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4章

5(ブラッド視点)

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「いたな」

「あぁ、あんなとこに待ち伏せてやがった」

王太子を部屋に送り、交代要員と引き継ぎを終えるとヴィンと2人で宿舎へ戻ることにした。


「彼女も気づいてしまったかぁ」

「あぁ、真っ青だった」

あの血の気の引いた顔を見た瞬間、胸の奥を握り潰されたような痛みを感じだ。そして次に沸いたのは、彼女の兄、トランに対する怒りだった。

「しかしいよいよ異常じゃないか?
普通あそこまで妹に執着しないだろう。
俺は、興味ないぞ!」

妹がいるヴィンは考えられないと眉を寄せる。特別仲は悪くないようだが、やはり兄妹の距離感はそんなものであろう。

「最近のやつの様子を聞いた方がいいかもな」

ボソッと呟くと

「実家?」
すぐにヴィンは首を傾けた。

「あぁ丁度、母がこちらの別邸に来ているから、顔を見に行きがてら。明日ならまだ兄夫婦もいるみたいだし」

幸い明日の午前は非番だ。母の機嫌もとれるし一石二鳥である。


宿舎に到着すると、そこは何時もに増して賑やかだった。

今日で大きな公式行事が終了したため、王太子宮の近衛たちにも祝酒が振る舞われているのだ。

賑やかな舎内を突っ切って、騎士にあてがわれた区画に向かうと、その区画でもなにやら騒がしくしている一団を見つけて、2人で息を吐く。

「お!特任騎士様お二人のお帰りだぁ!」

そう言って絡んでくるのは同じ騎士で同期のターナーだ。2人を捕まえると、さぁさぁと背中を押して、輪の中に座らせる。

「一番の功労者達無くして飲めないからな!待っていたんだぞ!」

「お前その割に、随分酔っているじゃないか」

「なにこんな程度、まだまだいけるぞオレは!」

「いや、お前弱いだろ。今日は膝貸さないからな!」

他の者たちからドッと笑いが起こる。

ターナー、彼は酒に弱い上、酔うと誰かにベタベタと甘える気色悪い性質を持つのだ。

前回の飲み会の時には、潰れた彼がなぜかブラッドの太ももに執着を見せて、膝枕をさせた上その膝の筋肉を堪能するようにさわさわと撫で続けられたのだ。

今思い出しても鳥肌が立つ。


やいのやいの言いながら、それでも久しぶりの酒は美味しくて、明日の午前が非番なのもあり、つい酒が進んだ。

「なぁ、妃殿下のお付きのアリシア嬢ってさ、美人じゃね?」

騒ぎ立てる輪の中で、誰かがふと言った言葉に、一部の者の興味が集まった。

「分かる!妃殿下も高貴な美しさをお持ちだけど、アリシア嬢はなんていうか、可愛らしさが大人になろうとしているようなそんなたまらない何かがあるよな」

「分かる!なんていうか、影がある感じ!」


口々に彼女の話をする彼等の話に、少し離れた輪の中から、つい耳をそばだてる。

「たまらないよな、あと1.2年したら更にグッといい女になるだろうなぁ」

「婚約者とかいるのかな」

「バーカ!いたらこんな時期に王宮勤めなんてするかよ。あんな美人がもったいない。おれが貴族ならほっとかないのに」

「いやそれが狙いかも!殿下や妃殿下に侍っていれば多くの貴族の男の目に止まるわけだし」


スッと酒が抜けていくのが分かった。

隣のヴィンが、チラリと気遣わしげにこちらを見るのを無視して、彼等の会話になおも耳を傾け続ける。


「じゃあ、お姿を拝見できるのも1.2年かぁ。久しぶりに心の潤い見つけたのになぁ」

「でも彼女の実家ってあんまり評判よくないんだろう。カロガンダのウェルシモンズって確か、、、」

彼らは皆一様にして宙を見上げる。頭の中で地図を展開しているのだろう。士官学校で地理は習うはずである。

そして、酔ってこんな話をしていても実は優秀な彼等は、ウェルシモンズ伯爵が治めるカロガンダがどこであるのかを知った直後、あることに思い至るのだ。


みなの視線が、恐る恐るこちらに向く。


自分は随分と、冷ややかな視線を彼等に送っていたであろう。

「ブラッド、、、まさか」

「彼女に邪な目を向ける奴は叩き切るぞ」

士官学校時代からの同期も多いこの一団の中では、自分が卒業間近にして幼なじみの婚約者に振られたのは有名な話である。


カチリと腰の剣を鞘から浮かせると、彼等は慌て慄く。


「すんませんでした」

「エロい目でみてごめんなさい」

「惚れかけてましたごめんなさい」

それぞれが慌てて頭を下げる。

半分酔っ払いの集団である。それを見た他の輪からは、なんだなんだ?もっとやれ!と歓声が上がる。

その場の空気を察して、流石にこれ以上はとカチリと剣を戻すと息を吐いて座り直す。


とりあえずこれで、彼等を牽制することは出来ただろう。

騎士である以上、妃殿下付きの彼女を警護する事もある彼等に邪な思いを持たれていたのでは安心して任せられない。

常に付いていられない以上、彼等に守ってもらわねばならぬ場合もあるのだ。

それが同期の思い人であるならば、実は情に厚い彼等はしっかりと守ってくれるだろう。
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