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あひん
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「するべきじゃないんだ、どう考えても。するべきじゃないんだが……」
俺はシーツに包まって寝ている勇者の方に目をやった。指先で彼女の膿が分解されていく。ひどい毒だった。
「目が覚めたらなんて思われるのかねえ」
今の社会的状況を考えるとめっちゃ怖い。裸の少女とおっさん。これでワンアウト。で、その少女は裏切ったと目される勇者だ。ツーアウト。それに加えて、俺は今からこの少女を助けようとしている。ああ、あっという間にスリーアウトで攻守交代だ。
殺されないこと。まずはこれが最優先だ。だったら今すぐに逃げ出せばいいと言われたらその通り。しかし、俺にはもう彼女を助けないという選択肢はなかった。もしかすると、メモでも置いておけば敵意がないことは分かるかもしれない……でも縛り付けてたら読めないな。目を覚ました後の対処も問題だ。
仮に解毒がうまくいって、すぐに殺されるわけではなかったとして、そういう時に俺がどういうキャラクターでいけばいいのかまるで分からなかった。色んな作品を読んであれこれ言ったことはあるが、いざ自分がそういう状況に置かれたら何も出てこない。歴代の主人公たちよ、生意気言って申し訳なかった。謝るから代わってくれねえかな。さすがに無理か。
俺は結局紐をほどいて、何も知らずに普通に看病しましたよ、というポーズをとることにした。俺は勇者なんて知らないし、街のニュースに疎いからそいつが裏切ったことも知らない。スカイウォーカー時代、実は一回だけギルドで会ったことがないでもないが、まさか相手もそんな細かいことまで覚えてはいまい。
解毒の準備をしよう。普通の解毒スキルや治癒スキルのような疲労感がないのが救いだが、代わりにトロトロと全身の筋肉から力が抜けていくような感じがするのだ。この俺、ギデオン・シルバーハートのスキルは、毒を吸収して快楽物質に変換するってもんだ。変なスキルだと思うかもしれない。だとしても、これでも結構バカにならない数の命を救ってきたと自負している。
周りからは普通の治癒スキルと勘違いされて、一目置かれたのは良い思い出だ。あいつは我慢強いとか男らしいとか言われるのは悪い気分じゃない。
腕をまくり、机の上にメモを書き残す。
「森の中で倒れているところを見つけ……えー、できれば恩を感じさせる感動的な文章に……」
"アンタが森の中で酷いケガをして倒れてたんで、一応俺の家まで運ばせてもらった。混乱させてたら申し訳ない。
で、幸い俺は治癒スキル持ちだ。一応治癒をやってみるが、だいぶ重い毒にかかってるみたいだから、もしかすると俺はベッドの側に倒れてるかもしれん。まあ気にしないでくれ。踏んづけなければそれでいいさ。
外に子狼がいるが、そいつは俺がテイムした奴だから安心してくれ。机の上にレモネードを置いておく。もしアンタが無事に目を覚ましたら飲んでくれ。かなり美味いし、元気が出るはずだ。ま、別に飲まなくたっていい。
アンタが何者かは分からないが、とりあえず無事を祈る。 頑張れ。 G.H."
