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番外編
姉妹② 回想
しおりを挟む結局その晩は散々呑んで、姉妹で過ごす最後の夜は更けていった。
明け方過ぎに布団にもぐりこんだ華南は懐かしい夢を見た。
幼い頃の夢だったと思う。
華南の父の生家は代々禁軍の厩守の仕事についていて父はその家の長子だった。
当然次の代には父が跡を継ぐものとされていたのだが、どうやら父は馬という生き物と絶望的に相性が悪かったらしい。
結局、跡を継いだのは父の弟だった。その決定が下ったのは華南が生まれた頃だったという。
自暴自棄になった父は、酒と賭博に溺れ、母や華南と、華南の姉に当った。
華南の記憶にある姉は、華南とよく似ていたという事だけしか記憶にないし、母はいつも父に殴られていたことしか覚えていない。
李梨が生まれて、母が体調を崩し、数年で亡くなると父の生活の荒れ具合はますますひどくなった。
家に数日戻って来ないこともざらで、ひどいときには金貸しが父のいない、子供だけが残された家の扉を夜通し叩くこともあった。
まだ小さくて恐怖と空腹で泣く李梨を抱えて、姉と肩を寄せ合って過ごした。
そんな姉妹に手を差し伸べてくれたのが、叔父の妻で挫昩の母である叔母だった。
彼女は父のいない隙を狙って、腹を空かせた華南達によく食事を運んでくれていたのだ。
そんな叔母のおかげで華南達は何とか生き延びていた。
そんなある日、父が珍しく上機嫌で家に帰ってきた。
そうして彼は姉を呼ぶと、怖がる彼女の手を引いて出ていってしまった。
それから姉が帰ってくる事はなかった。
後から知った話では、賭博での借金が膨れ上がった父が、姉を身売りに出したというのだ。
叔父と叔母が気づいて探した時にはすでに姉の行方は分からなくなっていたらしい。
それから父は酔うと事あるごとに、華南と李梨にこういった。
「お前たちも、ねぇねみたいに美人に育てよ。高くていい見世に売ってやるからよぉ」
当時はその意味なんて分からなかったから、よくわかりもせず頷いていたが、今思えばゾッとする話である。
思えば父は酔って暴れはしたが、華南と李梨に手を上げることはなかった。
ようやく華南に父の言葉の意味と意図が分かり始めた頃、父が突然死んだ。
どうやら賭博の中でいざこざを起こし、暴行の末、川に投げ込まれたのだという。
その頃の事は華南にはあまり記憶がない。とにかく叔父夫婦がいろいろと手配してくれて、華南と李梨は叔父の家に引き取られ、挫昩の兄弟達と育つこととなった。
平和な日常がやってきた。
普通の子供は食事を日に3回食べる事や、毎朝着替えて、夜には体を清めることをその時知った。
叔父の手伝いで馬の世話をして、軍の施設に出入りするようになると、馬に乗り、剣を持つようになった。そして禁軍に入隊して、隆蒼達と出会った。
心のどこかで父のような男の、いいようになってたまるものかという思いもあったのかもしれない。
男に負けない力を手に入れなければと鍛錬すれば、その才覚があったのか、めきめきと上達した。
しかしそれと同時に、なぜか男に精神的に依存することも増えた。どこかで男の思い通りになるものかと思いながら、男に振り回されることに安らぎを覚えてもいたのだと思う。
そして、男に愛されたい大切にされたいという相反する思いを抱えながらも、何度も傷ついてそしてまた新しい恋に心を癒した。
それが虚しい行為だったのだと感じたのは、翠玉と冬隼のじれったいほどに互いに思い合う心を知った時だった。
自分が求めていたのは、冬隼のように相手を認めてくれて、過保護なくらいに大切に思ってくれるような相手で、翠玉のように相手の隣に立って一緒に歩いて行けるような女でいることではないのだろうかと、気づいてしまったのだ。
そう思ったら、自分の側に常に並んでいてくれた隆蒼は、とても尊い存在なのではないかと思ったのだ。おそらく深層心理では……。自分が鈍かったのか気づかないようにしていたのかは分からないけれど、結局彼が死ぬかもしれないという段になってやっと自覚したのだ。
パチリと目を覚まして、辺りを見回すと、まだ部屋の中は薄明るくて、隣の寝台で眠る李梨の規則正しい寝息が聞こえた。
新婚生活一日目となる朝に、なんて夢を見てしまったのだと思わずため息をこぼす。
この家を、出るからなのかもしれないわね、
布団を肩まで掛け直して自嘲する。
この家は……正確にはこの家があった場所は、父が死ぬまで住んでいた場所なのだ。それを華南が禁軍に入った折に建て直したもので、今は李梨が一人で暮らしていた。
なんでこの場所に家を建て直したのか、ただ父の実家である宗家の土地だったからなのかもしれない。
もう十数年も前の話だから、その時の心情はよく思い出せないけれど、理由の一つに姉の存在があったのかもしれない。
もう顔も名前も覚えていない姉。多分父の手を引かれて彼女がいなくなったのは姉が10歳になるかどうかだろう。華南は5歳くらいで李梨は2歳くらいだった。正直、華南の記憶の中だけでは姉が本当に実在したのかすら怪しい。
はるか昔、叔父叔母に姉の行方を尋ねた時に、彼らが沈痛な表情で首を横に振ったので、あぁやっはり姉という存在がいたのだと確認しただけだった。
ただ、眠る時や空腹で泣きじゃくっている時に優しくトントンと背中を叩くリズムとぬくもりがなんとなく記憶にあるだけで、それも母のものだったのかもしれないとさえ思うのだ。
その姉が、何かの拍子に生家を思い出すかもしれない、もしかしたら会いに来るかもしれないそんな淡い期待が、どこかにあったのだろうか。
しかしよく考えてみれば、自分を捨てた父親になんて会いたいとすら思わないに決まっているのだ。
まして父が死んだことを彼女は知らない。
あんな屑な男に積極的に接触をもとうとなんて思わないだろう。
生きていれば、30代に乗った頃だろう、彼女はどこで何をしているのだろうか……そして華南達の事をどう思っているのだろうか。
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