【完結】君の記憶と過去の交錯

翠月 歩夢

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繋がる記憶

十三話

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「今、零くんと言いましたよね!?」

「き、聞き間違えじゃないかの?」


 聞き間違えるわけがない。今日まで何度も呼んだ名前なのだから。私はさざ波だった心中を読まれないよう平静を装い、義雄おじさんに向かって言葉を投げかけた。


「零って十年前に死んだ、春ヶ咲高校の一年生の?」

「……っ!? 桜空、お前覚えとるのかっ!?」



 覚えているのか、なんて。その言葉はまるで私と零に接点があったと言っているものではないのか。

 十年前に死んだ零と同じ年にほかの街へと引っ越すことになった私にもし零と接点があったなら朧気に浮かぶあの光景の中にいるあの人は……。


 ――零、なの?


 しかし、あの人が零であるという根拠は何も無い。何か私と零が一緒にいたと裏付けるものがあれば分かるのに。

 焦燥が心を乱す中、何気なくおじさんへと視線を向ける。目に入ったのは制服のことを聞いた際に見せてくれた写真。私はそれを見てはっとした。そうだ、写真だ!

 私の両親は親バカを体現したかと思うくらいの子煩悩だ。行事の時には必ず来るし、写真だって撮っていた。それなら、十年前のアルバムが一個や二個あったって不思議ではない。いや、ない方がおかしいだろう。その答えが頭に浮かんだ瞬間、私は家に向かって走り出していた。


「はぁっ、はぁっ……」


 靴も乱暴に脱ぎ捨て、家の押入れやタンスといった収納場所を漁る。

 真っ先に向かったのはアルバムが入ってる本棚。この歳まで毎年分きっちり揃っているのに、十年以上前のアルバムは何故か一つも入っていない。


「ここじゃないっ……」


 次はテレビの下の収納棚を見る。両の扉を開け放ち、隈無く探すがCDやDVDといったものしか見当たらなかった。


「ここも違うっ……!」


 更に次は押し入れを漁った。子供の頃のおもちゃや手作りの服は見つかったが目当てのものはない。


「ここでもないっ……!!」


 床には本やCDが散らばり、本を引っ張り出すのに邪魔だった服なども乱雑に投げ出された家の中は、足の踏み場もない程散らかっていた。早く見つけなければ。どこかに必ずあるはずなんだ。そんな思いで支配されていた私は足場への注意が疎かになり、散らかした服を踏みつけ体制を崩した。


「きゃあぁぁぁっ!」


 近くにあった大きな茶箪笥に体を思いっきり打ち付ける。その衝撃で箪笥の上にあった箱が床に落ちてきて、床に激突した。反動で蓋が開き、中からは何冊か分厚めの本が飛び出てきた。

 その本に飛びついて表紙を見ると、そこには今から十年前の年が手書きで書かれていた。埃でざらついているページを捲った先には兄弟のようにくっ付いてカメラに笑顔を向ける私と零の姿があった。
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