巻き込まれ召喚になった私はまったりのんびりスローライフを目指します!

紅子

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終の棲家

街へ来て一番始めに出向いたのは、冒険者ギルド。この街にもあってよかった。そこで、私の全財産をおろし、アイテムバッグに仕舞った。これでもう冒険者ギルドに出向くこともない。ここは、私にとって鬼門。近づきたくない。私は、なくなった食料を調達し、次の街へ行く定期馬車に乗ってすぐにこの忌々しい街を離れた。

「この国は、街に入るときも出るときも検問がないんだ」

あれから野営で1日過ごし、定期馬車の終点の街に辿り着いた。ここは活気のあるそこそこ大きな街のようだ。定期馬車は、簡単な食事もついて銀貨2枚~5枚。意外とお得。街に辿り着いてすぐ、1時間後に出発するこの街から3日の街まで行く定期馬車の乗車券を買った。私みたいな人は結構いるようで、怪しまれることもない。兎に角、あの街から遠く遠く出来るだけ遠く離れるために、なるべく街で宿を取ることもせず、定期馬車を乗り継ぐことに決めた。そうして、半年かけて、海辺の風光明媚な街まで辿り着いた。その頃には心身共にボロボロ。途中で、樹木人に擬態するのはやめた。普通の人も少なからず見かけるし、擬態はやはり負担が大きかった。

「ん~っ!いい街じゃない?」

山に囲まれた入り江に広がる小さな街。海には小さな島が無数に見える。その島から時折船が出てくる。ここは、島ひとつひとつに人が住んでいるちょっと変わった場所だ。

「不動産を扱うのは、確か、商業ギルドだったはず」

観光がてらのんびりと坂を下り商業ギルドを探すが、小さな街だ。すぐに見つかった。受付には誰もいない。

「すいませ~ん」

仕方なく声をかけると、透明なトンボのような羽根をパタパタさせながら、サラリーマン風の柔和な有翼人が顔を出した。40歳前後だろうか。

「はいは~い。お待たせしました。どうぞ、お掛けください」

「いえ。ひとり、ですか?」

「もうひとりいますが、今日は休みなんですよ。なんせ小さな街ですから、僕ひとりでも何とかなってしまうんですねぇ。ランカー商業ギルドのヘルバーです。よろしくお願いしますね?」

ここは、ランカーという街。島で生活する珍しい街だ。島の中には宿もあり、食堂もある。それに憩いの島や子供を預ける施設なんかも整ってとても住みやすそうだ。

「ミーアです。ここに住みたいなぁとやって来ました」

ある定期馬車で、乗客のひとりから教えてもらったこの街。ひとりで住める島があると聞いて、いいところだといいなぁと思いつつ、目的もない旅だから、遠路遙々とここを目指してみた。

「ああ。移住希望者さんですねぇ。街と島とどちらを希望でしょうか」

「島だとひとつの島にどのくらいの人が住んでいるのでしょうか?」

「ひとり島、2世帯島、4世帯島からお選びいただきます。今でしたら、ひとり島と4世帯島が空いてますね」

「ひとり島だと大きさは?」

「島一周、歩いて2時間といったところでしょうか」

「農業は?」

「出来ますよ?簡単に生活の仕方を説明しますね?」

ヘルバーは、私にこの街の知識がないと分かったのか、ここでの暮らし方を教えてくれた。

・島と街は船で往き来する
・島と島も船で往き来する
・島の家賃は金貨1枚/月で家と備え付けの大型魔道具と船1艘を含む
・家賃は基礎所得から自動回収する
・2艘目からは有料で貸出あり
・島の売買は不可
・島はひとつひとつが結界の魔道具で護られているため、魔物、盗賊の侵入は心配不要
・井戸がないため、魔法で出すか雨水を溜めて使う
・決められた土地の中ならば、法に抵触しない限り自由
・家に1台、街の島管理センターと繋がる通信機があるから、緊急の場合は連絡すること
・朝~夕方は船で移動販売してもよい。商業ギルドの許可は不要

「これが、今、移動販売で購入できるリストです」

ざっと目を通したが、ほとんどの物が揃っていた。いい。ここ、いい。理想のスローライフを過ごせそう。島で生活するイメージがどんどん湧き出てくる。ニヤけそうになる口許を引き締めた。その前に聞かなきゃいけないことがある。

「あの、基礎所得って何ですか?」

「ミーアは成人していますよね?」

「はい」

「ここは、亜人の大陸とも龍の国とも呼ばれるんですが、成人すると基礎所得として毎月金貨3枚が支給されます。これは誰でもです。ミーアがまだ登録してないなら登録出来ますよ。商業ギルドか冒険者ギルドのカードがあれば簡単にできます。なくても、ここは商業ギルドですから、すぐにカードを発行しますよ?」

にっこりと提案してくれるヘルバーに、ここで、しないというのもおかしな話だ。働かなくてもお金がもらえるなら、登録しない人なんているんだろうか?

「では、お願いできますか?」

私は知らなかった。冒険者ギルドと商業ギルドはカードの情報を共有していることを。ヘルバーは、知っていて、私の冒険者ギルドのカードに振り込まれているお金も全て新しい商業ギルドのカードに移して、冒険者ギルドのカードを無効にしてくれたことを。

「これで、完了です。これから・・・・は、こちらの商業ギルドのカードを使用してくださいね?」

「ありがとうございます。ひとり島でお願いします!」

私の勢いに苦笑気味のヘルバーから提案があった。

「まずは、島を見てもらいましょうか」

そうですね。それが先ですよね。ヘルバーの先導で、私たちは、商業ギルド所有の船がある港へやって来た。この間10分くらいだろうか。

「ミーアは運がいいですよ。ひとり島が空くことはなかなかなくて。空いたときに一番乗りした人が契約できるようになってるんですよ」

うわ~。幸運値100、凄い。

「じゃあ、空いたのは最近なんですか?」

「昨日の夕方ですね。元々、お婆さんがひとりで住んでいらしたんですが、1月前に身体を壊して療養所に入院しましてね。昨日、息子さんから解約の連絡があったんです。ひとりは心配だからと。ひとり島は、1世帯用ですし、息子さんは別のところで仕事がありますからねぇ。お婆さんの荷物は今朝、纏めて送りましたし掃除も終わってますから、すぐにでも住めますよ?」

うわ~。なんてタイミング。

「ヘルバーは街暮らしなんですか?」

「いいえ。私はひとり島です。いいですよぉ、ひとり。仕事は隔日。仕事のない日は畑を耕したり。野菜を売りに船を出したり。誰も来ない島でぼーっとするのも乙なものです。それに、ここの海は魔物も弱いし、数も少ないですから、泳げるんですよ。潜れる島民なんかは貝を捕って売っています。美味しいですよぉ」

何その自慢。羨ましい。ヘルバーから憧れの生活を自慢されつつ、船はどんどんと進んでいく。島をジグザグと抜けていくんだが、これ、迷子になりそう。

「これ、迷子になる人はいないんですか?」

「いますよ。特に住み始めは。迷って迷ってそのうちに覚えるんです。島のあるこの湾内なら危険なところはそれ程ありませんから、沢山迷ってください。湾の出入り口にはゲートがありますし、大丈夫ですよ。それに、迷っている間に知り合いも増えていきます」

やっぱり迷うんだ。島に住む人たちは、それも慣れっ子と。

「さあ、着きましたよ。ここが、ミーアのひとり島です」

船着場のある桟橋から島に上陸するとそこは、天国でした。

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