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第13章 主人公と擬似育児
それはまるで家族の一コマ
しおりを挟むセオドア様がわたくしにヨウという赤ん坊を抱くように言う。正直、戸惑った。
だって、こうして触れられたり、見られたりするだけでドキドキしてしまうのに、わたくしにそんなことは出来ない。そもそも、力加減なども分かりませんし…………
「わ、わたくしが触れて…………傷をつけてしまっては…………」
「大丈夫だよ、私を抱き締めてくれるように抱き締めればいいんだ」
「で、ですが、わたくしの手は……」
「穢れていたら、ヨウは近づかないよ」
そう言ってにこにこと笑うセオドア様。とても意地悪な顔をしている。このような顔をするのは初めてで、きゅう、と胸が苦しくなる。もう共に時を過ごして2年過ぎているのに、新しい一面にクラクラする……………
いえ、クラクラしている場合ではありません。………セオドア様は少し内向的な御方ですけど、1度やると決めたら必ずやる素晴らしい御方。わたくしがこれを断ってしまっては…………嫌われてしまうかもしれない。
「ッ、で、では…………」
「うん、ヨウ、暴れちゃダメだよ」
アミィールは震えながらも、セオドアの腕に手を伸ばす。少し触っただけで、胸が張り裂けそう。セオドア様に触れる時とは違う緊張が、物凄く怖い。
アミィール様が震えていらっしゃる。不安げで、今にも泣きそうだ。無理強いはしてはならないけれど、『自分が抱いていいんだ』と少しでも安心して欲しくて。
「____はい、アミィ」
「ッ…………!」
俺は押し付けるように、アミィール様の腕の中にヨウを差し出した。アミィール様は意を決したように抱き上げる。ふるふると震えていた腕がぴた、と止まる。そして、腕の中のヨウは…………
「あうー!」
「…………ッ!」
……………アミィール様の腕の中でへにゃり、と笑って身を任せている。それを見たアミィール様は顔を赤くして、大きな黄金の瞳からポロポロと涙を流した。そして、おずおずとぎゅう、と抱き締めている。愛おしげに、不器用に。
「温かくて、小さい………抱きしめてしまっただけで潰れてしまいそうな、命…………セオ様、凄いです、わたくし、赤ん坊を抱けてます………!」
涙を流しながらも目を輝かせて、僅かに笑みさえも浮かべてはしゃいでいるアミィール様。……それを見て、俺も和んだ。
嗚呼、やっぱり俺の愛する人は……………とても愛らしい。可愛すぎる。かっこいいのにこのギャップは…………出会った時から、俺を笑顔にしてくれる。
セオドアはそう思いながら、未だヨウを抱き締めているアミィールの肩を抱く。そして、緑色の目を細めて、笑った。
「_____ね?アミィ、すごく可愛いでしょう?」
「ええ…………可愛すぎて…………もう、わたくし…………怖すぎるくらい………ッ」
「怖くないよ、大丈夫、私もそばに居るから」
「んっ…………」
セオドアは甘く囁くようにそう言って、愛おしい女の頬に唇を落とした。未だ不安の残る顔をしつつも、アミィールは微笑んでそれを受け、自分も唇を寄せた。
「セオ様、…………貴方がそばにいてくれるだけで、わたくし、こんなにも___心強く感じております」
「ふふ、なら嬉しいな。…………ヨウは今日から1週間、ここで過ごすから大事にしてあげようね」
「はい、…………はい!」
嬉しそうに笑うアミィールと優しく笑うセオドアはどちらとも言わず唇を「あぶー!」………………
唇を重ねようとしたら、ヨウが小さな手で2人の唇を制した。それで我に返った2人は顔を赤らめ、それでも顔を合わせて笑った。
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