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お披露目
戦闘を終えて
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イナイの森で戦う騎士や冒険者に疲労が溜まり始めた15日目。怪我人が増えてきた頃、漸く魔力溜まりから出てくる魔獣がいっきに減った。鐘1つ分で3体ほど。落差が半端ない。出てくる魔獣もゴブリンやオーク、ブラックウルフなどのDランク以下の魔獣がメインだ。もう大丈夫だと判断され、わたしたち4人と2国の総帥だけを残して撤収となった。結局、戦闘の間、わたしはここにいるだけで何もすることがなかった。
「シャナ、魔力溜まりのあった場所を見に行きましょう」
「うん」
わたしはガルに抱っこされて、その場所へと連れられていった。そこは、元の通り魔力が流れる場所に戻っている。
「魔力の乱れはなくなりましたね」
「うん。魔力溜まりもほとんど消えたよ。あと2・30体くらいは発生しそうだけど。それで、完全に消えるよ」
「そのくらいなら問題ない。ここに限らず森には魔獣が居るものだからな」
「そっか。なら、今のところは大丈夫だね!」
「今のところは?どういう意味ですか?」
りーぱぱが鋭くわたしの言葉に反応した。
「えっとね、魔力溜まりは消えたけど、地中の破壊神の魔力があった場所の歪みは元に戻らないみたいなの。だから、その歪みに向かってちょっとずつ魔力が引き寄せられてるの。すぐにどうこうはなくて、何十年もかけてそこに魔力が溜まって、最大で今回と同じ規模の魔獣の大発生が起こるかも?」
大人5人が目を見開いて息を飲んだのが分かった。
「・・・・それは、シャナ嬢でも元に戻せないのか?」
「うん。うーんと。大きな怪我をした後、治っても皮膚が轢きつれたみたいになるでしょ。あれと同じだよ。治らない」
「どれくらいで、今回のような大発生が起こる?」
総帥たちにとっては切実な問題なんだろう。顔が怖い。
「それは、分からない。最大の許容量は今回と同じだけど、何がきっかけで溢れ出すか分からないから、半分溜まったところで大発生するかもしれないし、1/10溜まったらかもしれない。今回みたいに核がある訳じゃないから、そんなの分からないよ。これから、観察していくしかないと思う」
おじさんたちの難しい顔が更に難しくなっていく。
「他のところも核があったのですから、ここと同じでしょうね。規模は、どうでしょう。ここは、核の許容量一杯まで溜まっていましたが、他は・・・・。潜在許容量があるのか?シャナ、一度見てもらえませんか?」
「うん。いいよ」
「では、私たちは他のところを見て回った後、龍人の国に帰ります。皇帝陛下にこの事は伝えますので、後日召集がかかるかもしれません。それぞれの国王陛下にお伝えください。では、失礼致します」
わたしたちは、まず、マジョの森に飛んだ。そこは、既に後始末も終え、静かな森に戻っていた。魔力溜まりのあったところを見ると、やはりイナイの森と同じで今後、数十年先に再び大量発生する兆しが見えた。残りの3ヵ所も同じ結果だった。それぞれの最大規模は・・・・
ニンフが一万七千、キライが一万二千。イナイが二万、マジョが九千、一番小さいタカラでも二千だ。
この事はすぐに皇帝陛下と各国に告げられた。今後のことは、各国の騎士団総帥と騎士団長、そして冒険者ギルドの総帥で話し合い、対策を決めることになったから、わたしは漸くこの忙しい日々から解放された。
転移でマレビの森のわたしたちだけが知る洞窟に飛び、ガルに抱っこされて鐘3つ分も走ると懐かしいタルの門が見えた。1月も離れていないのに、毎日が濃いせいかとても久し振りに思えてしまう。やっとタルの家に帰ってこれたよ。我が家が一番だ。ほっとした途端、また熱を出し、3日ほど熱にうなされるはめになった。働かせ過ぎだよ!
