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011 休日

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 俺が〈何でも屋:シルバー〉で働くようになって、1ヶ月が経過した。
 その間、俺が行った仕事といえば、魔物退治オンリーだ。

 魔物退治といっても、アークリッチのような強敵はいない。
 スライムやゴブリンといったG級の雑魚モンスターばかり。
 街のすぐ外に薬草畑があって、そこの治安維持が俺の仕事だ。

 雑魚狩りに従事しているせいで、レベルは全く上がっていない。

====================
【名 前】レイ・シノミヤ
【レベル】21
【H P】39,350/39,350
【M P】47,275/47,500
【適 性】
・戦闘系
 ├攻撃:S
 ├妨害:S
 └回復:S
・生産系:S
・その他:S
【スキル】
自動発動パッシブスキル
 └英雄の加護:Lv.99
 
任意発動アクティブスキル
 ├エンチャント:Lv.14
 ├ソニックブレード:Lv.18
 ├調理:Lv.9
 ├鍛冶:Lv.1
 ├製薬:Lv.7
 ├建築:Lv.1
 ├合成:Lv.1
 ├鑑定:Lv.5
 └裁縫:Lv.1
====================

 未だに本体レベルは21のままだ。
 ただ、スキルレベルはいくつか強化された。
 主に生産系が。

 〈調理〉は毎日の朝食で使っている。
 料理による一時的な能力アップは、あまり実感がなかった。
 たしかに食べると力が漲るし、身体が軽くて動きやすい。
 しかし、魔物との戦いを始めた頃には、効果が切れていた。
 戦闘の少し前に食べるくらいがちょうどいいようだ。

 〈製薬〉は、店で働く皆のポーション作りで使っている。
 俺の作るポーションは、材料に対して効果が強烈なので大人気らしい。
 いわゆるコストパフォーマンスに優れるってやつ。
 だから、料理番ならぬポーション番に任命されていた。

 生活自体は順風満帆だけれど、不満というか気になる点もある。
 それは、未だにセレナとマスター以外の仲間を知らないことだ。
 他にも何人か居るようだが、1人たりとも会ったことがない。
 どういう人物なのかを訊いたが、2人共、教えてくれなかった。
 だから、俺からすると、セレナとマスターしか仲間がいないようなものだ。

 そんな1ヶ月が経過したある日のこと。

「今日は休みだ。好きに遊んでこい」

 マスターから休暇の指示が下された。

「休みと言われても、何をしたらいいの?」

「なにをするのも自由さ。とにかく、たまには休め。お前は働き過ぎだぞ」

 研修以降、俺は1度も休んでいない。
 つまり少なくとも30連勤はしているわけだ。
 日本ならばブラック企業待ったなしの労働状況である。
 しかし、日本とは違い、労働時間は短く、自由な時間が多い。
 大して疲れていなかったし、何より楽しく過ごせている。
 1ヶ月以上連続で働いていても気にならなかった。

「前にやった給料、殆ど丸々余ってるだろ?」

「だね。食費くらいにしか使っていないし」

「それを使ってパーッと遊べ! 儂がお前くらいの年の頃は、クエストで稼いだ金で娼館に通いまくったものだぞ。娼婦を相手にハッスルするのが休日のクエストってなわけだ」

「俺はそういうのに興味ないから」

「ま、娼館に行けとは言わないさ。ただ、なんでもいいから休暇を楽しんでこい。街を散策してりゃ、何かしら興味を抱くものも出てくるだろうよ」

 日本に住んでいた頃、いくつかのアルバイトをした経験がある。
 しかし、どれも1ヶ月として続かなかった。
 誰かにも言われたし、自覚もあるが、社会不適合者なんだろうな。
 そんな俺が、まさか働き過ぎを咎められる日がくるとはな。

「そこまで言うならそうさせてもらうよ」

 ◇

 日本で過ごしていた頃、休みといえば引きこもってゲーム三昧だった。
 PCの前に張り付き、ネトゲを中心に日がな一日遊び呆ける。
 一人暮らしなのをいいことに、好き放題にゲームを楽しんでいた。

 だから、外で楽しむ方法が分からない。
 まるで王城を追放された日のように、俺はトホトホと歩いていた。
 王城から外に向かって伸びる大通りに差し掛かる。
 そこで足が止まった。

「討伐隊だ!」

「五英雄だ!」

「カッケェ!」

 大通りを国の兵隊がぞろぞろと行進していたのだ。
 煌めく白銀の鎧に身を包み、馬に騎乗した騎士が数百名。
 その先頭に居るのは五英雄だ。
 俺と共にこの世界へ召喚された5人の男。
 召喚された時と違い、ご立派な鎧に身を包んでいる。

「馬子にも衣装だな」

 彼ら討伐隊は、魔王の討伐に向けて繰り出すそうだ。
 1週間くらい前に、マスターがそんなことを話していた。
 といっても、初っ端から魔王の住む魔王城へ突っ込むわけではない。
 世界の約半分が魔王の領土なので、その奪還から始めるとのこと。

「頑張ってくれぇ!」

「魔王を倒してくれ!」

「この世界に平和を!」

 皆が口々に声援を送る。
 俺も心の中で応援の言葉を掛け、その場を離れた。
 近くの細い道に入り、路地裏を彷徨う。

「やっぱりすることがないな」

 マスターは外を歩けば何か見つかると言っていたが、そんなことはない。
 外を歩いていても、大してそそられるものがなかった。
 だからといって、このまま何もしないで終わるのもまずいだろう。
 店に戻ると必ず「何をしてきた?」と訊かれるに違いない。

「適当にカフェ巡りでもしておくか」

 そう考え、来た道を引き返そうとする。
 だが、困ったことに、闇雲に歩きすぎて迷ってしまった。

「こっちだったはず」

「いや、こっちだったか」

「いやいや、こっちだろう」

 1人でブツブツ言いながら歩く。
 だが、一向に大通りへ到着する気配がない。
 そうして、いい歳した男が悲しく彷徨い続けた結果――。

「たすけ…………て……!」

 血まみれで倒れている美女を発見するのだった。
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