貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子

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皇都

戦慄

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神官長からは吹き出した黒い固まりは、どんどんと大きくなり人を形どりはじめた。その気配に、わたしは、知らないうちにカタカタと震ていた。

「シャナ!どうしました?」

「りー、ぱぱ。神官長から黒・・・・」

そこまで言ったところで、神官長が崩折れるように椅子から転げ落ちた。顔は青白く、息をしているかさえ怪しい状態だ。突然のことにぎょっとして、その場にいる全員が神官長を凝視した。が、流石に騎士団長は、直ぐに正気に戻り、さっと神官長の状態の確認に動く。

「・・・・ダメ、サワッチャ、ダメ・・・・」

カタカタと震えながらなんとか声を出した。

「触ってはいけません!!!」

わたしの声を辛うじて拾ったりーぱぱが、騎士団長さんを止めてくれた。

「シャナ、シャナ!大丈夫ですか?」

りーぱぱに声をかけられたとき、神官長からは涌き出た黒い物体は、私めがけて手を伸ばしてきた。さっきまでの黒い靄とは全く違うもっと実体を伴った手のようなもの。

「イヤ、コナイデ・・・・」

その黒い手は、わたしの神聖結界をすり抜けてわたしを徐々に覆い尽くしていった。










「シャナ!シャナ!」

いくら呼んでも、身体を揺すってみても、シャナの反応はない。目は開いているのに生気がなく、瞳は何も写していない。

「リール!シャナに何が起こっている?!」

「わかりません!ですが、緊急事態です!ガルド、シャナを・・・・」

ガルドにシャナを慎重に手渡す。ザラムを見ると、何やら神経を研ぎ澄まして何かの気配を探っているようだ。私もこうしてはいられませんね。シャナは審査が始まる前に黒い靄が視えると言っていました。それと何か関わりがあるかもしれません。

(スノウ!)

(うん!大変だよ。シャナの魂が弾き飛ばされちゃう!)

(わかりました!ガルド!シャナと魂を繋ぎなさい!)

(了解!)

「リーランス!何が起こっている?!」

皇帝陛下が焦ったように私に説明を求めてきますが、今はそれどころではありません。シャナの身に何か起こったのは間違いありません。しかもシャナ以外に使える者のいない特殊な結界を張ったまま。

「皇帝陛下、申し訳ありませんが、今はそれを説明している余裕はありません。皆さん、できるだけ1ヶ所に纏まっていてください。宰相殿と騎士団長殿は陛下方のところへ、それ以外の方は総帥と壁際へ。急いで!」

早口にそれだけ言うと、ザラムと同じように全神経を研ぎ澄まし、黒い靄を探る。皇帝陛下が頷き、他の者たちがさっと移動を開始したのが視界の隅に映ったが、どうでもいい。



無言のピーンと張り詰めた空気が室内を支配する。この部屋の異様な魔力を感じとり、誰も動かず、いや、動けず、固唾を飲んで成り行きを見守っている。

「そこだ!」

私よりも一瞬早く、ザラムが動いた。何処からか取り出した大剣を何もない・・・・空中で振るう。


その瞬間、黒い靄が一気に吹き出してきた。

「「「「っ!・・、何だあれは・・・・」」」」

吹き出してきた黒い靄は、どんどんとこの部屋を覆っていく。魔術師団長たちは、この黒い靄を消そうと魔法を発動したようだが、全く効かないことに驚きの色を隠せないでいた。

やはり、ただの浄化では効き目はないか・・・・。

どうしようかと頭をフル回転して思案していると、何処からともなく声が響いてきた。

『なぜ、なぜこの世界に聖剣があるのだ!くぅっ・・・・!まあいい。今は見逃してやろう。いずれその身体貰い受けようぞ』

声と同時に黒い靄は収束し、シャナの神聖結界によってあっという間にきれいに浄化されていった。

「!!!シャナ!無事か?!」

ガルドの叫び声でシャナが正気に戻ったのが分かり、ホッと身体の力が抜けていった。








少し時は遡り・・・・。

黒い靄が神聖結界をすり抜けてわたしを覆い尽くしたと同時にわたしの魂は闇の中へと堕ちていった。


気がつくとわたしは真っ暗な空間にいた。

何も見えない。

「・・・・」

言葉を発したのに聴こえない。

「・・・・」

もう一度試してみたが、やはり、聴こえてこない。闇にすべてが飲み込まれていくようだ。その状況に恐怖が沸き上がり、身体がカタカタと震え出す。

(怖い!怖い!怖い!助けて!)

