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第10章 後宮
第386話 訪問者の言霊
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芙艶が湖紅国に嫁いだ際、皇帝は自ら出迎えに出て、彼女を歓迎してくれた。
物腰が柔らかく、穏やかそうな皇帝に「あなたの力が、必要なのだ。よろしく頼む」と手を取り言われて、芙艶は自信を込めて「お任せ下さい」と頷いた。
過ごす内に、後宮の様子も抱えている問題も理解できた。
皇帝には寵妃がいる事、そしてその他の側室には初夜以外全く皇帝の手がついていない事。それにより、清劉から嫁いだ皇女が随分とひどく寵妃に当たりちらしている事。それらを把握してため息を漏らした。
劉妃という同じ皇女出身の彼女は気位が高く、自身が蔑ろにされ、臣下の家出身の泉妃が寵愛を受けていることが、事の他許せない様子だった。更に自身が就くものと思っていた皇后の座を後から来た芙艶に掠め取られた事も気に入らないらしく、芙艶に対しても、当たりは強かった。
そしてもう1人の側室である廟妃も皇帝と泉妃の関係の深さには不満を呈していた。
それはそうである。
側室として嫁いでいるのに、皇帝の手がつかないのだ。子ももてず、大した役目もなくただ枯れて行くだけの人生など彼女達が満足するはずもない。
それについては、即位と婚礼の儀が終わり、落ち着いたところで皇帝には進言した。
もう少し、側室との関係を持つよう勤めるべきだと話した。
彼は世継ぎ争いの余計な火種は作りたくはないと言いながらも、それでも籠の鳥になった妃達に子を成してやる事で後宮の様子も変わるかもしれないと最終的には芙艶の話に乗った。
そうして、劉妃のもとに皇子が産まれ
泉妃が第二子を身篭り、廟妃も続いて身篭った。
しかし、芙艶には懐妊の兆しは一切無かった。
廟妃が孕むと、皇帝はその目的を終えたかのように、再び泉妃のもと以外には通わなくなった。
もちろん芙艶のもとにも。
しかし子を成せなかった罪滅ぼしなのか、彼は皇后として芙艶をとても頼りにしてくれた。
泉妃にも、ほかの側室達にもない絆が彼との間にあるとさえ思えるほどだった。
だから芙艶はそれで満足する事にしたのだ。
そんな中、密かにある出来事が芙艶に起こった。
その晩は暑い日だった。
日中の暑さがようやく冷めてきた夜更け。その客人は突然芙艶の前に現れた。
案内の者もつけずに、突然芙艶の室にやってきたその女は自らを皇太后だと名乗った。
「元の後宮の長であった妾に、皇后であるソナタの挨拶がなかったのでなぁ。どんな礼儀知らずかと思って顔を見に来てやったのさ」
そう言った初老の女は、芙艶を観察するように眺め回した。
皇太后の事は、嫁いだ際に予め話には聞いていた。
幽閉状態で監視もついているはずなのに、ここにいるのはなぜなのか?嫌な予感に、じりりと一歩下がりたい気持ちを抑えて睨みつけた。
「ふん、大層な才媛と聞いたが、つまらなそうな女よ。興味が削がれたゆえ、宮に戻るわ」
一頻り芙艶を観察した皇太后は、嘲笑を浮かべて背を向ける。
「子も産めぬ皇后など、ただの駒に過ぎんつまらぬものよ。今そなたが見ている私は、未来のソナタの姿ぞ。退位してのち子のおらぬ皇太后など、使い終わった手拭いの如く打ち捨てられるもの。哀れよのう。」
クスクスと不気味に笑いながら、最後にその言葉を吐いて、彼女は中庭へ出て行った。
あまりに唐突で呆気なくいなくなったその姿を呆然と見送りながら、夢を見ているのだろうか?と首を傾けるほどに現実感のない一幕であった。
それなのに、言われた言葉は随分と深く深く芙艶の胸の奥に刺さり鋭く抉った。
それは、見ないようにしていた芙艶の恐怖を掻き立てるのには十分で、彼女の自尊心を大きく刺激した。
才も学も美も名誉も権力も全て手に入れたはずだった。完璧な皇女、そして完璧な皇后になったはずなのに……一番重要なものが自分には足りていないのだ。
しかしそれは自分だけの努力でどうにかなるものではない。
皇后の責を毅然と果たしながらも、時々その現実に苛まれ、鬱々と過ごす事が増えていた。
どれほど努力して皇后として勤め上げても、結局のところ自分の行く先は、皇太后として寄る方なく離宮で寂しく忘れ去られたように生涯を閉じるのみなのだ。
嫁いだ姉達の子供の成長の様子や懐妊の知らせの文をもらう度に、あれほど蔑んでいた彼女達の方が幸せそうで、充実しているように思えてしまって、それが余計に悔しかった。
あれほど努力したのに……こんなに優秀なのに……なぜ最後の子どもだけが手には入らない?
