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お出かけ日和

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 翌日は、これ以上ないってくらいのお出かけ日和だった。

「お手をどうぞ」

 馬車の前では、芝居がかった動作でメルさんが腕を差し出してくる。

 それが仰々しくても似合っていたので、笑いを堪えながらメルさんの手を借りて馬車に乗り込んだ。

 向かい側にメルさんも座って、馬車は動き出す。

「キティはお留守番になっちゃったから、何かお土産を買って帰らないとだね」

「メルキオールさんが選んでくれるんですか?喜ぶと思います」

 部屋の陽射しが優しく当たる場所でくつろいでいたキティの姿を思い出す。

 昨夜もメルさんと一緒に寝て、朝になって送り届けてくれた。

 このままメルさんの症状が落ち着いてくれたらいいけど。

 完全に癒やされることはなかなか難しい。

 辛い体験は少しずつ昇華させていくしかない。

「あ、着いたみたいだね。ここが、王都でも人気のブティックだよ。今日は予約がとれたから、ゆっくり選べる。普段着なんかもたくさんあるから、欲しいものはなんでも選んで」

「はい」

 今日はちゃんと楽しもうと思っている。

 また、メルさんの手を借りて馬車から降りると、すぐに気付いたことがあった。

 それは、周囲にいる人や、すれ違っていく多くの女性がメルさんをちらちらと見ていたということだ。

 ほんの短時間で、メルさんがどれだけ注目されているのかがわかる。

 それを全く気にも留めないで、私に笑いかけてくれる。

 自分の中で、思ってもみなかった感情が湧き上がってくる。

 それに名前をつけるとしたら何になるのか。

「お先にどうぞ」

 お店の扉を開けてもらうと、促されて先に入店する。

「わー……すごい……」

 店内はドレスを着たマネキンがたくさん陳列されているし、他にも、衣類や小物がたくさん見えた。

「既製品もたくさんあるけど、アシーナはいくつかデザインを見せてもらって、オーダーメイドするといいよ」

「お待ちしておりました」

 そこで、デザイナーさんなのか私達の前で一礼する女性がいた。

 その女性に案内されると、それからは、目まぐるしいものだった。

 体のサイズを測られることから始まり、メルさんが次々と質問しながら細かなことが決められている。

 私の好みを最大限に尊重しつつも、メルさんのものすごいこだわりを見せていた。

 頭をたくさん使って、全てが決まった後で、ソファーに沈み込んで休憩を欲したほどだ。

「アシーナ、大丈夫?」

「はい、なんとか」

「大丈夫そうなら、次は、ここで楽な格好に着替えて行こう」

 お出かけをここで終わりにしたらもったいないから、言われた通りに着替える。

 それは、おしのび用のものだった。

「アシーナは何を着ても可愛いね。近くにカフェがあるから、案内するよ。そこで休憩しよう」

 さらっとお世辞を言えるところがメルさんのすごいところだ。

 お店を出ると、メルさんはごく自然に私の手を引いて歩いていく。

「今から行くところは、スィーツが美味しいお店なんだけど、今はコンセプトカフェなんていうのがあって、本当は猫カフェにアシーナを案内しようかと思ったけど、それだと、僕が他の女性の香水の移り香をまとってアシーナのそばに行くようなものかなって思って、キティに悪いかなって、やめたんだ。キティはアシーナを遠ざけることなんかしないだろうけど、僕はなんだか嫌われそうで」

 キティ以外の動物に触れたことがないから、どんな反応を見せるのかわからない。

 キティに浮気を疑われるメルさんの姿を想像して、そこでまた笑いを堪えなければならなかった。







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