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第30章 巡る巡る夏の夜

着々と進む『花火大会』準備

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 「うおっ!?」



 言われたとおりコツコツと型を抜こうとするがぱき、と割れてヒビが入ってしまった。レイは敗北感を感じつつ、セオドアを見た。


 「なんだこれは………?」


 「型抜きだよ、それ、食べられるから食べてみろ」


 「ん?…………少し、甘い?」


 「だろう、少しだけ果汁を練り込んでみた。そうやって型を抜いたら景品が貰えて、上手く抜けなかったらそのお菓子を食べる。………中々に楽しいだろう?」




 セオドアはそう言ってに、と笑う。
 確かに、暇つぶしにはなりそうだ。
 そう思ったレイはぽりぽりと食べながら頷く。


 「………まあ、楽しくなくはない」


 「素直に楽しいって言えよ。味に問題もないし、硬度も大丈夫っぽいな。これで決定だ。

 レイ、アルティア皇妃にこのレシピを持ってってくれ」



 「なにをしようとしているんだ?次は?」


 「『花火大会』だ。お前も15日後、空を見上げとけよ?」


 「???」


 セオドアはさっさとレイにレシピを渡し、ミシンの前に座って裁縫を始めた。レイが首を傾げているとぎゅ、と引っ張られる。


 見ると___小さなセラフィールが。



 「セラフィール様、どうなさいました?」


 「あのね、はなびね、おはながさくんだよ!」


 「はい?」


 「おそらに、おはなが!さくの!れいもみて!」


 「???」



 やっぱり分からないレイでした。


 *  *  *




 「………………ま、まいりました」


 「ありがとう、兵士長」



 鍛錬場。その場に尻もちをついた兵士長がそう言うと、上半身裸のセオドアはにっこりと笑う。そして、近くにいたガロからタオルを受け取り汗を拭いながら、隣を見た。



 「はぐぅっ!」


 「つぎぃ!ほらぁ!」


 隣では自分よりも大きい大人を剣で薙ぎ倒す息子・アドラオテルの姿が。まだ3歳なのだが、やはり剣の腕は確かで的確に急所を突き、投げ飛ばす。身軽でもあるから170センチ程度の大人なら頭上まで飛ぶこともできる。そうでなくとも浮遊ができるから………何が言いたいのかというと、アミィールの子供、ということだ。



 アドラオテルは突然『男も女もひゃくにんぎりするー!』と言い始めてこうして鍛錬に参加しているのだ。もちろん女相手の意味は違うから必死で食い止めているが、男はもう諦めた。3歳児に負ける方が悪いと思うことにしたのだ。………俺も勝てないけど。

 「セ~オ~くぅん♪」


 「わ、…………アルティア皇妃様」


 少し凹んでいると、アルティア皇妃様の声がした。見ると………大きな筒を片手に持ってニコニコしている美女。シュールである。


 「…………どうなさいましたか?」


 「花火の試作品が完成したの!で、見てもらおうと思って!」


 「ここは鍛錬場ですよ?」


 「天井がないんだからいいじゃない。それよりみてみて!」


 「ばーば、なんだそれ?かっこいー!」


 アドラオテルは剣をぽい、と捨てて近寄ってきた。オッドアイの目がキラキラしている。アルティア皇妃様はにっこり笑った。



 「まあ、空を見てなさい。………着火!」


 そう言って小さな火魔法をぶら下がっている縄に落とした。ジリジリと音を立てて…………それが無くなるとドォン!と音がした。


 「!」


 「おお~!」


 ひゅ~パァン、と音を立てて空中で花火が咲いた。夕方の空に色とりどりの花が咲く。綺麗な花火に、セオドアはぽつり、声を漏らした。



 「…………すごい」


 「でしょ?でしょ~?さすが私でしょ!
 どーよアド!」


 「すごいすごいすごい!今の何!?なんなの父ちゃん!」


 「わっ」


 アドラオテルは大興奮で足元にくっついてきた。興奮状態だ。耳としっぽの幻影が見える………可愛い、ムカつくのに可愛い…………!


 セオドアはぐ、と感情を抑えてアドラオテルに諭す。

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