偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌

文字の大きさ
51 / 53
本編

51 最後は姉として

しおりを挟む

 どうしてこんな結末を迎えてしまったのか。

 炎や追っ手から逃れる為に走りながら、幸せの絶頂だった、結婚式の当日を思い出していた。








「とても素敵な式でしたね。でも、まだ終わりではありませんよ。お召し替えをいたしましょう」

 侍女達の手を借りながら、城の奥へと誘導されていた。

 真っ白いドレスに包まれて、未だ夢見心地な気分だ。

「今日は、広場にも多くの人が集まっていますね」

 ポーッとしてばかりではいられない。

 緊張感を持とうと、気を引き締めながら尋ねていた。

 大聖堂から移動する際に、多くの人の波が見えたのが気になった。

 西側の広場にたくさんの人が集まっており、王都中の人が集まっているのではないかと言ったほどだ。

 殺気立ったようなピリピリとした興奮に包まれているように感じられたから、不思議だった。

「みな、アリーヤ様を祝福しているのですよ」

 そんな風には見えなかったけど、侍女がそう言うのならそうなのだろう。

「あの黒い服を着た人は?」

 今度はなんだか物々しい集団が、城の敷地内である窓の向こう側を歩いていた。

「アリーヤ様が気にする必要はありません。さぁ、急ぎましょう」

「それもそうですね」

 私に関係の無い事に意識を向けるよりも、今は早く支度を整えて次の場所へ移動しなければ。

 バージルが一生に一度のことだからと、せっかく素敵なドレスを用意してくれたのだ。

 後で、東側の広場で民衆に向けてのお披露目がある。

 そのための着替えを行わなければ、見苦しい姿を見せてしまっては、バージルに迷惑をかけてしまう。

 優しい彼のことだから、少しくらいの失敗は笑って許してくれるのだろうけど。

 それと、式が終わってから、バージルにはちゃんと話さなければと思っていた。

 私の魔法は、誰かのものだと。

 言いにくい事を先延ばしにしてしまったけど、夫婦となったのだから、もう隠し事は嫌だ。

 この国で雇われている一族の生き残りにも会わせてもらえることだし、誰か、両親のことを知っている人がいればいいな。

 そう言えばイリーナはどうしたのかしら。

 あの子、結局式場には来てくれなかった。

 人の多さにビックリしちゃったのかもね。

 また手紙を書けばいいか。

 きっと、近くにはいてくれているはずだから。

 それから、忙しくも夢のような三日間はあっという間に過ぎ、その三日目の朝。

 王都では珍しく、滝のような大雨が降っていた。

 その勢いに、気が滅入る。

 私達の幸せに、聖女様が嫉妬でもしているのかと呑気な事を考えていた。

 バージルが聖女様と婚約させられたのは、国王である父が帝国縁者の怒りを買ったせいで、他国から付け込まれないためにも、その婚約をしなければならなかったと、ため息混じりに言っていた。