震える身体を抱き締めていると、急に誰かがわたしの腕をとり、引っ張って歩き出した。

(誰?)

目を凝らしてその姿を捉えようとしたが、闇が広がるばかりで瞳は何も写してくれない。

(怖い・・・・嫌!行きたくない!)

わたしは抵抗して足を踏ん張ってみるが、ズルズルと引きずられてどんどんと元の場所から離れていく。

(助けて!助けて!助けて!助けて!)

わたしの願いは誰にも何処にも届かない。どれだけそうしていたのか、絶望が広がり始めたとき、闇が薄くなった気がした。わたしを掴む手が止まり、わたしだけを闇の外へ出そうと腕に力を込めたのが分かった。

(ダメ!その先はダメ!)

必死に抵抗するが、それ・・がニヤリと嗤った気がした瞬間、前に強く押し出され・・・・なかった。それがわたしから切り離された・・・・、のだと思う。ホッとしたと同時に暖かな気配を感じて、そちらを見ると、真っ暗な闇の中にふわりと柔らかな光が浮かび上がっている。次の瞬間、わたしは、その光目掛けて駆け出していた。




気がつくと、視界一杯に泣き出しそうな顔のガルが居た。どうしたのか?とガルの頬に手を伸ばすとその手を捕まれた。

「!!!シャナ!無事か?!」

え?何事?

ガルの勢いにちょっと引きつつ、辺りを見回した。さっきまであった黒い靄は無くなり、心配顔のりーぱぱとざらぱぱが目に飛び込んでくる。

「シャナ、気分はどうですか?」

スッと近づいてきたりーぱぱとざらぱぱ。

「ん?いつもと変わらないよ。何があったの?黒い靄も消えたね」

いつの間にかみんな、壁の方に寄って固まっていた。

「それ・・・・」

りーぱぱが何か言おうとしたとき、頭の中に声(?)が響いてきた。

(緊急召集。明日、朝4の鐘、皇宮神殿。参加者は、これが聴こえたもの。各国の離宮の使用を許可する)

お知らせのような一方的な内容だ。呆気にとられていると、今度は、冒険者5人が淡く光りその場から姿を消した。

なにごと~!

(あの者たちは、記憶操作をしてそれぞれの場所に返しました。この場にいるこの声が聴こえていない者もここで今起こったことの記憶はありません。神官長は・・・・、アルトザラム、先程の剣で触れなさい)

ざらぱぱが、わたしが創って渡しておいたバングル型のブレスレットを大剣に変えて、神官長に触れる。と、神官長の身体は光に包まれて散霧した。そこに居る全員が、驚きの光景に目が釘付けになり、息をしているかすらも怪しい状態で、呆気にとられている。もう、謎の声は聞こえてこなかった。







「聴こえた者は?」

暫くして、平静を取り戻した皇帝陛下が周りを見回しながら問う。

聴こえた者たちが手を挙げた。

皇帝陛下はもちろん、エルフの国王、近衛騎士団長、魔術師団長、龍人の国の騎士団総帥、近衛騎士団長、騎士団長、魔術師団長、宰相、ガル、りーぱぱ、ざらぱぱ、そしてわたしだ。




「宰相、審査を始めよ」

皇帝陛下のその一言で全員がはっと正気を取り戻し、記憶を操作された者は首をかしげながら最初の席に戻った。

「では、シャナ嬢の後見人にガルドラム殿、リーランス殿、アルトザラム殿が就くことに異議がある者は、挙手を・・・・」

「「「「・・・・」」」」

「異議なしということで、このお三方に決まりました。以降の異議は認められません。これにて、審査は閉幕とします」

「大義であった」

皇帝陛下の一言によって、審査は終了となった。
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