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1章

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紺碧の海を望む、国交盛んな貿易国家であるクイニー王国。

王制が始まって約500年、およそ200年前からは議会制も取り入れて、比較的安定した国家を形成している。


そんな我が国にも、水面下で派閥争いは日々繰り広げられている。


現在ある派閥は大きく分けて2つ、私の父や陛下のお母上の王妃様の生家である公爵家が所属する穏健派と、現王太子殿下のお母上である公妃殿下のご生家が所属されている革新派だ。


どちらも国を良き方向へという思いは同じながら、この二つの派閥は長年相入れない。
長い間、議会や王制はこの二つの派閥の力関係により、様々な変遷をとげてきた。

その中で
近頃革新派の中にしばしば過激な思想をもつ貴族や議員が散見されるようになって来た。

少しでも均衡が崩れて革新派を増長させてしまえば、革命が起こる危険性がある。


だから、先王も穏健派から王妃を選び、そして当時随分と活発であった革新派の不満を取り除くために公妃をそちらの派閥から選んだ。

そうなれば、次はどちらの妃が王子を、後の国王を産むのかが焦点となった。

国の安寧を考えれば、穏健派出身の王妃が王子を先に産むことが、何よりだ。

先に懐妊をしたのが、陛下とジェイドの母上である現王太后陛下だった。
そして、半年の後に公妃も懐妊した。

その後に第1子として産まれたのが、ユリウス陛下

そして、半年の後に産まれてたのは、現王太子殿下である。アースラン殿下だった。

はからずして、上手くまとまった事に、皆が胸を撫で下ろして、今現在もふたつの派閥は均衡を保っている。

それによって民の生活も、平穏に送られている。

それが、私がお妃教育で習った事だ



「おん、、女?、、、陛下、女性でいらっしゃるの?」


唖然としながら、何度も陛下の顔とその豊かなお胸を見比べる。


いやいや、まてまて、ちょっとついていけない。

世の中にこんなカッコいい女性がいるのだろうか?

だって陛下はいつも、キリリと男らしくて、美しくて、そして剣の腕も素晴らしくて、猛々しい一面もお持ちで、、、、

でも、今目の前にいるのは、間違いなく陛下その人で、そして艶かしいお身体と、共に視界に入れれば、凛々しいお顔の女性なのだ

そう言えば、第1騎師団に、貴族の御令嬢ながら男顔負けの麗しい女剣士の方がいると、聞いたことがある。

剣術、馬術、仁戦術、すべてに秀でて、男性顔負けのご活躍だとか

一部の令嬢達が、男装の麗人、下手な男に嫁ぐくらいなら一生を親衛隊として彼女を愛でて過ごしたいと、騒ぐほどだという


陛下もその類なの!?


ついじっと陛下を見上げる。

たしかに、男らしくて凛々しいと思っていた殿下の美しいお顔だけれど、もともとがお母上である王太后陛下に似ているせいもあってどこか中性的な顔立ちで、、、凛々しい女性といわれれば、確かにそう見えてもおかしくなくて


「急にいわれても受け入れられないだろうけど」

私の不躾な視線を受け止めた、彼、いや彼女は困ったように少しだけ微笑んで、私の頭の中が整理できるまで待ってくれているようだ。

優しい方だから、きっと随分悩まれてこの場に臨んだに違いない。

陛下がどうして性別を偽っているのか、その理由には私も心当たりがある。

だから、ここで私が取り乱して陛下をなじる気にはなれなかった。

むしろ


「大変な、ご苦労をされてきたのですね」


背筋を伸ばして、しっかりと陛下を見据えた。

貴族令嬢、いや王妃としての顔で。


「アルマ、すまない。これは王家のそして中枢の都合によって君が犠牲になる事になってしまった。本当にすまない、しかし誰かがこの役目を担わなければならなかった。そうであるなら、幼い頃から妹のように思っていた君以上に信頼出来る者はいない。だからどうか協力してほしい。」


キュッと陛下が私の手を握る。

この人は、本当にお優しい。
私の事を犠牲にする事を真摯に詫びているけれど


本当の犠牲者は陛下ご自身だ。


「中枢の?ということは父は知っていたのですね?」

私の言葉に陛下は、複雑な笑みを浮かべる。

「ブランシェス卿は初めから知っていたわけではないよ。君と結婚が決まってから、私と父から話した」


「父はなんと?」

「君には王妃にふさわしい教育を十分施した。侯爵家に生まれた自身の役割はよく分かっているはずだから、時間はかかるかもしれないがきちんと理解するだろう、と」
 

まぁそうだろうなと、苦笑する。

潔癖な父様は、昔から侯爵家の役割について、口煩く私達に教育をしていた。
それ以外には、随分と寛容で、甘い方だったけれど。


「君の恋心を、それを利用する形になってしまったことは詫びてやってほしいと、、、」

「やだ、父様ったら」

かぁっと顔が熱くなる。
確かに私の陛下への好意は誰もが知るところであったけれど、、、

こうも面と向かって言われると、恥ずかしすぎる。


「本当にすまない。ただ私が君の事を妹のように可愛く思って愛しいのは本当なんだ、愛の形は違えど、君を大切にすることを誓う」

まるで愛を囁くように陛下は真剣な面持ちで私をみつめる

やばい、女性と分かっていても、麗しすぎて胸の高鳴りが止められない。

第1騎士団の麗人に入れあげる御令嬢方のお気持ちがなんとなく分かるかもしれない。


「ありがとうございます陛下、、、その、及ばずながら、精一杯お支えさせて頂きますわ」

国王が性別を偽っている、、、王制を揺るがすほどのタブーを知ってしまった以上、私にできる選択肢はそれしかない。

もし陛下の秘事がバレてしまったら、間違いなく革命が起きる。そして、500年の王制は倒れるだろう。
国は荒れ、他国の侵攻を誘う。そうなれば犠牲になるのは何の罪のない民達だ。

それだけは、あってはならない。

陛下を見上げると、彼女は少し驚いたように目を丸めて、そして破顔した。

「本当に君は賢くて、素晴らしい人だね」
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