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侯爵様が大事な話をしにやってきた

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 タウンハウスで過ごす事、一ヶ月ちょっと。

 人にも環境にも慣れて、私の方は快適に過ごしていた。

 あの日以来、困ったお客さんが訪れることはないし、キティも元気いっぱいだから言うことはない。

 ただし、今日のメルさんは朝からとてもソワソワしていた。

 大切なお客様がお見えになるからだ。



「息災か?アシーナ」

「侯爵様!お会いしたかったです」

 玄関ホールで出迎えた、オルドリッジ侯爵家のヨハネス様に、まずはカーテシーをしてから、腰に抱きついていた。

 貴婦人がこんな事をしてはみっともないけど、ヨハネス様は特別だ。

「侯爵様ではないだろう」

「はい、おじい様」

 頭を撫でてくれたヨハネス様を見上げると、その視線は自慢げな顔でメルさんの方を向いていた。

「お祖父様。ようこそお越しくださいました。僕は貴方の事を心から尊敬していますし、心から愛しています。しかしながら言わせていただきます。それは大人気ないのではないですか」

「どこぞのバカものが、アシーナを王都に連れて行ったと聞いて心配していたんだ。困っていることはないか?」

「はい。みなさん、とてもよくしてくれます」

「そうかそうか。今日は、アシーナに大切な話があって、来たんだ。座って話そうか」

「はい」

 ヨハネス様から話があるとは、メルさんから聞いてはいた。

 客間に移動すると、私とヨハネス様の分のお茶が用意されて、二人を残してみんな退室していった。

「アシーナ、僕は植物園の方にいるから。また後で」

「はい」

 メルさんもすぐに部屋から出て行ったから、どんな話をされるのかと、若干、身構えてはいた。

「まず、アシーナに話さなければならないことは、二十歳の誕生日を迎えた日に、正式に子爵家の財産を受け継げるということだ」

 この国では、寄親貴族などの後見人がいれば未成年でも家督を継げるけど、私の生家であるアドニス子爵家は、ヨハネス様が一時的に管理されていた。

 貴族社会では15歳で社交界にお披露目となり、16歳から結婚が可能となるが、成人年齢、完全な大人として全ての責任を負う歳は二十歳となっている。

 私が二十歳の誕生日を迎えるのは、およそ10ヶ月後。

「そのお金は、アシーナの好きなように使うといい。望むのなら、子爵家をアシーナが継ぐ事もできる」

 そこで、疑問が生まれた。

「それは、伯爵夫人でありながら、子爵家の当主になるということですか?」

「今のままなら、アシーナが二十歳を迎えたと同時に、自動的に婚姻関係は解消される」

 ヨハネス様の言葉に、はて?と、首を傾げていた。






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