貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子

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新しい試み

妥協点

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俺たちは陛下たちを母上に預けジャイたちと別れて、離宮に戻った。そして、シャナを追いかけて島へとんだ。

「シャナ?」

「遅くなりました」

「何処だ?」

リビングにもキッチンにも寝室にもシャナの姿はなかった。シャナの部屋にいるナビーにシャナの居所を尋ねると外だという。俺たちは慌ててシャナを探しに飛び出した。

(スノウ!シャナはどこだ?!)

(遅い!!!海辺だよ)

俺たちは海辺を探し回り、木の間に不思議な紐を括りつけたその中にシャナを見つけた。どうやら眠っているようだ。涙の痕がある。

(いたぞ)

スノウの念話を使ってリールとザラムを呼び寄せる。

(スノウも眠たいの。お休みしていい?)

(助かったよ)

(ゆっくりお休みなさい)

(ん)

「心に傷を負っていなければいいのですが」

リールがシャナの涙の痕をそっと撫でながら、クリーンとヒールをかけてシャナの赤く腫れた目蓋を癒している。ザラムもシャナの髪をいつものわしゃわしゃではなく、鋤くように優しく解かしていた。俺はそっと紐の中からシャナを取りだすと砂浜に座った。波の音が耳に優しく響く。

「親父たちは今頃母上たちにどやされてるな」

ザラムは意地悪そうに笑っているが、どやされるどころではないだろうな。修羅場だ。

「シャナは皇妃様たちに愛されていますからね。あんな仕打ちをしたんですから、しっかりと反省してもらわなければ。今後、シャナは皇城どころか皇都にも王城にも連れていけませんからね」

「それを母上に告げるリールは鬼だよな」

「違いない」

「おや、ガルドは皇妃様に呼ばれてシャナを皇城に連れていけるのですか?ザラムは?母上にお茶会に招待されてシャナを自宅に連れていけるのですか?」

「無理だな。近づけたくない」

「ダメだ。行かせない」

「我々が悪者にならないために情報を正しく伝えたまでですよ」

これが、あんなこと冷戦状態になるなんて思いもしなかったが、あそこには愛妻家しかいないからいい薬になっただろう。俺たちは砂浜に転がりながら、のんびりとシャナの目覚めを待った。









皇城から島にとんだわたしは、どうしていいのか自分の感情を持て余し、砂浜で泣いた。涙が後から後から溢れてくるのだ。ガルたちはいつまでたっても来てくれない。それも悲しくて寂しくてボロボロと気の済むまで泣いた。慰めてくれるのはスノウだけだ。スノウが起きててくれてよかった。やがて泣きつかれたわたしはハンモックを創って、その中で丸まって寝た。



「ん・・・・」

なんか温かい。ぼんやりと目を開けると目の前にガルの顔があった。優しく髪を鋤いてくれる手が気持ちいい。

「おはよう」

「ん・・お"ばよう"」

喉が痛い。なんでだ?

「ほら、飲み物だ」

ざらぱぱからりんごジュースを受け取った。りーぱぱは喉にヒールをかけてくれた。なんだか甲斐甲斐しい。

「遅くなってごめんな」

そうだよ!寝たから忘れるところだった。

「もっと早く来てよ!」

「そのつもりだったんだが・・・・」

「あの後、タイミングのいいことにあの場に皇妃様がシャナを尋ねて来たんですよ」

おや、りーぱぱがいい笑顔だ。

「きっと今頃、どやされてるぞ」

ざらぱぱも晴れやかに笑ってる。

「他国の夫人たちも呼んだみたいだからな。どうなることやら」

ガルも愉しそうだ。床に正座させられる陛下たちと仁王立ちの皇妃様たちの構図が頭によぎった。・・・・。あんまり考えたくないな。

「わたし、あんなこと言っちゃったけど、大丈夫だったの?」

「母上が来たことでうやむやだ。それにリールやジャイたちも大概だったぞ?」

「あの人たちもこれに懲りて、シャナを利用することは控えるでしょう」

「あの剣幕じゃ、次はないだろうな」

「今日はもうゆっくりしよう」

ガルの提案にみんなでバーベキューをしたり、マイダンジョンで食材を調達したりして有意義に過ごした。ハンモックを気に入ったざらぱぱがここで寝るといい始めたときはどうしようかと焦ったが、りーぱぱの拳ひとつで部屋に作ることに決まった。流石、りーぱぱだ。わたしたちはその日、皇城に帰ることはなく島に泊まり、翌日も皇城には戻らずタルに帰った。後日、皇妃さまや王妃さまたちや関係者の夫人たちからお詫びの手紙と品物が届いた。どの手紙にも、ちゃんと〆たから赦してね、とあった。〆たって・・・・。考えるのはよそう。その手紙を有効に活用するりーぱぱから返信の仕方という勉強を強制され、15人に適切な手紙を書くことになった。貴族特有の婉曲な言い回しが怨めしい。



それからは穏やかな日々が続き、この騒動を忘れた頃、ざらぱぱのパパと一緒にエルフの国の騎士団の総帥が私たちを訪ねてタルにやって来た。

「何しに来た?」

ざらぱぱの雑な対応にもめげることなく、スッと一振りの剣と杖をわたしたちに見せつけてきた。嫌な予感だ。

「抜いたのか?」

呆れたざらぱぱの声とガルとりーぱぱの溜め息がリビングに響いた。そういえば10日前に聖剣の日があったなぁと思い至った。えっ!総帥自ら手に入れたのか!

「騎士団で争奪戦だったのを俺が制した」

「まあ、伊達に総帥を名乗ってはおらんさ」

ニヤリと嗤うが、つまり?

「これで堂々と頼めるな♪」

「「稽古をつけてくれ」」

二人の総帥から深々と頭を下げられた。恐れ入った。脳筋の強くなることへの執着に脱帽だ。

「それはダメだろう」

「他からクレームが来る」

「公平ではありませんね」

「それは大丈夫だ。既に話はつけてある」

「我らが経験したことをもとに訓練を考えることになっておる」

根回しも済んでいるという・・・・。並々ならぬ執念を感じる。怖い。ぶるっと震えてガルに身を寄せた。

「シャナが怖がってるだろ!」

ガルの一喝にしょぼんと肩を落とすおじさん二人が憐れになってきた。

「いいよ。聖剣まで抜いてきたんだし、そのしゅうちゃ・・しゅうね・・えっと・・・・心意気を称して参加させてあげるよ。日時は来月の初日、朝1の鐘にこの家に集合。期間は1月」

ふたりは満面の笑みで「「感謝する♪」」と声を弾ませた。

「ああ、楽しみだ」

「久々にワクワクするぞ」

お出掛けが決まった子供のような喜びようだ。

「いいのか?シャナ」

「仕方ないですね」

「まあ、聖剣を持ってるってことは信用に値するからな」

あれ、でも待って。

「パパは竜人なのにアリア姉様とそんなに離れて大丈夫なの?」

「1月なら問題ない。若者と違ってこの年になると繋がりが確立されてるからな。年単位でなければ暴走などしないな」

そうなのか。奥が深いな、竜人。

こうして、翌月から聖剣保持者の5人とわたしたちは島で訓練することになった。2人は、その成果を各国に持ち帰り、そわそわと待っている騎士団という名の脳筋集団にアンデッドを想定した訓練をつけるというサイクルが出来上がった。

脳筋、一途過ぎる。
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