これでは、皇太后の言う通りになってしまう。
それだけは嫌だった。
物腰が柔らかく、穏やかそうな皇帝に「あなたの力が、必要なのだ。よろしく頼む」と手を取り言われて、芙艶は自信を込めて「お任せ下さい」と頷いた。
過ごす内に、後宮の様子も抱えている問題も理解できた。
皇帝には寵妃がいる事、そしてその他の側室には初夜以外全く皇帝の手がついていない事。それにより、清劉から嫁いだ皇女が随分とひどく寵妃に当たりちらしている事。それらを把握してため息を漏らした。
劉妃という同じ皇女出身の彼女は気位が高く、自身が蔑ろにされ、臣下の家出身の泉妃が寵愛を受けていることが、事の他許せない様子だった。更に自身が就くものと思っていた皇后の座を後から来た芙艶に掠め取られた事も気に入らないらしく、芙艶に対しても、当たりは強かった。
そしてもう1人の側室である廟妃も皇帝と泉妃の関係の深さには不満を呈していた。
それはそうである。
側室として嫁いでいるのに、皇帝の手がつかないのだ。子ももてず、大した役目もなくただ枯れて行くだけの人生など彼女達が満足するはずもない。
それについては、即位と婚礼の儀が終わり、落ち着いたところで皇帝には進言した。
もう少し、側室との関係を持つよう勤めるべきだと話した。
彼は世継ぎ争いの余計な火種は作りたくはないと言いながらも、それでも籠の鳥になった妃達に子を成してやる事で後宮の様子も変わるかもしれないと最終的には芙艶の話に乗った。
そうして、劉妃のもとに皇子が産まれ
泉妃が第二子を身篭り、廟妃も続いて身篭った。
しかし、芙艶には懐妊の兆しは一切無かった。
廟妃が孕むと、皇帝はその目的を終えたかのように、再び泉妃のもと以外には通わなくなった。
もちろん芙艶のもとにも。
しかし子を成せなかった罪滅ぼしなのか、彼は皇后として芙艶をとても頼りにしてくれた。
泉妃にも、ほかの側室達にもない絆が彼との間にあるとさえ思えるほどだった。
だから芙艶はそれで満足する事にしたのだ。
そんな中、密かにある出来事が芙艶に起こった。
その晩は暑い日だった。
日中の暑さがようやく冷めてきた夜更け。その客人は突然芙艶の前に現れた。
案内の者もつけずに、突然芙艶の室にやってきたその女は自らを皇太后だと名乗った。
「元の後宮の長であった妾に、皇后であるソナタの挨拶がなかったのでなぁ。どんな礼儀知らずかと思って顔を見に来てやったのさ」
そう言った初老の女は、芙艶を観察するように眺め回した。
皇太后の事は、嫁いだ際に予め話には聞いていた。
幽閉状態で監視もついているはずなのに、ここにいるのはなぜなのか?嫌な予感に、じりりと一歩下がりたい気持ちを抑えて睨みつけた。
「ふん、大層な才媛と聞いたが、つまらなそうな女よ。興味が削がれたゆえ、宮に戻るわ」
一頻り芙艶を観察した皇太后は、嘲笑を浮かべて背を向ける。
「子も産めぬ皇后など、ただの駒に過ぎんつまらぬものよ。今そなたが見ている私は、未来のソナタの姿ぞ。退位してのち子のおらぬ皇太后など、使い終わった手拭いの如く打ち捨てられるもの。哀れよのう。」
クスクスと不気味に笑いながら、最後にその言葉を吐いて、彼女は中庭へ出て行った。
あまりに唐突で呆気なくいなくなったその姿を呆然と見送りながら、夢を見ているのだろうか?と首を傾けるほどに現実感のない一幕であった。
それなのに、言われた言葉は随分と深く深く芙艶の胸の奥に刺さり鋭く抉った。
それは、見ないようにしていた芙艶の恐怖を掻き立てるのには十分で、彼女の自尊心を大きく刺激した。
才も学も美も名誉も権力も全て手に入れたはずだった。完璧な皇女、そして完璧な皇后になったはずなのに……一番重要なものが自分には足りていないのだ。
しかしそれは自分だけの努力でどうにかなるものではない。
皇后の責を毅然と果たしながらも、時々その現実に苛まれ、鬱々と過ごす事が増えていた。
どれほど努力して皇后として勤め上げても、結局のところ自分の行く先は、皇太后として寄る方なく離宮で寂しく忘れ去られたように生涯を閉じるのみなのだ。
嫁いだ姉達の子供の成長の様子や懐妊の知らせの文をもらう度に、あれほど蔑んでいた彼女達の方が幸せそうで、充実しているように思えてしまって、それが余計に悔しかった。
あれほど努力したのに……こんなに優秀なのに……なぜ最後の子どもだけが手には入らない?
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それだけは嫌だった。
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