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11章:バロッサ盗賊捕縛作戦

14話:盗賊討伐(コンラッド)

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 作戦はほぼ予定通りに進んでいる。今朝方、別動の人達に知らせが入った。ランバートがキングスの港で荷と、それを降ろしていた男達を捕縛した。その場で荷が改められ、価値も宰相府によって算出された。間違いなくA級品だ。
 その箱には荷主とその品のリストも入っている。これで商人達は言い逃れができない。


 現在、コンラッドは荷馬車を護衛している。いつもよりもゆっくりとした速度だ。
 襲われた御者の話では、早く通り過ぎようとするほど御者が狙われるらしい。ゆっくりならばむしろ馬の前に矢を放ち、それに馬が驚いて馬車が止まる。そういう方法をとるそうだ。

「なーんか、つまんないの」

 側を歩くレイバンが腕を頭の後ろで組んで愚痴をこぼす。今回の事は、レイバンにとってもストレスだったみたいだ。彼もまた武闘派だから細かな調査は苦手とみえる。

「いいじゃんか、レイバン。俺達だって色々動いて疲れたんだぜ」
「俺なんて書類と睨めっこで腰が痛いよ」

 チェスターとボリスも愚痴をこぼす。確かに二人とも毎日のように「訓練が恋しい」と言っていた。
 そんな中、静かなのはハリーだった。ただ黙って歩いている。表情は不機嫌そうなのに、それを口にしないのは違和感があった。

「ハリー?」
「しっ、もうそろそろだよ」

 荷馬車は丁度森の中程にきていた。いつもならここで襲われる。皆の空気も自然と緊張したようになった。

 その時、一本の矢が馬の前を掠めるように飛び、地に突き刺さった。
 高い嘶きを上げて馬が止まり、御者がそれを制する。完全に止まってしまった馬車を三十人はいそうな盗賊達が囲んでいた。
 服装はまちまちだが、皆腕に赤い布を巻いている。これで間違いはないようだ。

「今日はまた護衛が少ないな」
「あぁ、あっという間だ」

 下卑た笑いが聞こえる。左右に二人、後方に一人が馬車を背にして睨み合う。盗賊達はその包囲をジリジリと縮め、迫ってきていた。

「黙って聞いてれば、ほんと腹立つ事言うよね? いいんでしょ?」
「おう、レイバンぶちかませ。俺もストレス溜まってる」

 左側のレイバン、チェスター組は不穏な空気を漂わせながら笑った気がした。そして直後、レイバンが動いた。

 レイバンの剣は実に早い。素早く走り寄ったかと思えば男が剣を構えるよりも早く弾き飛ばし、瞬時にしゃがみ込んで低い回し蹴りを男の踝へと当てる。それに浚われ横に転んだ相手を踏みつけるようにして、次へと向かっていく。
 チェスターも負けはしない。元々身の軽い奴だ。一合結んで押し返し、後方によろけた所を攻めて剣を弾き飛ばしてしまう。レイバンと違う所は、チェスターはしっかりと相手の肩や腕、足を傷つけ再度攻撃に移りづらくしていく点だ。
 少数精鋭、数では負ける第二師団ならではと言える。

「ほんと、ウザいよね」

 馬車の後方を守っているボリスの声が、一つ低くなった。こうなるとこいつもかなり危ない。向かってくる男達に容赦も情けもかけない。荒削りな構えを崩すように素早く懐に入り込むと、顔面を鷲づかみにして足を掛けて後方へと投げ倒す。転倒した奴の腹を容赦なく蹴り込んで気絶させると、次々に鎮圧していく。
 意外と戦いで性格が変わる奴なんだ。

「他に手柄なんて渡さない。コンラッド、来るよ」
「あぁ」

 隣のハリーが冷静に伝えてくる。それに、コンラッドも身構えた。
 甘い握りの奴は下から剣を弾き、気を取られている間に足を狙って剣を薙ぐ。当たりの強そうな奴はあえて空振りさせてその腹を蹴り上げる。
 乱戦でもコンラッドの観察眼は鋭い。誰がどのような癖があるか、これまでの経験で多少当たりをつけられる。それらを元に体を動かした。
 これが百戦錬磨の騎士が相手や、レイバンのようなトリッキーな動きをする相手では通用しないだろう。だが相手は数居るとはいえ傭兵だ。行動パターンの中におさまる。
 ハリーもよく動いている。手数で相手を圧倒する戦法のハリーは素早い動きとステップで相手を翻弄している。ただ、この戦法では複数人になると辛い。同時に斬りかかられると多少体力面が心配になる。

