ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴

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兎と狼 第2部

第100話 紋章は永遠に

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 坂東先輩が一ノ瀬先輩をゲームに誘った。ただ、一ノ瀬先輩はかなり抵抗があるような顔をみせた。俺は坂東先輩に従ってよかったのかを自問自答した。澪は昨日のバトルの疲労というか、紋章の使い過ぎでぐったりとしている。
 まだ、食堂にはざわめきが目立っていた。どの場所からも、俺と一ノ瀬先輩が付き合ってて、坂東先輩がそれを見守ってるように見えるらしい。別にそれも間違いではないけど、少し気分が落ち着かない。

「で、美玲。どうなのよ?」
「う、うん。アカウント。もう作ってある。ただまだ遊んでない。なかなか勇気が出なくて……」
「そう……。じゃあおすすめのアイドルユニットを教えてあげるわ。そのユニット意外といい曲歌ってるのよ」
「アイドルユニット。ですか……」

 一ノ瀬先輩がが疑問に感じたようだ。坂東先輩の踏み込みの仕方にも少し雑な感じがある。それに続くように、彼女はスマホを取り出して何かを調べ始めた。その画面には、昨日も見た――というよりも昨日初めて知ったアイドルユニットのウィキペディアが映し出されている。

「ミラクル・ルミナス。翔斗が入ってるギルドのメンバーがいるユニットよ」
「わかりました。あとで調べてみます」
「有栖。タメ口でいいわよ」
「じゃ、じゃあ……」
「ま、それはゆっくりでもいいわ」

 そうして、お昼休みは終わった。俺は午後の授業と部活をしたあと、結人さんから呼び出しをもらったので、魔法具を使って景斗さんの自宅に向かう。そこにはもうすでにギルドメンバー全員が集合していた。
 その中には初めて見る顔ぶれもあった。ポニーテールのラミアさんとツインテールのファリナさんだ。これで現実世界・ゲーム内両方でギルドメンバー全員と会うことができた。俺は結人さんに連れられて、彼の部屋へと向かう。
 そこには、また見たことのないものが置かれていた。どうやら人形らしい。これをいったいどういう風に使うのか? それは俺でも予想できた。きっと、その人形に澪の意識を憑依させるのだろう。
 それが本当にできるのならしてもらいたいけど、澪は俺の紋章の中だけの存在だ。きっと難しいに決まってる。だけど、結人さんはまた紙を取り出してそこに澪の名前を書いた。そこに、俺の血液を付着させるだけでいいと言われたので、指の腹に針を刺して紙に着ける。
 すると結人さんは人形にエンチャントさせた。首を垂らした人形がゆっくりと動き始める。そして、口元がかすかに動いた。この人形はただの人形ではないらしい。

「み……お……?」
「う、うぅん……」
「澪!」
「お、兄ちゃん……。ここは……どこ?」
「結人さんの家だ。それより本当に澪なのか!?」

 澪の意識が乗り移った人形はゆらゆらと、ぐらぐらと身体を揺らしながらゆっくりと歩いてくる。とても怖い現象だけど、それでも嬉しさがあった。

「澪!」
「翔斗お兄ちゃん……。あれ。なんで……。身体がある……」
「それは結人さんが澪のために作った人形だ。これからその人形が澪のよりどころになるんだ!」
「ほんと? ぼく。ママにもパパにも会えるの?」
「それは……」
「今は無理だね」
「「結人さん!?」」

 この言葉に涙も流せない澪が悲しい表情をした。それもそのはず、澪はまだ子供の意識のままなのだから。すぐに親に会いたい気持はわかる。だけど、それにも準備というものがある。ここは我慢してもらうしかない。
 だけど、一番状況を飲み込み切れてないのはやはり澪の方だった。そのままひざまずき、余計に泣きそうな顔になった。

「今の澪くんが使ってる人形はまだ試験段階。僕たちみたいな人とは遠くかけ離れた姿だ。澪くんは泣きたいんだよね。だけど、その人形には涙の要素はない。それが、まだ親と会えない理由だよ」
「じゃあ、ぼくを本物の人にできないの?」
「今は……。ただ、最中涙の要素のあるものも完成する。まあ、これは一夜クオリティだから、要所要所上手くいってない部分があるけど」

 澪の表情が明るくなった。どうやらしっかり理解したらしい。人形を使った澪とは一旦お別れすることになった。彼の記憶は俺の紋章と連動しているようなので、こちらも安心だ。
 俺は家に帰ると、すぐにベッドに寝転んだ。そして、そのまま眠りに落ちた。

「澪いるか?」
「いるよ」
「昨日はお疲れ様」
「お兄ちゃんこそお疲れ様」

 これがいつかは自宅でできる。だけど、その前に俺の方でもやらないといけないことがある。それは両親に澪のことを思い出してもらうこと。何も知らない親が会ったら、種が明かされたら人形の身体の澪は偽物だと思われる。
 そんなことにはしたくない。俺はそう考えながら澪とハエトリグサ戦の後日談を話した。彼もものすごく楽しそうに俺の話を聞いてくれた。もちろん俺も澪の結人さん自慢を聞いた。人形に意識を移動させた時。自分の目で俺の顔を見た時。他にもいろいろ教えてくれた。
 澪は本当に結人さんのことが好きなんだと思った。もう、手放したくない。離れたくない。そんな感情が腹の底からこみ上げてくる。
 そう、この紋章は俺と澪を繋ぐ道しるべだ、俺の紋章よ。永遠にこのまま……。
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