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翌日。私たちは王宮の謁見室にて全員が揃うのを待っていた。王太子殿下による緊急召集がかかったのだ。キュウちゃんにお願いして強制的にお呼びしようと思っていたから助かった。国王陛下、王妃陛下、王太子妃殿下はもとより、宰相、王太子殿下の側近、主だった大臣たち、第2王子殿下夫妻、ハワード辺境伯、次期ハワード辺境伯、それに私の両親、リルアイゼとその仲間たちがぞろぞろと謁見室に入ってくる。

「アルベルトよ。突然の緊急召集など、何があった?」

「・・・・そこの愛し子を名乗る者が偽物だと判明致しました」

呼び出された者たちに、ざわっと驚きが走った。

「な!そのような世迷い言!誰の進言だ?この場に呼んで参れ!私自ら叩き斬ってやる!」

「そうですわ!わたくしが女神の愛し子ですのよ!偽物だなんて不敬もいいところですわ。わたくし、帰らせていただきます」

「そう興奮なされないでください、陛下、リルアイゼ嬢。帰るのはかまいませんよ。ですが、その場合は偽物だと認めたと判断しますが、宜しいですか?」

「わたくしは本物よ!」

「それをこの場で証明していただきます。私とてこのような重大な事柄を何の根拠もなく示すなどという己の首を絞めることはしませんよ。リルアイゼ嬢がその証を見事示されたなら、私は王太子の座を辞しこの国を去りましょう。後継にはフィリップスがつけばいい」

「よほど自信があると見える。その言葉に二言はないな?」

父親と息子は、いや、この場合は国王陛下と王太子殿下と言うべきだろう。互いを睨むように視線を絡めたまま対峙し合い、緊張感が辺りを満たす。

「ありません。ただし、リルアイゼ嬢が偽物と判明した場合は・・・・、国王陛下と王妃陛下には退位していただき、関係者には相応の対応を致します」

「いいだろう」

国王陛下は、偽物と断定できるほどの証拠などあるわけがないと、そう考えていそうだ。宰相も余裕の笑みを浮かべていた。私が考えていたよりも大事になりつつある。現体制と新体制の一騎討ちといった様相を呈してきた。サクッと王様に退位してもらって、きゅっとリルアイゼを絞めて終わりにするはずが、何故こうなった?

「では、リルアイゼ嬢にお聞きする。己が愛し子だと知ったのは何時だ?」

「フッ、そんなこと。授けの儀に決まっているではありませんか!授けの儀で女神様より愛し子と告げられる。幼子でも知っておりますわよ?」

バカにした表情を王太子殿下に向けている。不敬などなんのその。

「次に、女神様とお会いしたことは?」

「あ、ありますわ!」

「いつ、どのような話をされたのか聞いても?」

「そ、それは、さ、授けの儀の夜ですわ!女神様が会いに来てくださったのですわ。不安に思うわたくしを抱き締めてくださり『あなたならできるわ』と励ましてくださいました」

「女神様のお姿は見たのか?」

「いいえ。眩い光が女神様を包み込んでおりましたので、はっきりとは見えませんでしたわ」

よくもまあ、するすると口から出任せが出るものだ。畏れ入る。

「女神様より特別なものを授かったりは?」

「わたくしの授かった能力自体が特別なものですわ」

「そう。では、女神様のお好きなものは?」

「は?そんなこと決まっていますでしょ?この世界の平和ですわ!いい加減にしてくださらないかしら?いつまでこのような無駄なことを!」

「これが最後だ。此度のこの世界の災厄とは何だ?」

「上位種の魔獣が蔓延っていることですわ。これらを殲滅することがわたくしの使命です!」

「その上位種が蔓延る原因を尋ねている」

「そ、それは・・・・」

「それは?」

「・・・・」

「答えられないのか?」

「め、女神様は知る必要はないと仰いましたので、知りませんわ」

「そうか。残念だ。私の得た情報と少しも一致しない。シュシュ嬢。真実を皆に教えてやれ」

ここで私に振る?!

「はい。王太子殿下」

私はカーテシーで王太子殿下に敬意を表した。

「なんであんたがここにいるのよ!」

今ごろ気づいたの・・・・。

「黙れ!」

「王太子殿下よりご指名を受けましたシュシュ・ライオネルと申します。リルアイゼの双子の姉であり、・・・・今代の女神の愛し子でございます」

「まあ!お姉様。嘘はいけませんわ。いくらわたくしのことが羨ましくともそのような大それた言動は赦されるものではなくてよ?」

私はざわめく周囲とリルアイゼの演説を無視した。

「まず、女神の愛し子と自覚するのは幼少の頃、ある程度自我の芽生えただいたい2歳頃ですが、これは女神様との契約により変更することも可能です。愛し子にはそれを人に伝えることができない枷がかかっており、それを外されるのが授けの儀です。その際、再び女神様と邂逅することになります」

「その、そのような出鱈目を!女神様を侮辱するにもほどがあるぞ!」

国王陛下がいきなり吠えた。

「そうですわ。お姉様の授けの儀も、わたくしと同じように一瞬でした。お忘れになったのですか?」

「そうでございますね。私も同席致しましたが、リルアイゼ様とお変わりありませんでした」

リルアイゼを愛し子と認めている宰相が援護をして来た。が、それが間違いなのだ。

「皆様の目には一瞬でもわたくしには2刻ほどの時間でした。女神様のお力で時を止めていたのです。次に女神様のお好きなもの、ですが、フ、フフフ」

「何が可笑しいのよ!」

「失礼致しました。綺麗なもの可愛らしいもの、です。ですから、あの王宮神殿の荘厳さとのギャップに戸惑いましたわ」

再びざわざわとざわめきが走る。「どちらが本物なのだ?」とか「シュシュ嬢の方が・・・・」とか「だが・・・・」などと意見が揺れ始めた。

「いつまでこのような茶番をするおつもりですかな、王太子殿下?」

自分達の、いやリルアイゼの不利を感じ取ったのか、宰相が私の発言を止めに入った。でも、もう遅いんだよ?私の怒りはあの時から静かにずっと消えていないんだから。
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