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お願い事
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どこへでも行くと言った私の返事を聞いたメルキオールさんは、途端に表情を明るくした。
「助かるよ。僕のお願いを聞いてくれてありがとう」
安堵したといった様子で、私の手を握って嬉しそうにしている。
「君が王都で不自由のないようにするつもりだから、向こうに行ってからでも何か要望があればすぐに言ってくれ」
「御心遣い、ありがとうございます。メルキオールさんに早速、お願いがあるのですが」
交換条件とは烏滸がましいのだけれども、一つだけ譲れないものがあった。
「何?」
「猫のキティを連れて行ってもいいでしょうか」
キティは真っ白い猫で、私がここに来て初めて庭に散歩に出た日に、迷い込んできた子猫だった。
およそ二年前の当時、ボロボロで、あばらの浮いたガリガリで、泥だらけの姿だったキティを見て、何だか自分の姿を見ているようで、無理を言って飼い始めたのだ。
キティはオッドアイで、左目が緑色、右目が青色で、後からわかった事だけど、右側の聴力が悪いみたいで、だから天敵に狙われたり餌が見つけられなかったりで、あんな姿だったんだ。
片方の聴力が悪いって、そんなところまで私と一緒なものだから、ますます放っておけなくなった。
「それくらい、お願いでもなんでもないよ。可愛がっている猫くらい、いくらでも一緒にいてくれて構わない」
今度は私が安堵する番だ。
メルキオールさんは、基本的にはとても心優しい人なのだ。
なので、私のような欠陥品とは、いつ離婚してくれてもいいと思っていた。
「三日後、王都へ向けて出発するから、それまでに支度はできそう?」
「はい。大したものはありませんから」
「必要なものは王都で買い揃えるから、心配しないで」
「いえ……私には……」
「あ、それから、君の侍女のリゼにも一緒に来てもらうから安心して。彼女は君の保護者らしいからね」
姉のような存在のリゼが来てくれるなら、なんの心配もない。
ドレスを戦闘服だと言った、先ほどのやり取りを思い出して、思わずクスリと笑ってしまう。
「君は……たくさん笑うといいよ……」
その言葉に顔を向けると、ほんのりと頬を赤くしたメルキオールさんを視界に捉えていたのだった。
「僕が部屋までエスコートしよう」
話し終えて、部屋に戻る際に、私の右手を取ってメルキオールさんが言った。
ここの屋敷内は慣れているから大丈夫だけど、せっかくのメルキオールさんからの申し出だ。
「ありがとうございます」
にっこりと笑いかけてお礼を伝えた。
たくさん笑うといいと言われたから、慣れない人に笑顔を向ける練習だ。
領地の別邸に滞在している間、メルキオールさんからそれなりに事情を教えてもらった。
なんでも、メルキオールさんは、とある御令嬢から熱烈なアプローチを受けているそうだ。
結婚していると言っても、信じてもらえなくて、迷惑していると。
基本的にはメルキオールさんは女性に興味がないので、女性に言い寄られるのは好きではないらしい。
女性に興味がないと言っても、男性や幼女が好きだったり、その他特殊な嗜好の持ち主ではないとのこと。
なるほど、私に防波堤の役目を担ってもらいたいのか。
波状攻撃のように押し寄せてくる女性達の盾となるのが、私の役目。
ならば、喜んでこの身を捧げましょう。
とは言ってみても、戦場に行くわけではないので、夜会にでも参加して、メルキオールさんと腕を組んでニコニコしていてくれたらいいとのこと。
現在22才となったメルキオールさんは、植物が大好きで、自宅で珍しい花などを育てては王宮に献上しているし、王家所有の温室の管理責任者なんかも勤めている。
そんな植物オタクの彼が、爵位を継いだのは私と結婚する少し前のことだった。
植物と過ごす穏やかな日常を守って欲しいとお願いされれば、腕まくりをして張り切って“任せてください”と答えていた。
「助かるよ。僕のお願いを聞いてくれてありがとう」
安堵したといった様子で、私の手を握って嬉しそうにしている。
「君が王都で不自由のないようにするつもりだから、向こうに行ってからでも何か要望があればすぐに言ってくれ」
「御心遣い、ありがとうございます。メルキオールさんに早速、お願いがあるのですが」
交換条件とは烏滸がましいのだけれども、一つだけ譲れないものがあった。
「何?」
「猫のキティを連れて行ってもいいでしょうか」
キティは真っ白い猫で、私がここに来て初めて庭に散歩に出た日に、迷い込んできた子猫だった。
およそ二年前の当時、ボロボロで、あばらの浮いたガリガリで、泥だらけの姿だったキティを見て、何だか自分の姿を見ているようで、無理を言って飼い始めたのだ。
キティはオッドアイで、左目が緑色、右目が青色で、後からわかった事だけど、右側の聴力が悪いみたいで、だから天敵に狙われたり餌が見つけられなかったりで、あんな姿だったんだ。
片方の聴力が悪いって、そんなところまで私と一緒なものだから、ますます放っておけなくなった。
「それくらい、お願いでもなんでもないよ。可愛がっている猫くらい、いくらでも一緒にいてくれて構わない」
今度は私が安堵する番だ。
メルキオールさんは、基本的にはとても心優しい人なのだ。
なので、私のような欠陥品とは、いつ離婚してくれてもいいと思っていた。
「三日後、王都へ向けて出発するから、それまでに支度はできそう?」
「はい。大したものはありませんから」
「必要なものは王都で買い揃えるから、心配しないで」
「いえ……私には……」
「あ、それから、君の侍女のリゼにも一緒に来てもらうから安心して。彼女は君の保護者らしいからね」
姉のような存在のリゼが来てくれるなら、なんの心配もない。
ドレスを戦闘服だと言った、先ほどのやり取りを思い出して、思わずクスリと笑ってしまう。
「君は……たくさん笑うといいよ……」
その言葉に顔を向けると、ほんのりと頬を赤くしたメルキオールさんを視界に捉えていたのだった。
「僕が部屋までエスコートしよう」
話し終えて、部屋に戻る際に、私の右手を取ってメルキオールさんが言った。
ここの屋敷内は慣れているから大丈夫だけど、せっかくのメルキオールさんからの申し出だ。
「ありがとうございます」
にっこりと笑いかけてお礼を伝えた。
たくさん笑うといいと言われたから、慣れない人に笑顔を向ける練習だ。
領地の別邸に滞在している間、メルキオールさんからそれなりに事情を教えてもらった。
なんでも、メルキオールさんは、とある御令嬢から熱烈なアプローチを受けているそうだ。
結婚していると言っても、信じてもらえなくて、迷惑していると。
基本的にはメルキオールさんは女性に興味がないので、女性に言い寄られるのは好きではないらしい。
女性に興味がないと言っても、男性や幼女が好きだったり、その他特殊な嗜好の持ち主ではないとのこと。
なるほど、私に防波堤の役目を担ってもらいたいのか。
波状攻撃のように押し寄せてくる女性達の盾となるのが、私の役目。
ならば、喜んでこの身を捧げましょう。
とは言ってみても、戦場に行くわけではないので、夜会にでも参加して、メルキオールさんと腕を組んでニコニコしていてくれたらいいとのこと。
現在22才となったメルキオールさんは、植物が大好きで、自宅で珍しい花などを育てては王宮に献上しているし、王家所有の温室の管理責任者なんかも勤めている。
そんな植物オタクの彼が、爵位を継いだのは私と結婚する少し前のことだった。
植物と過ごす穏やかな日常を守って欲しいとお願いされれば、腕まくりをして張り切って“任せてください”と答えていた。
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