偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌

文字の大きさ
14 / 53
末路

14 押し潰された家屋の下では

 軍人上がりの俺の最初の仕事は尋問と聞かされてはいたが、実際の仕事内容は罪人に対する拷問だった。

 俺は、積極的にその仕事を請け負うことにした。

 抵抗できない者を、好きなだけ甚振ることができる。

 それも、合法的に。

 これほど、俺の性に合っている仕事はなかった。

 苦痛に歪む顔も、断末魔のような叫び声も、毎日見聞きしても飽きないものだった。

 罪人となったこいつらは、人ではない。

 殺さないように、長く苦痛を与え、自分が楽しむことしか考えなかった。

 どれだけの罪人に罰を与えてきたのか、今度の担当は、成人もしていない、若い女だった。

 聖女と持て囃され、美味い汁を長年啜ってきたような女だ。

 国民の怒りを俺が代弁してやるかのように、女を甚振った。

 その時だけは、神にでもなったかのような気分だった。

 散々痛め付けた女は、最期はあっさりと首を斬られて絶命していた。

 俺があの処刑人なら、一度で首を落とさずに別の箇所の骨を砕き、苦しませるために何度も斧を打ち下ろしてやるのに。




 あの女の処刑の日から三日が経ち、王都には滝のような雨が降っていた。

 どうせすぐに止むだろうと、しばらくの予定が無くなった俺は、酒場で酒を呷っていた。



 雨は、止まなかった。



 一ヶ月が過ぎた頃、食べられるのかもわからない草の根を取り合っている男達を横目に、荒廃したキャンプ地を歩いていた。

 適当な女を探すためだ。

 秩序など存在しないここでは力が全てで、己の自由に振る舞えた。

 だから、好き好んで封鎖されている王都から出てきたのだ。

 止まない雨にはうんざりするが、好き勝手にできるここで、俺はすでに存在感を示していた。

 そんな俺に、わずかな食料を求めて、気怠げな様子の女が擦り寄ってきた。

 ここでは金に何の価値もない。

 何よりも、食べ物が不足している。

 この女はおそらく、そっち系の商売をやっていたのだろう。

 王都にいた罪人や娼婦は真っ先に追い出されている。

 無秩序に続くキャンプ地を女と歩いて行き、女が利用している家に着いた。

 木々が迫り出した崖近くに、廃墟となった家があったからそれを娼館がわりに使っているようだ。

 そこにはすでに何人かの客らしき男もいた。

 ベッドだけが置かれた部屋に案内されると、女は今から行為が行われるそこに座り、俺に話しかけてきた。

「あんた、あの日に処刑場に行った?あたし達がこんな底辺の生活をしているってのに、修道会を騙して贅沢をしていた女の処刑にさ」

「ああ」

 俺が代わりに痛めつけてやったからな。

 あの女が貧相なガキじゃなかったら、性的に痛めつけてもっと楽しませてもらえたのに、裸を見ようとも思わなかった。

 目の前の、豊満な体を持つ女を抱き寄せる。

「中には、処刑された女が本当の聖女で、だからこんなにも雨が止まないって言っているやつもいるけど、あの女が本物って言うなら、そもそも聖なる魔法が使えて当たり前だし、神様に守られてそんな目に遭うはずがないって話よ」

 今から情事を始めるにしては、色気のない話だ。

 もう、何も答えない。

 めんどくさいから、さっさと事を始めてしまいたかったが、ドアが開けっぱなしだったと、一度女から離れて部屋の入り口まで移動した時だった。

 足元が揺れ、ゴゴゴゴと不気味な音が聞こえた。





 地響き?

 それから、さらなる轟音。

 メキメキと何かが軋む音。

 その後は、一瞬の出来事だった。

 押し潰される衝撃と、それからは暗闇の世界。





 ずっと、氷のような雨が降っていた。

 何もかもが押し潰され、ほんのわずかにできた空間に、俺はいた。

 だが、肋骨が折れ、内臓に刺さって激痛を生むのに、体を動かせない。

 足や、腕の骨も折れているんだ。

 肉体を痛めつける事を知り尽くしているからこそ、自分の体の状態がよくわかった。

 くそっ

 5体満足だったとしても、家屋の残骸に体を挟まれた状態では同じことだ。

 叫ぶ。

 誰か、助けてくれと。

 俺のすぐ上っ側からも、叫び声が聞こえていた。

 誰のものかわからない血が流れてくる。

 馴染みのあるヌルッとした独特の感触は、暗闇でもその匂いと共にわかる。

 俺の恐怖心を煽る。

 また、叫ぶ。

 だが、誰かが助けにくるような気配はない。

 ここに生き埋めにされてどれだけ経ったのか、俺の上で叫んでいたやつは、静かになっていた。

 何も聴こえない。

 俺だけだ。

 恐怖と痛みでどうにかなりそうだった。

 いや、いっそのこと、狂ってしまいたかった。

 死にたい。

 死んで楽になりたいのに、死ねない。

 乾くままに欲に抗えず、汚水を啜ってしまうばかりに何日も何日も死ぬことができない。

 異臭が漂う中、俺一人が生き続けなければならない。

 殺してくれと、願うのに、聞き届けられない。

 激痛の中で悶え苦しみ、苦しんで、苦しんで、苦しんで、やっと、俺は死ねた。






感想 25

あなたにおすすめの小説

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

聖女の婚約者と妹は、聖女の死を望んでいる。

ふまさ
恋愛
 聖女エリノアには、魔物討伐部隊隊長の、アントンという婚約者がいる。そして、たった一人の家族である妹のリビーは、聖女候補として、同じ教会に住んでいた。  エリノアにとって二人は、かけがえのない大切な存在だった。二人も、同じように想ってくれていると信じていた。  ──でも。  「……お姉ちゃんなんか、魔物に殺されてしまえばいいのに!!」 「そうだね。エリノアさえいなければ、聖女には、きみがなっていたのにね」  深夜に密会していた二人の会話を聞いてしまったエリノアは、愕然とした。泣いて。泣いて。それでも他に居場所のないエリノアは、口を閉ざすことを選んだ。  けれど。  ある事件がきっかけで、エリノアの心が、限界を迎えることになる。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。