23 / 28
孤独と安らぎと
しおりを挟む
何も見たくない。何も聞きたくない。何も考えたくない。今は。
時々、遠くでくわんくわんボワンボワンと何か聞こえるが、それも私の耳には届かない。ずっと目を逸らしていた事実を突き付けられ、無理矢理保っていた心が折れた。帰りたいと心が悲鳴をあげる。両親はいなくとも、私を心配して連絡をくれたり訪ねてくる友人はいる。小さい頃からの幼馴染みも近所に住んでいて、時折、夕食に招いてくれもした。
分かってる。あっちに戻ったとしても、本当の意味で頼っていい人はいないって。どうしたらいい?私はそんなに強くない。寒くて冷たくて凍えてしまいそう。こんなの重すぎて背負いきれないよ?もう、無理・・・・。
このまま、壊れてしまえば楽になれるのかな?
全てを手放そうとしたとき、温かくて力強い何かが私の中に入り込んできた。それは徐々に膨らんで、私を完全に包み込む。私の中の孤独がすっと癒やされた。
何、これ?
「・・さ、み・・みあさ、神麻!」
誰が私を呼んでいる。ミャーサでもミーアでもなく、ちゃんと神麻と私の名前を。たったそれだけのことで涙が零れそうになる。ずっと誰にも呼んでもえなかった私の本当の名前。
少しずつ感覚が戻ってきた。真っ暗だった視界に光が射す。冷たくて凍えそうだった身体に温もりが伝わってくる。何より「神麻」と私を呼ぶ声が耳を震わせる。ゆっくりと浮上してきた意識のままに瞼をあげると、柔らかそうな銀色の髪が目に映った。そして、私を抱き締める力強い腕と懸命に私の名を呼ぶ苦しそうに震える声。ぼんやりとした意識がはっきりとするにつれて、それが誰なのかにも気付いた。
「神麻、戻ってこい。神麻」
この世界で、誰も私の名前を呼べる者はいなかった。それなのに・・・・。
「ど・・じで?」
あなたは、私の名前を呼べるの?
「!!!戻ってきたか?!・・やっと・・・・やっとだ。俺が誰か分かるか?」
ばっ!と私の顔を覗き込むカイゼスの泣きそうに歪んだ、それでいて安心したような顔が目に映った。肯定を示すためにコクンと私は首を縦に振る。
「よかった」
再びカイゼスに抱き締められた私は、されるがままぼんやりとその行為を受け入れていた。今は人の温もりが恋しい。そう言えば、この世界に来て、こんなふうに私を心配したり、抱き締めたのはこの人だけだったなぁと思いあたった。
「ごごは?・・・ゴホッゴホッ」
ガラガラとした音しか出てこない。喉が痛い。
「飲んで」
抱きかかえられたまま口許に差し出されたのはグラスに入った水だった。ほんのりと温かいそれに、ほっと息を吐いた。
「腹は?減ってないか?」
クゥ~
お水をお腹に入れたからなのか、さっきまで全く感じなかった空腹をお腹が訴えてきた。
「ちょっと待ってろ」
待ってろ、と言ったにもかかわらず、カイゼスは私を抱き上げるとテーブルのあるソファーへと移動する。今までいたのはベッドだったようだ。カイゼスに抱えられていたから分からなかった。そして、ソファーに下ろしてもえるとばかり思っていた私は、カイゼスの膝に乗せられたことに戸惑いを覚えた。そんな私に気付いていないのか、テーブルに消化の良さそうな料理をアイテムバッグから取り出している。そして・・・・。
「ほら」
口許にスプーンが運ばれてきた。ぼーっとその様子を見ているだけだった私も、それはさすがに遠慮したい。
「自分で、たグフ」
食べられますと言おうとした私の口の中にスプーンが押し込まれた。
「神麻は10日間寝たきりだったんだ。それに・・・・。今はスプーンすら持てないと思うぞ?」
未だどことなく霞がかかったような思考でもそれが普通でないことは理解できるし、実際に腕を上げようとして、のろのろと半分くらいしか持ち上がらないのも確認した。
