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第10章 後宮
第403話 誕生
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その日は早々にやってきた。
「ん?あれ?」
起床して、身支度を整えていると、不意に翠玉が動きを止めて、やけにゆっくりとした動作で冬隼を窺い見た。
「どうした?」
不思議に思って首を傾ければ、彼女の顔が何かを迷っているような、戸惑っているような微妙な表情をしている。
そして、
「出ちゃったみたい」
そう言って複雑そうな顔で床を指差すので、視線を向ければ、翠玉の足元に、小さな水溜りが出来ているではないか。
それが何かは、お産に対する知識が乏しい冬隼でも理解できた。
「破水か!」
「そうっぽい……とりあえず陽香に伝えて、医者を呼んでくれる?」
そう言われるや否や冬隼は走り出していた。
いよいよその時が来たのである。
そこからは目まぐるしかった。
すぐに翠玉は別室に移され、医師の診察を受け、お産の準備が始まった。
こうなれば冬隼の出番は無く、部屋を追い出され、別室にて待機するしかない。
時折漏れ聞こえてくる翠玉の呻き声や叫び声が痛々しくて、ただただ拳を握ってじっと座しているしかなかった。念のため仕事も持ち込んではいたが、そんなもの捗るはずもない。
高かった日が落ちて、夜になり夕餉が用意されたが、味を感じることもなく、ただただ部屋の中をうろうろするしか出来なかった。
「報告を、と思いましたが……お生まれになってからでないと、きっと頭に入りませんね」
業務を任せていた泰誠が報告にやってきて、あまりにも落ち着かない冬隼を見て苦笑する。
そうして夜が更けて行き、待ちわびた産声が上がったのは、空が白み始めた頃だった。
微かに聞こえた「ふぎゃぁ」と言う鳴き声と、ワッと人が沸く声に顔を上げて、いても立ってもいられずに部屋を出た。
回廊を歩いていけば、すぐに報告に向かってきた桜季と遭遇する。
冬隼の姿を見るなり、彼女は膝を折って頭を下げた。
「おめでとうございます。姫様にございます」
「そうか!」
桜季に軽く労いの言葉をかけて、そのまま足を進める。
部屋に入れば、赤子は綺麗に清められているところで、翠玉はグッタリとしながら天を見上げ放心していた。
「翠玉!よくやったな!大丈夫か?」
側によって声をかければ、彼女はハァハァと荒い息の中で、「あぁ、終わった……やっと終わった……」と宙を見上げて呆然と呟いた。
側にあった手拭いで汗を拭いてやると翠玉はゆっくり目を閉じた。丸一日戦い抜いたのだ、無理もない。
「少し休め」
そう声をかければ、彼女はゆっくりうなずいて、額を撫でてやればすうすうと規則正しい寝息が聞こえ始めた。
「旦那様、お抱きになりますか?」
眠りについた翠玉の汗を拭い、その顔を眺めていると、清められた赤子を抱いた陽香が側にやってきた。
恐る恐る小さな布に包まれたものを受け取る。
それはとても軽くて小さくて、儚くて愛おしい存在で、冬隼は言葉を失う。
つっと頬を伝うものを感じながら
ただただ静かに、生まれたばかりの我が子を見下ろしてその存在を噛みしめた。
「ん?あれ?」
起床して、身支度を整えていると、不意に翠玉が動きを止めて、やけにゆっくりとした動作で冬隼を窺い見た。
「どうした?」
不思議に思って首を傾ければ、彼女の顔が何かを迷っているような、戸惑っているような微妙な表情をしている。
そして、
「出ちゃったみたい」
そう言って複雑そうな顔で床を指差すので、視線を向ければ、翠玉の足元に、小さな水溜りが出来ているではないか。
それが何かは、お産に対する知識が乏しい冬隼でも理解できた。
「破水か!」
「そうっぽい……とりあえず陽香に伝えて、医者を呼んでくれる?」
そう言われるや否や冬隼は走り出していた。
いよいよその時が来たのである。
そこからは目まぐるしかった。
すぐに翠玉は別室に移され、医師の診察を受け、お産の準備が始まった。
こうなれば冬隼の出番は無く、部屋を追い出され、別室にて待機するしかない。
時折漏れ聞こえてくる翠玉の呻き声や叫び声が痛々しくて、ただただ拳を握ってじっと座しているしかなかった。念のため仕事も持ち込んではいたが、そんなもの捗るはずもない。
高かった日が落ちて、夜になり夕餉が用意されたが、味を感じることもなく、ただただ部屋の中をうろうろするしか出来なかった。
「報告を、と思いましたが……お生まれになってからでないと、きっと頭に入りませんね」
業務を任せていた泰誠が報告にやってきて、あまりにも落ち着かない冬隼を見て苦笑する。
そうして夜が更けて行き、待ちわびた産声が上がったのは、空が白み始めた頃だった。
微かに聞こえた「ふぎゃぁ」と言う鳴き声と、ワッと人が沸く声に顔を上げて、いても立ってもいられずに部屋を出た。
回廊を歩いていけば、すぐに報告に向かってきた桜季と遭遇する。
冬隼の姿を見るなり、彼女は膝を折って頭を下げた。
「おめでとうございます。姫様にございます」
「そうか!」
桜季に軽く労いの言葉をかけて、そのまま足を進める。
部屋に入れば、赤子は綺麗に清められているところで、翠玉はグッタリとしながら天を見上げ放心していた。
「翠玉!よくやったな!大丈夫か?」
側によって声をかければ、彼女はハァハァと荒い息の中で、「あぁ、終わった……やっと終わった……」と宙を見上げて呆然と呟いた。
側にあった手拭いで汗を拭いてやると翠玉はゆっくり目を閉じた。丸一日戦い抜いたのだ、無理もない。
「少し休め」
そう声をかければ、彼女はゆっくりうなずいて、額を撫でてやればすうすうと規則正しい寝息が聞こえ始めた。
「旦那様、お抱きになりますか?」
眠りについた翠玉の汗を拭い、その顔を眺めていると、清められた赤子を抱いた陽香が側にやってきた。
恐る恐る小さな布に包まれたものを受け取る。
それはとても軽くて小さくて、儚くて愛おしい存在で、冬隼は言葉を失う。
つっと頬を伝うものを感じながら
ただただ静かに、生まれたばかりの我が子を見下ろしてその存在を噛みしめた。
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