「シャナ。起きたか」
「うん」
ガルがわたしの首筋や額に触れ、熱を確認している。
「まだ、熱はあるが、随分下がったな」
「・・うん」
「まだ、2・3日は安静にしてろよ」
「・・うん」
「なんか食べれそうか」
「・・・・うん」
まだ頭がぼーっとしているせいか、「うん」と言うのが精一杯だ。ずっと寝ていたせいか、身体に力が入らない。ガルの膝にすっぽりと入り込み、背中をガルの胸に預けて座らされた。楽。あったかい。
「ほら、果物だ。あーんしろ」
もちろん手にも力が入らないからフォークなんて持てない。食べさせてもらうしかないけど、ぼーっとしているせいで恥ずかしさもなにもない。何種類かの小さく切られた果物を少し食べるとまた眠くなってきた。
「おやすみ」
ガルにすっぽりと包まれているのが分かり、安心して意識を手放した。
それから3日。漸くりーぱぱの許可がおりて、ベッドから出してもらえた。昨日はもう元気一杯なのにベッドに転がされて、退屈で退屈で、何度ガルに「起きてもいい?」と聞いたことか。その度に、「ダメだ」と言われ、隙をみてお菓子やご飯をスキルで作っては叱られた。
ガルに抱っこされてダイニングに降りるとざらぱぱがいた。朝ごはんらしい。
「おお。やっとよくなったか!」
「ざらぱぱ!」
ざらぱぱに会うのは久し振りだ。わたしはざらぱぱに駆け寄って、その勢いのままざらぱぱにダイブした。
「よしよし。熱もないな。寝てばっかりで身体がなまってるだろう?」
ざらぱぱは危なげなくわたしを受け止めると、ひょいっと肩に乗せた。
「そうなんだよ。昨日はもう大丈夫って言ってるのにずっとベッドから出られないし」
「それは、仕方ないな。シャナが熱で魘されてる間、ガルドもリールも気が気じゃなかったろうからな。俺はここにいられなかったが、心配したぞ?」
心配かけたのは分かってる。だから、大人しくベッドにいたんだから。
「ざらぱぱは何処に行ってたの?」
ざらぱぱは、わたしを専用の椅子に下ろしてくれた。
「ん?皇都だ。例の件の話し合いだ。それよりシャナ、今日は依頼か?」
「いや。病み上がりだからな。依頼は明日からだ」
わたしが聞かれたのに何故かガルが答えた。
今日はダメなのか・・・・。
つまらないなぁと言うのが顔に出ていたのか、ざらぱぱが嬉しい提案をしてくれた。
「なら、今日は衛兵の訓練所で鬼ごっこするか?」
「する!」
ガルも頷いているから、決まりだ。ちょっと身体を動かしたかったんだよね。こうして、わたしはやっと日常に戻れたのだった。
「シャナ、魔力溜まりのあった場所を見に行きましょう」
「うん」
わたしはガルに抱っこされて、その場所へと連れられていった。そこは、元の通り魔力が流れる場所に戻っている。
「魔力の乱れはなくなりましたね」
「うん。魔力溜まりもほとんど消えたよ。あと2・30体くらいは発生しそうだけど。それで、完全に消えるよ」
「そのくらいなら問題ない。ここに限らず森には魔獣が居るものだからな」
「そっか。なら、今のところは大丈夫だね!」
「今のところは?どういう意味ですか?」
りーぱぱが鋭くわたしの言葉に反応した。
「えっとね、魔力溜まりは消えたけど、地中の破壊神の魔力があった場所の歪みは元に戻らないみたいなの。だから、その歪みに向かってちょっとずつ魔力が引き寄せられてるの。すぐにどうこうはなくて、何十年もかけてそこに魔力が溜まって、最大で今回と同じ規模の魔獣の大発生が起こるかも?」
大人5人が目を見開いて息を飲んだのが分かった。
「・・・・それは、シャナ嬢でも元に戻せないのか?」
「うん。うーんと。大きな怪我をした後、治っても皮膚が轢きつれたみたいになるでしょ。あれと同じだよ。治らない」
「どれくらいで、今回のような大発生が起こる?」
総帥たちにとっては切実な問題なんだろう。顔が怖い。
「それは、分からない。最大の許容量は今回と同じだけど、何がきっかけで溢れ出すか分からないから、半分溜まったところで大発生するかもしれないし、1/10溜まったらかもしれない。今回みたいに核がある訳じゃないから、そんなの分からないよ。これから、観察していくしかないと思う」
おじさんたちの難しい顔が更に難しくなっていく。