 コンラッドはそれとなく、ハリーの側へと寄った。そして、彼を狙う複数の剣を払いのけ、切り捨てていった。

「余計なお節介」
「怪我するよりいいだろ」

 ふて腐れた様な小さな声で言うハリーは、少し悔しそうだった。でも、コンラッドは笑ってそれを受け流し、切り捨てていく。悪態も文句も、ハリーが怪我をするよりはずっといい。

 そうして結構な数が減った時に、盗賊の中から「撤退しよう!」という声が上がった。それに従い森へと逃げ込もうとする盗賊だが、その頃にはもう包囲が完成していた。
 森の木々の合間から現れた第五師団に盗賊達は足を止める。この時点でようやく、挟撃されたことに気づいたようだった。

「おっ、お前らやるな!」

 先頭に立ったグリフィスが野性的な笑みを見せる。それにつられるように、周囲の第五師団の面々もいい顔を見せた。

「よーし、お前ら! 一斉に捕まえろ!」
「「おー!!」」

 声に合わせて一斉に雪崩れ込むように第五師団が参戦をする。そうなるとあっという間だ。盗賊達はほぼ抵抗する事も出来ずに捕縛された。

 こうして実にあっさりと終わり、怪我人は盗賊達のみ。その中で、コンラッドは指揮を執ったグリフィスへと近づいた。

「お疲れ様です、グリフィス様」
「おう、コンラッドか。今回はよくやったな」

 大きくごつい手がドンと頭に置かれ、無遠慮にグリグリ撫でられる。それに首を竦めつつ、他の仲間が笑っていた。

「大将がきたんだ」
「おうよ。レイバン、お前も今回お手柄だったらしいな」
「疲れたよぉ」
「ははぁ、そんなもんだ。よし、連行出来る奴は随時乗っけとけ!」

 大きな声に応えるように周囲も慌ただしく動き出す。
 その中で一人、雰囲気の違う人がいた。細く色が白く、髪はアッシュという見慣れない人だった。

「グリフィス様、あちらは?」
「ん? あぁ、宰相府のブルックリンだ。荷を調べるのに同行していたんだ」

 その青年は静かに馬車に近づくと、後ろを開けて中へと入る。そして、十数分で降りてきて疲れた顔をした。

「全てB級品です。ですが、出来はいい方です」
「そうか」

 グリフィスは多少悩み込むような顔をする。いつもしないその表情に、どこか違和感を感じた。

「何か、ありましたか?」
「ん? あぁ、まぁな。ランバートの方で、一悶着あったのよ」
「え?」

 グリフィスの言葉に、コンラッドは表情を硬くする。それは知らされていなかったからだ。

「どうやらランバートが対峙したレーティスって奴が、ジェームダルのテロリストだったらしい」
「それは! ランバートは無事なんですか?」
「あぁ。そいつには偶然にも勝てたらしいが、その後で乱入されたキフラスってのにはやられてな。ファウスト様が駆けつけていなけりゃ、どうなってたか」

 その話を聞くと、ランバートは落ち込んでいるだろう。だが、読み自体は間違っていなかったし間に合ってしかも一人を倒し、荷を奪われなかっただけ優秀だ。

「酷く落ち込んでいるらしい。戻ったら、元気づけてやってくれ」
「分かりました。俺達はこの後、どうしたらよろしいでしょうか?」
「王都帰還だ。お前達はあくまで馬車の護衛ということになってるから、バロッサには戻れない。王都に戻って、後は俺らに任せろ」
「分かりました」

 まだ戦えるし、役立てる。そうは思うが、命令違反を起こしてまで粘る理由はない。今回はシウスを筆頭に、綿密に行動が練られている。ここでそれを崩す事はできない。
 コンラッドは全員を見回し、頷いた。こうして彼らは長く感じる潜伏任務をやり遂げたのだった。
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