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タルの街

根回しはしたもの勝ち

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あと少しで門が閉まるというころ、やっと入り口にたどり着いた。シャナは、あれからすぐに寝てしまった。陽も落ちかけてきたし、寒くなる前にと、マントを羽織った中にシャナを入れる。

「よう、ガルドじゃないか。依頼は終わったのか?」

門番の一人に声をかけられた。

「今日の当番は、ザグか。ちょっとトラブルがあってな。悪いが、隊長とギルマスを呼んでくれ」

「!わかった。緊急だ、誰か代わってくれ」

奥へそう声をかけ、ザグは、俺のギルドカードをチェックし別室へと案内したあと、すぐに離れていった。マントの中にシャナを抱いたままソファに座って二人を待つ。






暫くして、ノックもなく扉が開いた。

「何があった?」

「ザラムか。リールはまだか?」

「いや、後ろにいる。一緒にいたところを呼ばれたんだ」

「デカイ図体で入り口に突っ立ていたら邪魔ですよ。さっさと入ってください」

冷たく言い放ち、後ろから蹴りが入った。ズゴっという音と共に急に攻撃されたザラムは、たたらを踏み、前に倒れそうになるのをようよう堪えている。いくら鍛えられた衛兵隊長でもギルドマスターを名乗る奴の一撃は、きついらしい。

「ってーなぁ。骨でも折れたらどうしてくれる?」

「そのくらい、蚊に刺された程度でしょうに。大袈裟な」

いや、一般人なら、骨が砕けてたと思うぞ。

ふたりの不毛なやり取りに、煩かったのかシャナが身じろいだ。ポンポンとあやすと再びすぅすぅと寝息をたて始める。

「うるさい。さっさと座ってくれ」

漸く座った二人に、昨日からのあらましをシャナのやったことは、ぼかして伝える。信頼できるやつらだからすぐに話すことになるだろうが、今は、話がややこしくなるだけだ。

「水袋はここにある」

それをザラムの前に置く。リールはそれを鑑定して、目を剥いた。

「よく無事でしたね・・・・」

「なんだ?そんなにヤバイやつなのか?」

「即死毒ですよ」

ザラムもくわっと目を見開き、言葉を出せずにいる。

「その嬢ちゃんがいて、助かったな。誰かと臨時パーティーを組むことも考えろよ。仲間がいれば、狙われることも少なくなる」

「あなたともあろう人が、油断大敵でしたね。また、いちから鍛え直しますか?毒を盛られたことにも気づかないなんて、注意力散漫ですよ。もっと観察力を養いなさい」

「わかってる!今回は、本当に逝きかけたんだ・・・・。あの時は、何処かに気を引っ張られてどうにも集中できなかったんだよ。ソワソワ落ち着かないっていうか。意識がさ迷うっていうか・・・・」

まあ、その原因はシャナだったんだけどな。あれが番の存在を知らせる本能なんだろう。まさか、後ろの木の穴に人がいるとは思わなかった。

「で、その4人は、この街に向かっているのですね?」

「ああ。明日の夕方前には、街に入るだろう。その足で、ギルドに向かうはずだ。さっきも説明したが、俺から奪ったマジックバッグに入っていた魔獣を売るつもりらしい」

「そいつらは、バカなんですか?殺した相手が所属している可能性が高いギルドに来るなんて・・・。なぜ、マジックバッグになんて容れていたのです?」

「状態の悪いのは、食うつもりだったんだよ。そのとき、奪われた剣はまぁ、その辺の安いやつだ。いつものやつは、インベントリーだし。魔獣は、全部売るわけじゃないらしい。アイテムボックスに入りきらない自分たちのパーティーレベルでも狩れそうな奴を2体だ。もう少しでレベルも上がるといっていたな」

「少しは考えているのですね。なら、余罪もありそうです。死人相手では、死体が見つからない限り、公にはならないでしょうし、魔獣がいる森の中では、まず見つからないでしょう。手慣れた感じといい、今までは、発覚しなかったと考えるべきでしょうね」

リールは、顎に手をあてて、思案げに呟いた。ピクリと眉をあげたザラムが聞いてきた。

「そいつらの特長や名前は?」

他にも犠牲者がいるとなれば、犯罪者として情報が回っているかもしれないし、皇都の騎士にも連絡が必要になる。衛兵は忙しくなるだろう。

「熊の獣人がひとり、兎の獣人がひとり、エルフがひとり、竜人がひとり。エルフは女だ。竜人の番だろうな。名前はわからない。シャナに聞けばわかるかもしれないが」

「あぁ、あなたを助けたと言う子供ですね。見当たりませんが、今どこに?」

ふたりは、確かめるようにあたりを見回して子供を探す。門番から何も伝言受けていないリールの背後から黒い靄が湧きだし、ザラムからもキツい視線を向けられる。ここでは、子供は貴重だし、大切な存在だ。

「門番に預けましたか?まさか、置いてきたとか、いいませんよね?」

にっこりと笑顔で聞いてくる。

「・・・・にいる」

俺は、少し気まずげに呟いた。

「何と?聞こえませんよ」

「だから!ここにいるって!」

そう言って、マントを少しだけ広げてぐっすり眠るシャナを見せた。

「「・・・・」」

ふたりは、絶句したまま動かない。何を考えているかよくわかる。俺が、マントにくるんで大事そうに抱えているのが、驚きなのだろう。子供・大人関係なく、寄ってくる有象無象に冷たい態度で接しているのを知っているふたりにしてみれば、いくら自分を助けた子供でもここまでするとは思っていなかっただろう。確かに、ただの子供なら、門番に渡していただろうから、間違ってはいないが。

「んっ」

可愛い声を漏らして身じろぐシャナを再び、マントの中に隠し、トントンと宥める。

「「・・・・」」

その行為に、ふたりは片手で目を覆い、リールは上を向き、ザラムは、下を向いた。





どれくらいそうしていたか?
やっと、ふたりは気を取り直した。

「その子は、エルフの子ですよね?」

「どこの子だ?」

「・・・・、名前は、シャナーリエ。40歳。目が覚めたら、森に居たそうだ。それ以前の記憶はないと言っていた」

端的に知っていることを伝える。

「他には?その子からは、まったく気配がしねぇ」

「ええ、魔力もほとんど感じられませんね。まぁ、その歳では、しかたありませんが」

俺は、首を横に振り、息を吐く。それ以外は何も判らないのだ。

「あなたとの関係は?助けられたと言うだけで、そこまでしないでしょう」

本当に、よく解っていて、嫌になる。仕方なく、教えることにする。見当はついているだろうから黙っている意味はない。ただ、面白くないだけだ。

ふたりの目に交互に視線を合わせる。

そして、「番だ」と告げた。
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