「他のところも核があったのですから、ここと同じでしょうね。規模は、どうでしょう。ここは、核の許容量一杯まで溜まっていましたが、他は・・・・。潜在許容量があるのか?シャナ、一度見てもらえませんか?」
「うん。いいよ」
「では、私たちは他のところを見て回った後、龍人の国に帰ります。皇帝陛下にこの事は伝えますので、後日召集がかかるかもしれません。それぞれの国王陛下にお伝えください。では、失礼致します」
わたしたちは、まず、マジョの森に飛んだ。そこは、既に後始末も終え、静かな森に戻っていた。魔力溜まりのあったところを見ると、やはりイナイの森と同じで今後、数十年先に再び大量発生する兆しが見えた。残りの3ヵ所も同じ結果だった。それぞれの最大規模は・・・・
ニンフが一万七千、キライが一万二千。イナイが二万、マジョが九千、一番小さいタカラでも二千だ。
この事はすぐに皇帝陛下と各国に告げられた。今後のことは、各国の騎士団総帥と騎士団長、そして冒険者ギルドの総帥で話し合い、対策を決めることになったから、わたしは漸くこの忙しい日々から解放された。
転移でマレビの森のわたしたちだけが知る洞窟に飛び、ガルに抱っこされて鐘3つ分も走ると懐かしいタルの門が見えた。1月も離れていないのに、毎日が濃いせいかとても久し振りに思えてしまう。やっとタルの家に帰ってこれたよ。我が家が一番だ。ほっとした途端、また熱を出し、3日ほど熱にうなされるはめになった。働かせ過ぎだよ!
「シャナ。起きたか」
「うん」
ガルがわたしの首筋や額に触れ、熱を確認している。
「まだ、熱はあるが、随分下がったな」
「・・うん」
「まだ、2・3日は安静にしてろよ」
「・・うん」
「なんか食べれそうか」
「・・・・うん」
まだ頭がぼーっとしているせいか、「うん」と言うのが精一杯だ。ずっと寝ていたせいか、身体に力が入らない。ガルの膝にすっぽりと入り込み、背中をガルの胸に預けて座らされた。楽。あったかい。
「ほら、果物だ。あーんしろ」
もちろん手にも力が入らないからフォークなんて持てない。食べさせてもらうしかないけど、ぼーっとしているせいで恥ずかしさもなにもない。何種類かの小さく切られた果物を少し食べるとまた眠くなってきた。
「おやすみ」
ガルにすっぽりと包まれているのが分かり、安心して意識を手放した。
それから3日。漸くりーぱぱの許可がおりて、ベッドから出してもらえた。昨日はもう元気一杯なのにベッドに転がされて、退屈で退屈で、何度ガルに「起きてもいい?」と聞いたことか。その度に、「ダメだ」と言われ、隙をみてお菓子やご飯をスキルで作っては叱られた。
ガルに抱っこされてダイニングに降りるとざらぱぱがいた。朝ごはんらしい。
「おお。やっとよくなったか!」
「ざらぱぱ!」
ざらぱぱに会うのは久し振りだ。わたしはざらぱぱに駆け寄って、その勢いのままざらぱぱにダイブした。
「よしよし。熱もないな。寝てばっかりで身体がなまってるだろう?」
ざらぱぱは危なげなくわたしを受け止めると、ひょいっと肩に乗せた。
「そうなんだよ。昨日はもう大丈夫って言ってるのにずっとベッドから出られないし」
「それは、仕方ないな。シャナが熱で魘されてる間、ガルドもリールも気が気じゃなかったろうからな。俺はここにいられなかったが、心配したぞ?」
心配かけたのは分かってる。だから、大人しくベッドにいたんだから。
「ざらぱぱは何処に行ってたの?」
ざらぱぱは、わたしを専用の椅子に下ろしてくれた。
「ん?皇都だ。例の件の話し合いだ。それよりシャナ、今日は依頼か?」
「いや。病み上がりだからな。依頼は明日からだ」
わたしが聞かれたのに何故かガルが答えた。
今日はダメなのか・・・・。
つまらないなぁと言うのが顔に出ていたのか、ざらぱぱが嬉しい提案をしてくれた。
「なら、今日は衛兵の訓練所で鬼ごっこするか?」
「する!」
ガルも頷いているから、決まりだ。ちょっと身体を動かしたかったんだよね。こうして、わたしはやっと日常に戻れたのだった。
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