「あぁ・・・・」
力が全然入らないことに愕然とする。
「まだ食べられるか?」
スープをほんの数口。もう無理だった。瞼がとろりと落ちてくる。カイゼスの質問に答えたかどうかも定かではなく、私はまた眠りについた。それを何回繰り返したのか。漸く意識がはっきりとしたのは、さらに10日が経ってからだった。
「体調は?身体におかしなところはないか?」
「特にない」
「なら、いいが、普通の生活に戻るにはまだかかる」
「ハァ。そうだね。まともに立てないもんね」
20日間、ほぼ寝たきりだった私は、筋力が落ち、体力もなくなっている。食事もパンが浮かんでいるスープを半分も飲んだらお腹いっぱい。何でこんなことになってしまったのか。
「体力が戻るまでここに居ればいい。落ち着いたら、話もある」
私はあのお芝居の途中で意識を失ったらしい?突然、生命反応が著しく低下したと説明された。意味が分からない。ひとりにできる状態ではなかったから、カイゼスは自分のひとり島に連れてきてくれた。だから、ここは、カイゼスのひとり島なのだ。せっせとカイゼスに世話を焼かれ、やっと元の生活に戻れたのは、14日経ってからだった。精神的にも落ち着いた。今まで、両親がなくなってからずっと感じていた孤独が癒えて、ほんわりと柔らかな温もりをずっと感じている。そう、あの時感じた温かくて力強い何かにずっと包まれているのだ。あれは、何だったのだろうか。
普通の食事をひとりで食べられるようになったある日の夕食で。
「すまない!」
私の体調が元に戻り、そろそろ自分のひとり島に帰ろうと思っていると、カイゼスが唐突に頭を下げてきた。
「は?」
迷惑をかけたのは私だから、謝るのは私だと思うのだけど?
「神麻の許可なく、俺の逆鱗を取り込ませた。そうしなければ、取り返しのつかないことになっていた。それだけは出来なかった」
何を言っているのか理解できない。
「順を追って、分かるように説明して?」
その後、カイゼスから受けた説明で、私は再び倒れることになった。
時々、遠くでくわんくわんボワンボワンと何か聞こえるが、それも私の耳には届かない。ずっと目を逸らしていた事実を突き付けられ、無理矢理保っていた心が折れた。帰りたいと心が悲鳴をあげる。両親はいなくとも、私を心配して連絡をくれたり訪ねてくる友人はいる。小さい頃からの幼馴染みも近所に住んでいて、時折、夕食に招いてくれもした。
分かってる。あっちに戻ったとしても、本当の意味で頼っていい人はいないって。どうしたらいい?私はそんなに強くない。寒くて冷たくて凍えてしまいそう。こんなの重すぎて背負いきれないよ?もう、無理・・・・。
このまま、壊れてしまえば楽になれるのかな?
全てを手放そうとしたとき、温かくて力強い何かが私の中に入り込んできた。それは徐々に膨らんで、私を完全に包み込む。私の中の孤独がすっと癒やされた。
何、これ?
「・・さ、み・・みあさ、神麻!」
誰が私を呼んでいる。ミャーサでもミーアでもなく、ちゃんと神麻と私の名前を。たったそれだけのことで涙が零れそうになる。ずっと誰にも呼んでもえなかった私の本当の名前。
少しずつ感覚が戻ってきた。真っ暗だった視界に光が射す。冷たくて凍えそうだった身体に温もりが伝わってくる。何より「神麻」と私を呼ぶ声が耳を震わせる。ゆっくりと浮上してきた意識のままに瞼をあげると、柔らかそうな銀色の髪が目に映った。そして、私を抱き締める力強い腕と懸命に私の名を呼ぶ苦しそうに震える声。ぼんやりとした意識がはっきりとするにつれて、それが誰なのかにも気付いた。
「神麻、戻ってこい。神麻」
この世界で、誰も私の名前を呼べる者はいなかった。それなのに・・・・。
「ど・・じで?」
あなたは、私の名前を呼べるの?
