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繋がる記憶
十一話
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依然として記憶の戻らない零に対し、私は危機感を感じていた。十年前ということは分かったが、それだけ昔となると死因が分かっても彼は記憶を取り戻さないではないか? 生きている人間と同じように記憶が風化していくなら、そもそも思い出そうとしている記憶も色褪せてしまっているかもしれない。街の様子も変わってしまったのなら、零に縁のある場所も無くなっている可能性もある。
「ねぇ、桜空」
「ん? どうしたの、零」
「桜空のことを話してくれないかな?」
「えっ……私のこと?」
流れと関係ない話を振られ、戸惑いを隠せず狼狽した。なぜ急に? そんな私の心情を読み取ったのか、彼は微笑みと共に説明を付け足した。
「ほら、同じ街なんだから桜空の話を聞けば思い出すこともあるかもしれないでしょ?」
「でも、私五歳の時に引っ越したからこの街のこと覚えてないかも……」
言い終えて、零を見る。覚えていないと聞いて、零は凹んでしまったらしい。このままではいけない。何か、零が生きていた頃のこの街について話せることは無いだろうか。あれこれと模索しているとぱっと頭に浮かんだものがあった。
ふと脳裏によぎった光景。それは私が五歳の時、丁度十年前のことだ。何をしたのかまでは覚えていないが、義雄おじさんに鬼の如く怒られて泣きじゃくる私を慰めてくれていたあの人のことを私は話すことにした。
「私、小さい頃に義雄おじさんって人にお世話になっていたんだけれど」
「うん」
「その時に零と同じ春ヶ咲の制服を着ている人と遊んでもらったような気がするの」
「ここは、春ヶ咲の人多いもんね」
「私が五歳の時だったから……ちょうど十年前」
「じゃあ、俺の同級生だったりして」
冗談交じりにそう口にする零は時折考える仕草をするものの、記憶を思い出したような素振りはまるでない。やはり、この程度のことでは記憶を思い出すきっかけにはならないのだろうか。今の話には街の様子なんて、全然出ていないし……。義雄おじさんは街で有名な雷おじさんだったらしいから、もしかしたらと思ったのだけど……。他に話せるような思い出はこれといってない。どうせならもっと義雄おじさんに色々聞いておけばよかった。
「私が覚えているのはこれくらいかな」
「そっか。ありがとう」
学校でのことを話した時と同じように微笑みを浮かべお礼を言う。少しの間を置いて、零は微笑みの中に自嘲を混ぜたように投げやりな口調で話し出した。
「もうさ、俺のこと調べないでいいよ」
「えっ……何それ」
「記憶とか、別にどうでもいいんだ」
「ねぇ、桜空」
「ん? どうしたの、零」
「桜空のことを話してくれないかな?」
「えっ……私のこと?」
流れと関係ない話を振られ、戸惑いを隠せず狼狽した。なぜ急に? そんな私の心情を読み取ったのか、彼は微笑みと共に説明を付け足した。
「ほら、同じ街なんだから桜空の話を聞けば思い出すこともあるかもしれないでしょ?」
「でも、私五歳の時に引っ越したからこの街のこと覚えてないかも……」
言い終えて、零を見る。覚えていないと聞いて、零は凹んでしまったらしい。このままではいけない。何か、零が生きていた頃のこの街について話せることは無いだろうか。あれこれと模索しているとぱっと頭に浮かんだものがあった。
ふと脳裏によぎった光景。それは私が五歳の時、丁度十年前のことだ。何をしたのかまでは覚えていないが、義雄おじさんに鬼の如く怒られて泣きじゃくる私を慰めてくれていたあの人のことを私は話すことにした。
「私、小さい頃に義雄おじさんって人にお世話になっていたんだけれど」
「うん」
「その時に零と同じ春ヶ咲の制服を着ている人と遊んでもらったような気がするの」
「ここは、春ヶ咲の人多いもんね」
「私が五歳の時だったから……ちょうど十年前」
「じゃあ、俺の同級生だったりして」
冗談交じりにそう口にする零は時折考える仕草をするものの、記憶を思い出したような素振りはまるでない。やはり、この程度のことでは記憶を思い出すきっかけにはならないのだろうか。今の話には街の様子なんて、全然出ていないし……。義雄おじさんは街で有名な雷おじさんだったらしいから、もしかしたらと思ったのだけど……。他に話せるような思い出はこれといってない。どうせならもっと義雄おじさんに色々聞いておけばよかった。
「私が覚えているのはこれくらいかな」
「そっか。ありがとう」
学校でのことを話した時と同じように微笑みを浮かべお礼を言う。少しの間を置いて、零は微笑みの中に自嘲を混ぜたように投げやりな口調で話し出した。
「もうさ、俺のこと調べないでいいよ」
「えっ……何それ」
「記憶とか、別にどうでもいいんだ」
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