ち着け。…………この程度なら、その必要は無い」
「ふざけないでください!こんなに、苦しそうに…………ッ!」
「………………セオドアくん。私達の娘の為に血を捧げてくれるのは嬉しい。
けれど、それで傷ついてしまったら___アミィールが、傷つくわ」
「………………ッ」
アルティア皇妃様の言葉に、短刀を持つ手の力が抜ける。………………アミィール様はいつだって、俺の身体に傷があると泣くんだ。ほんの少し包丁で切っただけでも、泣く。………これで、自分のせいで切ったら、きっと悲しい顔をする。
……………けれど。
「俺はッ……………アミィール様の夫です!
妻の為に血を捧げず、何が夫ですか!
____アミィール様が傷ついても、俺はやります」
セオドアは全員を睨みつけて堂々と言ってのけた。その言葉に………3人は悲しげな顔をする。
一番最初に動いたのは……………ラフェエルだった。
「セオドア、手を出せ」
「?……………ッ」
言われるより先に手を取られ、針のような小さな刃物で親指を切られた。血が滲む。ラフェエル皇帝は俺を見て、静かに言った。
「____お前の血は強力だ。一滴で効果があるだろう。親指ならアミィールだって気づかない。
………………お前が自分から傷ついたのではなく、私達が傷つけた。
これならば、アミィールの怒りの矛先は私達に向く。____私達を悪者にしろ」
「そんな……………!」
「____これからこのような事があったら私に言え。自分から傷つくな。
…………私の娘を、悲しませるな」
「……………………」
ラフェエル皇帝様の言葉に、俺はまた涙が流れた。
俺、結局守られている。大好きな人を守ることすら出来ていない。
俺は_____無力だ。
セオドアはそう思ってから、ラフェエルから離れてアミィールの元に戻る。血が滲んでいる親指で、愛らしいピンク色の唇に触れた。
すると緑の光が発現する。ゆっくり、でもしっかりそれが全身に広がった。それを受けたアミィールの浅い呼吸が、深いものになって…………顔色が少しよくなった。
それを見てから、アルティアはアミィールの額に触れる。
「…………うん、抑圧されたみたい。
けど、意識はまだ戻らないわね。この子は倒れると一日は起きないから」
「…………一日…………」
ぽつり、そう漏らすセオドアの背中に、ラフェエルは言った。
「…………………セオドア、今日から一日、お前にはアミィールの世話を任せる」
「…………!ありがとうございます!」
ラフェエルの言葉にセオドアは勢いよく頭を下げた。
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