「!!!戻ってきたか?!・・やっと・・・・やっとだ。俺が誰か分かるか?」
ばっ!と私の顔を覗き込むカイゼスの泣きそうに歪んだ、それでいて安心したような顔が目に映った。肯定を示すためにコクンと私は首を縦に振る。
「よかった」
再びカイゼスに抱き締められた私は、されるがままぼんやりとその行為を受け入れていた。今は人の温もりが恋しい。そう言えば、この世界に来て、こんなふうに私を心配したり、抱き締めたのはこの人だけだったなぁと思いあたった。
「ごごは?・・・ゴホッゴホッ」
ガラガラとした音しか出てこない。喉が痛い。
「飲んで」
抱きかかえられたまま口許に差し出されたのはグラスに入った水だった。ほんのりと温かいそれに、ほっと息を吐いた。
「腹は?減ってないか?」
クゥ~
お水をお腹に入れたからなのか、さっきまで全く感じなかった空腹をお腹が訴えてきた。
「ちょっと待ってろ」
待ってろ、と言ったにもかかわらず、カイゼスは私を抱き上げるとテーブルのあるソファーへと移動する。今までいたのはベッドだったようだ。カイゼスに抱えられていたから分からなかった。そして、ソファーに下ろしてもえるとばかり思っていた私は、カイゼスの膝に乗せられたことに戸惑いを覚えた。そんな私に気付いていないのか、テーブルに消化の良さそうな料理をアイテムバッグから取り出している。そして・・・・。
「ほら」
口許にスプーンが運ばれてきた。ぼーっとその様子を見ているだけだった私も、それはさすがに遠慮したい。
「自分で、たグフ」
食べられますと言おうとした私の口の中にスプーンが押し込まれた。
「神麻は10日間寝たきりだったんだ。それに・・・・。今はスプーンすら持てないと思うぞ?」
未だどことなく霞がかかったような思考でもそれが普通でないことは理解できるし、実際に腕を上げようとして、のろのろと半分くらいしか持ち上がらないのも確認した。
「あぁ・・・・」
力が全然入らないことに愕然とする。
「まだ食べられるか?」
スープをほんの数口。もう無理だった。瞼がとろりと落ちてくる。カイゼスの質問に答えたかどうかも定かではなく、私はまた眠りについた。それを何回繰り返したのか。漸く意識がはっきりとしたのは、さらに10日が経ってからだった。
「体調は?身体におかしなところはないか?」
「特にない」
「なら、いいが、普通の生活に戻るにはまだかかる」
「ハァ。そうだね。まともに立てないもんね」
20日間、ほぼ寝たきりだった私は、筋力が落ち、体力もなくなっている。食事もパンが浮かんでいるスープを半分も飲んだらお腹いっぱい。何でこんなことになってしまったのか。
「体力が戻るまでここに居ればいい。落ち着いたら、話もある」
私はあのお芝居の途中で意識を失ったらしい?突然、生命反応が著しく低下したと説明された。意味が分からない。ひとりにできる状態ではなかったから、カイゼスは自分のひとり島に連れてきてくれた。だから、ここは、カイゼスのひとり島なのだ。せっせとカイゼスに世話を焼かれ、やっと元の生活に戻れたのは、14日経ってからだった。精神的にも落ち着いた。今まで、両親がなくなってからずっと感じていた孤独が癒えて、ほんわりと柔らかな温もりをずっと感じている。そう、あの時感じた温かくて力強い何かにずっと包まれているのだ。あれは、何だったのだろうか。
普通の食事をひとりで食べられるようになったある日の夕食で。
「すまない!」
私の体調が元に戻り、そろそろ自分のひとり島に帰ろうと思っていると、カイゼスが唐突に頭を下げてきた。
「は?」
迷惑をかけたのは私だから、謝るのは私だと思うのだけど?
「神麻の許可なく、俺の逆鱗を取り込ませた。そうしなければ、取り返しのつかないことになっていた。それだけは出来なかった」
何を言っているのか理解できない。
「順を追って、分かるように説明して?」
その後、カイゼスから受けた説明で、私は再び倒れることになった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
112
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる