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第13章 主人公と擬似育児
叱責ではなく説得を
しおりを挟む「………ッ……く」
セオドアは跪いていた。全く動けない。強い重力に引き寄せられるように膝が浮かないんだ。上を見ることすらできない。…………やっぱりアルティア皇妃様は強すぎる…………!
それでも抗おうとするセオドアの頭に、アルティアが真剣な声で言う。
「_____貴方がとても優しいことを知っているわ。アミィールを愛してくれているのも知っている。
けどね、"愛している"と"甘やかす"は違うのよ。むしろ『愛している』からこそダメなものはダメと言わなければならないわ」
「し、っ……かし………!」
「……………貴方も聞いたとおり、私は20年前ガロを拾ったわ。そして今も貴方の教育係をしているわね?
ガロには感謝しているし、大事よ。けど、それと同時に____あの子の自分の生きる道を奪ってしまったの」
「……………!」
ふ、と身体が軽くなった。どうやら、言霊呪文は解けたようだ。アルティア皇妃様はヨウを抱きながら、目を伏せていた。
「____ガロは私に仕える事しか未来を描けなくなってしまった。私に仕える事に幸せを覚えてしまい、未だに恋すらしていない。
同じ事を繰り返してはならない。……………ヨウくんを思うのなら、養子になどしてはならない」
「………………」
理屈は、わかる。ガロは悲しくなるくらいアルティア皇妃様の事、この国の事ばかりを考えている。あんなに器量がいいのに、侍女にも迫られているのに華麗に躱して………本当にサクリファイス皇族の為に存在しているような御方だ。
けど、……悔しげにしていたアミィール様を放っておくことなどできない。せめて慰めてあげたい。
それに、アミィール様がはっきりと我儘を言うなんて初めてだったから。叶えてやりたいと思うだろう?
「……………ですが…………」
「___アミィールは、未だ子供だ」
セオドアの言葉を、ラフェエルの低い声が止めた。ラフェエルはナイフとフォークを置いて、初めて顔をあげてセオドアを睨んだ。
「アイツは………………お前と出会い、お前と触れ合い…………初めての感情を沢山手に入れた。身体こそ大人だが…………未熟なのだ。"精密機械のような仕事人間"だったアイツに人間らしい感情が生まれたのはいい事だ。
それを叱ってやるのは親の役目であり___夫のお前の役目でもある」
「……………ッ」
『精密機械のような仕事人間』
その言葉が、重くのしかかった。…………アミィール様は俺の前では様々な顔を見せてくれるけれど、仕事をしている時は本当にロボットのように淡々と行うんだ。
それをわかっているから____何も言えない。
どうすればいいのか、同じく未熟な俺には分からない。
そう考えると情けなくて、泣きたくなる。
今にも泣きそうなセオドアを見て、ラフェエルは大きく溜息を着いた。そして、アルティアを見る。
アルティアもヨウを抱きながら、呆れたような顔をして頷いた。それを見てから、ラフェエルは先程よりは明るい声で言う。
「____叱れないのなら、せめて説得してみろ。
できるか、セオドア」
「………………………」
そう言われて、考える。
…………あんなにヨウを可愛がって、幸せそうにしていたアミィール様を叱ることなんてできない。あんなに喜んでいて、せっかく慣れた時に離れ離れになるのは辛い事なのだ。俺はそれを責められる程厳しくなれない。
けれど____説得なら。
そこまで考えて、セオドアは涙を堪えてラフェエルを見た。
「______やります」
そういったセオドアの顔は確かに『愛する者のいる男』の顔だった。
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