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お姉様、私の代わりに彼と婚約して下さい
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私はミシェル・ホプキンズ。外交官の娘だけれど人と話すのが苦手。ベランダで植物を育てるのと、古切手を集めるのが趣味だ。
私には双子の妹がいて、名をエリーゼという。エリーゼは私と正反対の性格をしている。快活で、愛嬌があって人々に好かれる。お友達もたくさんいて、家にいることはほとんどないくらいだった。
そんな妹に婚約者が出来た。人の良さそうな、背の高い青年ジャイルズ・ブロウ。年は私たちより二つ上の24歳。貴族ではなく、公的な機関で働いてるわけでもない。もう少し踏み込んで言えば、定職についていない。絵を描くのが趣味という人だった。芸術家、ということになるのかもしれない。
これには両親も頭を悩ませた。
自分の娘を結婚させるのならもう少し家柄のちゃんとした相手に、と思ったのだ。
「お父様、お母様。私には彼しかいないの」
エリーゼはそう言って泣いた。その必死の説得に、やがて両親は折れた。お金に困ったなら自分達が何とかすればいいと考えた。
私は直接何か出来るわけでも無いけれど、陰ながら応援することにした。
それでもうあと二週間で結婚式というある晩のことだ。妹が私に大事な話があると言う。私はその日、丹精こめて育てていたバラが開花して気分が良かった。それなのに、妹の一言は私をすつかり動揺させた。
「お姉様、私は運命の人と出会いましたの。もう、彼以外考えられない!」
「え、待ってエリーゼ。彼って……ジャイルズのことでしょう?」
「いいえ、違うの……彼は素敵な人よ。でも、運命ではなかったの!」
な、何ですって……?
私はめまいがしてきた。
「じゃあ一体誰のことを言ってるの?」
「それはね、お姉さま。トラヴィス・ガーフィールドよ」
「トラヴィス……ガーフィールド? それって、あのガーフィールド家の?」
「そうよ」
ガーフィールド家はこの地域の領主だ。トラヴィスはたしか――そこの三男か四男だったろうか。
「四男のトラヴィス様はね、それはもう大変な美貌なの――!」
「美貌……?」
「ええ。私、あんな美しい男性を見たのは初めてですわ! すぐに、彼のことを夫にすると心に決めましたの」
妹の言うことについて行けない。
「でも、じゃあジャイルズとはどうなるのよ?」
「そこでお姉様の出番じゃない!」
「ええ?」
何のことだろう。
「お姉様がジャイルズと結婚すればちいのよ! いい考えでしょう?」
私は開いた口が塞がらなかった。
「わ、私が……!?」
「ええ、だって私たちは双子で、よく似ているもの」
「ちょっと待って、でも似てるのは顔だけよ。全然性格が……」
「いいのよ。殿方はそんな細かいことは気にしないものよ」
そういう問題じゃないわ……!
「だけど、両親には話したの? あちらのご両親は?」
「そんなの、言わなくてもいいじゃない」と妹はあっけらかんとしている。
その後紆余曲折あったけれど、結局誰もエリーゼの愛嬌には敵わなかった。
エリーゼはガーフィールド家の四男坊に嫁ぎ、私は本当にジャイルズの妻になった。
最初は戸惑いしかなかったものの、エリーゼの姉である私にも優しくしてくれる夫を私は次第に愛するようになった。
そんなある日、夫が私を旅に連れ出すと言った。
「でもあなた、あなたの絵は少しも売れていないし……残念だけど旅行なんてする余裕は無いわ」
いくら父に生活費を賄ってもらっているといっても、まさか旅行代までくれとは言えない。
「いいや、ミシェル。お金ならあるんだ」
「え?」
「僕は、お金じゃなくて僕を愛してくれる人に全てを捧げようと思って隠していたんだ」
「隠していた? 一体何を」
「僕はガーフィールド家の長男。ニコラス・ガーフィールドなんだ」
私は呆気に取られた。
つまり……私もガーフィールド家に嫁ぐの?