しばらく書いて、結局こうなった。あまりうまくできなかったが、無いよりはマシだろう。子狼が邪魔をしてくるので外にリードを繋いでおいた。そして、極めつけに本当にレモネードを置いておく。実はローランドール一家が送ってきたやつだが、これが本当にうまい。少しはご機嫌を取れるはずだ。
均整の取れた顔の中で唇が時折かすかに動き、シーツの下では真っ白な胸が不規則に上下している。俺がベッドに目を移しても、依然として勇者が目を覚ます気配はなかった。毒が進行していない辺りは流石の回復力だが、逆に言えばこれほどの自然治癒力でも快方に向かわない毒ってことだ。勇者がどういう道のりを辿ってここまで来たのかは分からないが、相当苦労したのだろう。俺は勇者の顔にかかるきれいな茶色の前髪を優しく払いのけると、体の方にある傷口に手を伸ばした。
「大丈夫。俺はやれる。こいつは悪い奴じゃない、みんな無事だ……」
手のひらに感覚を集中し、ゆっくりと指を這わせるようにして傷口に触れて毒を吸収し――
「あひん」
――俺はすごく情けない声を挙げながら想像を絶する快楽に失神した。
俺はシーツに包まって寝ている勇者の方に目をやった。指先で彼女の膿が分解されていく。ひどい毒だった。
「目が覚めたらなんて思われるのかねえ」
今の社会的状況を考えるとめっちゃ怖い。裸の少女とおっさん。これでワンアウト。で、その少女は裏切ったと目される勇者だ。ツーアウト。それに加えて、俺は今からこの少女を助けようとしている。ああ、あっという間にスリーアウトで攻守交代だ。
殺されないこと。まずはこれが最優先だ。だったら今すぐに逃げ出せばいいと言われたらその通り。しかし、俺にはもう彼女を助けないという選択肢はなかった。もしかすると、メモでも置いておけば敵意がないことは分かるかもしれない……でも縛り付けてたら読めないな。目を覚ました後の対処も問題だ。
仮に解毒がうまくいって、すぐに殺されるわけではなかったとして、そういう時に俺がどういうキャラクターでいけばいいのかまるで分からなかった。色んな作品を読んであれこれ言ったことはあるが、いざ自分がそういう状況に置かれたら何も出てこない。歴代の主人公たちよ、生意気言って申し訳なかった。謝るから代わってくれねえかな。さすがに無理か。
俺は結局紐をほどいて、何も知らずに普通に看病しましたよ、というポーズをとることにした。俺は勇者なんて知らないし、街のニュースに疎いからそいつが裏切ったことも知らない。スカイウォーカー時代、実は一回だけギルドで会ったことがないでもないが、まさか相手もそんな細かいことまで覚えてはいまい。
解毒の準備をしよう。普通の解毒スキルや治癒スキルのような疲労感がないのが救いだが、代わりにトロトロと全身の筋肉から力が抜けていくような感じがするのだ。この俺、ギデオン・シルバーハートのスキルは、毒を吸収して快楽物質に変換するってもんだ。変なスキルだと思うかもしれない。だとしても、これでも結構バカにならない数の命を救ってきたと自負している。
周りからは普通の治癒スキルと勘違いされて、一目置かれたのは良い思い出だ。あいつは我慢強いとか男らしいとか言われるのは悪い気分じゃない。
腕をまくり、机の上にメモを書き残す。
「森の中で倒れているところを見つけ……えー、できれば恩を感じさせる感動的な文章に……」
"アンタが森の中で酷いケガをして倒れてたんで、一応俺の家まで運ばせてもらった。混乱させてたら申し訳ない。
で、幸い俺は治癒スキル持ちだ。一応治癒をやってみるが、だいぶ重い毒にかかってるみたいだから、もしかすると俺はベッドの側に倒れてるかもしれん。まあ気にしないでくれ。踏んづけなければそれでいいさ。
外に子狼がいるが、そいつは俺がテイムした奴だから安心してくれ。机の上にレモネードを置いておく。もしアンタが無事に目を覚ましたら飲んでくれ。かなり美味いし、元気が出るはずだ。ま、別に飲まなくたっていい。
アンタが何者かは分からないが、とりあえず無事を祈る。 頑張れ。 G.H."
しばらく書いて、結局こうなった。あまりうまくできなかったが、無いよりはマシだろう。子狼が邪魔をしてくるので外にリードを繋いでおいた。そして、極めつけに本当にレモネードを置いておく。実はローランドール一家が送ってきたやつだが、これが本当にうまい。少しはご機嫌を取れるはずだ。
均整の取れた顔の中で唇が時折かすかに動き、シーツの下では真っ白な胸が不規則に上下している。俺がベッドに目を移しても、依然として勇者が目を覚ます気配はなかった。毒が進行していない辺りは流石の回復力だが、逆に言えばこれほどの自然治癒力でも快方に向かわない毒ってことだ。勇者がどういう道のりを辿ってここまで来たのかは分からないが、相当苦労したのだろう。俺は勇者の顔にかかるきれいな茶色の前髪を優しく払いのけると、体の方にある傷口に手を伸ばした。
「大丈夫。俺はやれる。こいつは悪い奴じゃない、みんな無事だ……」
手のひらに感覚を集中し、ゆっくりと指を這わせるようにして傷口に触れて毒を吸収し――
「あひん」
――俺はすごく情けない声を挙げながら想像を絶する快楽に失神した。
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