 バージルの苦しみを解放してあげられて良かったと、そこまで思った時だった。

「やっぱり、エルナト様を処刑したせいで……」

 誰かの呟きが耳に飛び込んできた。

 それを言ったのは、まだ年若い侍女のようだ。

 その子の教育係なのか、少し年配の侍女が私に謝ってきた。

 余計な事を言ったと、若い侍女に叱責している。

「エルナト様を、処刑した?」

 でも、私がその子に直接尋ねていた。

 その事実を聞かされ、バージルの元まで走る。

 どういうことだと、詰め寄っていた。

 私が聖女と呼ばれ、偽聖女としてエルナト様が処刑された。

 終わってしまったその事に、体が震えていた。

 バージルに、私の魔法は誰かのもので、能力で借りたものなのだと話した。

 だから、聖女などではないと。

 少しだけ驚いた顔を見せたけど、それでもバージルの態度は落ち着いたもので、それから先は、私の一方的な詰問になっていた。 

 どれだけ私が感情的になったところで、何もかもが後の祭りだった。









 あの日から、坂道を転げ落ちるような日々だった。

 今ですらせっかくイリーナと再会できたのに、王都の至る所からすでに火の手が上がっており、この城も間も無く危険な場所となる。

 エンリケの後について行ったあの子を追いかけるべきか迷っていた。

「アリーヤ、早く。こっちだ」

 バージルが私に手を差し出してくる。

 彼の手と顔を見つめて、心を決めた。

「私はイリーナを探します。どうか先にお逃げください」

 やはり、エンリケと何処かへ向かったイリーナが心配だった。

 今あの子と別れたら、もう会えない。

「君がいれば、聖女はまた擁立できる。それに、私の妻として相応しい聖女は、君しかいないんだ。アリーヤ、君を失ってしまっては」

 目の前で喋るバージルの言葉が頭に入ってこなかった。

「イリーナを見捨てることなどできません」

 聖女などと、そんなことよりも血を分けた家族の方が大事だ。

「わかった。囮を立てて時間を稼ぐから、西門で合流しよう。そこから先は、地下道を使う」

 王家の紋章が入った外套を持って、彼は走っていく。

 それが、バージルと話した最後の時間となった。

 私の周りに、親しい人は誰一人として居なくなった。

 混沌とした城の中でイリーナの姿を探していると、バージルの最期の姿を、離れた場所で見ることとなった。

 何本もの槍に貫かれ殺された彼を、助けることができなかった。

 重たい鉛を詰め込まれたかのように、足が動かなかったけど、同胞に促され、なんとかその場から離れる。

 国王夫妻も殺された。

 王都が炎に呑まれかけ、逃げ惑う民衆を救うこともできないのかと嘆きかけた時、奇跡のような雨が降り注いだ。

 あれだけ人々を脅かした雨が、最後に救いを齎したのだ。

 その雨の恩恵にあやかりながら、私達は無事に王都の外へと逃げることができた。

 その後、ロズワンド王国は地図上から消えた。

 周辺国に吸収される結果となった。


「聖女様、ありがとうございます」


 それを言われるたびに、“お前はニセモノなのにな”、誰かが頭の中で囁く。

 壮年の男性がペコペコと頭を下げながら去って行った。

 私は無力で、逃げ延びた先にいた人達に、魔法を使ってあげることしかできない。

 先程、祖母と孫の二人連れを見かけた。

 孫の方は足が不自由な様子だった。

 だから治療しようと声をかけると、

「エルナト様を死に追いやった人の施しは受けない。僕は、自力で神聖魔法を覚えてみせる」

 そんな冷たい響きの言葉を投げつけられると、私のことを睨みつけながら去って行った。

 やはり、中には私のことを恨んでいる民もいるのかと、その現実を突きつけられた出来事だった。

 確かに、人々からいくら感謝されても、それは私の力ではない。

 エルナト様の力を奪って、その功績を利用しているだけだ。

 エンリケが言った通り、都合が悪いからと目を逸らし続けていたのは、エルナト様から魔法を奪ったこともだ。

 薄々、そんな気もしていた。

 もう、返すことは永久に叶わない。

 これからも、死人のように偽りの聖女を演じ続けていくしかないのだ。

 例え、偽物で、盗人だとしても。

 私が犯してしまった罪は、そう言うことなのだ。

 私と逃げてきた同胞の仲間達は、私を中心として新たな国を興すことを計画している。

 アースノルト大陸に渡り、今度こそ聖女の力を奪うと話している。

 そんな話をボーっと聞きながら、イリーナと過ごした村に帰りたいと思っていた。

 今はもう無い、あの村に。

 結局、あの子とまた生き別れてしまった。

 でも、イリーナの姿を帝国で見たと同胞から聞いた。

 希望を抱いて、あの子に会うためだけに、同胞について行く。

 原初の民がこれだけ集まっているのだ。

 あの子に会う事くらいはできるはずだ。

 そのためならば、聖女として振る舞ってもいい。

 自分達の国を築いて、静かに暮らすことだってできる。

 たとえあの子が私に怒っているのだとしても、最後は姉としてあの子の生活を守りたい。









しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

聖女の婚約者と妹は、聖女の死を望んでいる。

ふまさ
恋愛
 聖女エリノアには、魔物討伐部隊隊長の、アントンという婚約者がいる。そして、たった一人の家族である妹のリビーは、聖女候補として、同じ教会に住んでいた。  エリノアにとって二人は、かけがえのない大切な存在だった。二人も、同じように想ってくれていると信じていた。  ──でも。  「……お姉ちゃんなんか、魔物に殺されてしまえばいいのに!!」 「そうだね。エリノアさえいなければ、聖女には、きみがなっていたのにね」  深夜に密会していた二人の会話を聞いてしまったエリノアは、愕然とした。泣いて。泣いて。それでも他に居場所のないエリノアは、口を閉ざすことを選んだ。  けれど。  ある事件がきっかけで、エリノアの心が、限界を迎えることになる。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ

しゃーりん
恋愛
聖女が代替わりするとき、魔力の多い年頃の令嬢十人の中から一人選ばれる。 選ばれる基準は定かではなく、伝聞もない。 ひと月の間、毎日のように聖堂に通い、祈りを捧げたり、奉仕活動をしたり。 十人の中の一人に選ばれたラヴェンナは聖女になりたくなかった。 不真面目に見えるラヴェンナに腹を立てる聖女候補がいたり、聖女にならなければ婚約解消だと言われる聖女候補がいたり。 「聖女になりたいならどうぞ?」と言いたいけれど聖女を決めるのは聖女様。 そしていよいよ次期聖女が決まったが、ラヴェンナは自分ではなくてホッとする。 ラヴェンナは聖堂を去る前に、聖女様からこの国に聖女が誕生した秘話を聞かされるというお話です。

美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。

ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」  そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。  真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。 「…………ぷっ」  姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。  当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。  だが、真実は違っていて──。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。

処理中です...