結果的にガーフィールド家の全てを継ぐのはこのジャイルズ……いえニコラスだ。
見た目に絆されて四男坊と結婚した妹は、見た目に比例する彼の派手な女遊びに悩まされた。彼女がジャイルズの正体を知って地団駄を踏んだのは言うまでもない。
END
私には双子の妹がいて、名をエリーゼという。エリーゼは私と正反対の性格をしている。快活で、愛嬌があって人々に好かれる。お友達もたくさんいて、家にいることはほとんどないくらいだった。
そんな妹に婚約者が出来た。人の良さそうな、背の高い青年ジャイルズ・ブロウ。年は私たちより二つ上の24歳。貴族ではなく、公的な機関で働いてるわけでもない。もう少し踏み込んで言えば、定職についていない。絵を描くのが趣味という人だった。芸術家、ということになるのかもしれない。
これには両親も頭を悩ませた。
自分の娘を結婚させるのならもう少し家柄のちゃんとした相手に、と思ったのだ。
「お父様、お母様。私には彼しかいないの」
エリーゼはそう言って泣いた。その必死の説得に、やがて両親は折れた。お金に困ったなら自分達が何とかすればいいと考えた。
私は直接何か出来るわけでも無いけれど、陰ながら応援することにした。
それでもうあと二週間で結婚式というある晩のことだ。妹が私に大事な話があると言う。私はその日、丹精こめて育てていたバラが開花して気分が良かった。それなのに、妹の一言は私をすつかり動揺させた。
「お姉様、私は運命の人と出会いましたの。もう、彼以外考えられない!」
「え、待ってエリーゼ。彼って……ジャイルズのことでしょう?」
「いいえ、違うの……彼は素敵な人よ。でも、運命ではなかったの!」
な、何ですって……?
私はめまいがしてきた。
「じゃあ一体誰のことを言ってるの?」
「それはね、お姉さま。トラヴィス・ガーフィールドよ」
「トラヴィス……ガーフィールド? それって、あのガーフィールド家の?」
「そうよ」
ガーフィールド家はこの地域の領主だ。トラヴィスはたしか――そこの三男か四男だったろうか。
「四男のトラヴィス様はね、それはもう大変な美貌なの――!」
「美貌……?」
「ええ。私、あんな美しい男性を見たのは初めてですわ! すぐに、彼のことを夫にすると心に決めましたの」
妹の言うことについて行けない。
「でも、じゃあジャイルズとはどうなるのよ?」
「そこでお姉様の出番じゃない!」
「ええ?」
何のことだろう。
「お姉様がジャイルズと結婚すればちいのよ! いい考えでしょう?」
私は開いた口が塞がらなかった。
「わ、私が……!?」
「ええ、だって私たちは双子で、よく似ているもの」
「ちょっと待って、でも似てるのは顔だけよ。全然性格が……」
「いいのよ。殿方はそんな細かいことは気にしないものよ」
そういう問題じゃないわ……!
「だけど、両親には話したの? あちらのご両親は?」
「そんなの、言わなくてもいいじゃない」と妹はあっけらかんとしている。
その後紆余曲折あったけれど、結局誰もエリーゼの愛嬌には敵わなかった。
エリーゼはガーフィールド家の四男坊に嫁ぎ、私は本当にジャイルズの妻になった。
最初は戸惑いしかなかったものの、エリーゼの姉である私にも優しくしてくれる夫を私は次第に愛するようになった。
そんなある日、夫が私を旅に連れ出すと言った。
「でもあなた、あなたの絵は少しも売れていないし……残念だけど旅行なんてする余裕は無いわ」
いくら父に生活費を賄ってもらっているといっても、まさか旅行代までくれとは言えない。
「いいや、ミシェル。お金ならあるんだ」
「え?」
「僕は、お金じゃなくて僕を愛してくれる人に全てを捧げようと思って隠していたんだ」
「隠していた? 一体何を」
「僕はガーフィールド家の長男。ニコラス・ガーフィールドなんだ」
私は呆気に取られた。
つまり……私もガーフィールド家に嫁ぐの?
結果的にガーフィールド家の全てを継ぐのはこのジャイルズ……いえニコラスだ。
見た目に絆されて四男坊と結婚した妹は、見た目に比例する彼の派手な女遊びに悩まされた。彼女がジャイルズの正体を知って地団駄を踏んだのは言うまでもない。
END
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