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第20章 SweetでBitterな日常
先の事を考えさせないで
しおりを挟む「ぐずっ……………」
「セオ様………………」
懐妊演説が終わり、自室に戻ってきたセオドアは未だにドレス姿で泣いていた。アミィールの鎧を涙で汚しながら抱き締めている。…………セオドア様はよくお泣きになるけれど、今回は今までよりも長く泣いている気がする…………。
それはわかる、何故ならセオドア様はいつだって『男』であろうとしているのだから。こんな屈辱耐えられないのだろう。
とはいえ………ずっと泣いているのを見ると、わたくしだって悲しくなります。
『かなしい?かなしいってなに?』
『パパ、泣いてるよ、いたいの?』
幼い声達さえも心配している。この子供達もセオドア様のことが好きなのだ。どんな格好をしていても、この子達の父親。
____悲しい、というのは『嫌だ』とおもうことですよ、皆様。けれど、大丈夫。わたくしがセオドア様を笑顔にして差し上げます。
そう子供たちに言い聞かせ、わたくしは少しセオドア様から離れて両手で頬を持ち上げる。
濡れている長いまつ毛と未だに涙が溜まっている緑の瞳、しゃくりあげている。それでも___女の格好をしたセオドア様は可愛くて、愛らしい。
「アミィ…………?」
「セオ様、泣かないでくださいまし。子供達も心配していますし…………わたくしの母親のせいでこんなにも悲しませて申し訳ございません。
____けれど、泣いていても、女性の格好をしていても、貴方はとても愛らしいです。
わたくしの愛おしい御方は、どんな格好でも____素敵なのです」
「____ッ」
アミィールはそう言って、優しく唇を重ねた。積極的に舌を絡ませ、涙に濡れた顔を優しく撫でてくれる。
…………すごく、すごく恥ずかしかったし、これからの事を考えると気が重い。
けれど、…………アミィール様の男装が見れたのは、嬉しくて。
俺は乙女男子で、王子様が好きだ。
この御方は、絵に書いたような素敵な俺の王子様で。
男とか女とか関係ない、と思わせてくれる。
愛おしい。
愛おしい。
セオドアは震えながらも、アミィールの顔を同じように両手で包んだ。そして、もっと深く、甘いキスを貪る。男女逆転していて、先の事を考えられないくらい頭が働かなくなればいい。
その為には、この御方が絶対必要なんだ_____
そう思いながら、セオドアはその場にアミィールを押し倒して、それこそ蕩けそうな頭になるまでアミィールの甘い唇を、唾液を堪能した。
* * *
「ねえねえ、セオくん、女装大会は懐妊演説をした日がいいと思うんだけどどう思う?」
「女装大会はもうやらない方向がいいと思います」
会食の時間、アルティアの言葉にセオドアはむす、としながらそう答えた。もう恩返しはしたんだ。やる必要なんてない。というか絶対やりたくない。無理。
確固たる決意を持ちながら口を尖らせるが、アルティアと言う女にそんな言葉は通用しない。ノーダメージアルティアはラフェエルに聞く。
「ねえねえ、ラフェー、やっぱり女装大会はアンタも出てよ」
「巫山戯るな。国民達が勝手にやればいいだろう」
「そう言わずにさ~皇族男子は顔だけはいいんだから、これは"貴族の義務"よ」
「お母様、わたくしたちは貴族ではなく皇族です。それに、貴族の義務などという古い習慣は捨てるべきですわ」
アミィールは目の前でクルクルと踊るぬいぐるみの頭を撫でながら、冷たい言葉で言う。
「んもう、つれないわね~あんなに国民が喜んでたのよ?やらないわけにいかないじゃない。
これをやれば女装したい男達は好きなように女装できるようになるじゃない。
貴族とか男とか関係なしに自分らしく居ていいんだ、って思わせるのはそんなに悪いこと?」
「………………」
アルティア皇妃様はとても滅茶苦茶でトラブルばかりを起こす。けれども、こうしてほかの人達のことを考えられる人で…………悔しいけど、かっこいい人ではあるんだ。だから嫌いになれないんだ。
そうなったらきっと____世界はもっと素敵になるだろうな。
セオドアはそう思いながら、パスタを口に含んだのだった。
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