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番外編
姉妹⑨見えてきたもの
「とりあえず、お前の言う素人童貞らしくないと言うのは、この事があっての事だと思うのだが……」
気まずい思いで、とりあえず事の経緯を話し終えてチラリと華南を見ると、何故だか華南は呆然としながら、ゆっくりと肩で呼吸をしていた。
どこかショックを受けたその様子に隆蒼は、いくら彼女が望んだ事とは言え、話すべきでは無かっただろうか……と後悔する。
そりゃあ、昔のこととは言え、旦那が自分に重ねて妓女を抱いていて、その妓女から伝授された事を自分に活用されていたと知ったら、気分は良くはないに決まっている。
「華南……すまん」
そう詫びて、華南の肩を包んで引き寄せようとすると、グッと抵抗するように突っ張られた。
あぁ拒否されたのだと、理解してもう一度ごめん、と謝ろうとしたところで、華南が顔を上げて隆蒼に迫ってきた。
「ねぇ……それで! その杏って妓女はどうなったの!? 今はどこにいるか知ってる!?」
噛み付かんばかりの勢いで、矢継ぎ早に聞いてくる華南の様子は鬼気迫っていて、何事かと隆蒼は目を丸くする。
なんだか自分の予想している反応と違うのだ。
「どうしたんだ?」
慌てて華南の肩を包み直して、彼女の瞳を覗き込めば彼女は長い睫毛に覆われた形のいい瞳から、ポロポロと涙を零した。
「ねぇさんかもしれないの!私と李梨の!!」
「ねぇさん?」
突然出てきた話に首を傾げる。
隆蒼の知る限り、華南は両親を早くに亡くして李梨と二人だけの姉妹だったはずだ。姉の話など聞いたことがない。
というより、華南は李梨以外の家族の話を頑なにしようとしないので、あまりその話を聞いたことがない。父親が最低な屑で喧嘩の末死んだという事を、昔一度だけ酔って話したことはあったが、姉がいたというのか。
杏の顔を思い出す。彼女に最後に会ったのは2年以上前だった。たしかに、華南と姉妹だと言われたら納得できるほどに似ていた。
ならばもしかして……杏が隆蒼に酒を飲ませて華南の話を聞きたがったのも、隆蒼に幸せになってほしいと言ったのも、隆蒼が思う人と幸せになるために彼女なりの何かをしたかったのも……
隆蒼の言う華南が自分の妹だと分かっていたからなのだろう。
隆蒼は禁軍に所属していて王都から柵州に来たことも話していたし、華南と歳も一緒で、何より隆蒼は華南を同期と説明していた。
華南の実家は代々禁軍の厩を守っている。妹がその影響で禁軍に所属していてもなんら不自然ではないのだ。
だからきっと隆蒼がぽつりと漏らした「かなん」という名前にも彼女は反応したのだ。
そう考えると杏の行動一つ一つが繋がっていく。
そう思ったら隆蒼は、華南の身体をぎゅっと抱きしめる。今度は抵抗されることはなかった。
「杏は……そのすぐ後に年季が明けて見世を出たよ。あれがどうやら彼女なりのお別れだったらしい」
落ち着くようにゆっくりとその背を撫でてやると、ぎゅうっと華南が身を寄せてきた。
「結婚するんだって言ってた。情夫がいてずっと年季が明けるのを待っていてくれているんだって言ってたから、きっと今は幸せにやってると思う」
だから、大丈夫だ……と耳元でささやいてやれば、コクリコクリと華南は頷いて、肩を震わせた。
「本当はこんな事、お客さんに言っちゃだめなんだけど、隆蒼は特別!」とこれからの話を打ち明けた杏は、いたずらめいた笑みを浮かべて笑った。
あの特別は、そういう事だったのかと今ようやく理解ができた。
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