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第二章:逃げ水と、溺れる魚
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一年が経った。
奏多の横に汐里はいなかった。彼女は行方をくらましていた。
奏多が裏家業の名簿屋から足を洗う間、その期間は半年。彼女に被害が及ぶのを避けて、距離をとっていたのが仇になった。奏多自身が思った以上に名簿屋の闇は深かった。自分のことで精一杯で、汐里のことが後回しにもなった。そして、彼女は消えた。幻のように。
汐里を失った奏多は愕然とした。自分は汐里の連絡先も家さえ知らないと。会うのは自分の古びたマンションの一室。呼び出さなくとも彼女は頻繁に奏多の元へ通ってくれた。ほとんど同棲しているようなものだった。
それなのに……。
彼女が出ていく気配さえ感じられなかった。
悔やんでも悔やみきれない。新たに手にした建築家の見習いという仕事の傍ら夜の街を探し回った。だが、彼女の影さえ見つけることはできなかった。
今は、奏多の慰めは恋人の十夜のみだった。
彼はSMで名の知れた奏多に調教してほしいとSNSを通じてコンタクトをとってきた人間の一人だ。奏多は男でも女でも関係なく愛することができた。プレイならなおさらだ。
十夜はMとしては完璧だった。どんなプレイにも臆することはなく、身体中、奏多がつけた暴力の跡だらけだった。いつか奏多に殺されたい。それが十夜の願いだった。
「はは、死んじゃうかと思った……」
黒髪の美貌を持つ細身の青年は風呂場でぽたぽたと髪から水滴を垂らしながら笑った。腹を殴りつけて頬を張り、水風呂に沈めるプレイだった。奏多にとっても十夜にとっても手ぬるい遊びのようなものだったが、奏多は本気で十夜を殺すつもりで水につけていた。それを奏多も望んでいたしお互いに死を感じられるほどのプレイでないと興奮できなかった。
ひととおりプレイを楽しんだ後に身体をつなげた。そちらも普通のセックスとは程遠いものだったが、やはりお互いが望んでの行為は欲望を吐き出すのにちょうどよかった。
十夜はプレイとセックス以外でも奏多を慰めていた。柔らかな髪を撫でながら、奏多が黙って十夜を抱き寄せると「好き……」「奏多……、愛してる……」そう呟き奏多の無聊を慰める。
汐里を思い出しそうになると奏多は十夜を抱いた。
人肌に触れていないと気が狂いそうだった。
奏多の横に汐里はいなかった。彼女は行方をくらましていた。
奏多が裏家業の名簿屋から足を洗う間、その期間は半年。彼女に被害が及ぶのを避けて、距離をとっていたのが仇になった。奏多自身が思った以上に名簿屋の闇は深かった。自分のことで精一杯で、汐里のことが後回しにもなった。そして、彼女は消えた。幻のように。
汐里を失った奏多は愕然とした。自分は汐里の連絡先も家さえ知らないと。会うのは自分の古びたマンションの一室。呼び出さなくとも彼女は頻繁に奏多の元へ通ってくれた。ほとんど同棲しているようなものだった。
それなのに……。
彼女が出ていく気配さえ感じられなかった。
悔やんでも悔やみきれない。新たに手にした建築家の見習いという仕事の傍ら夜の街を探し回った。だが、彼女の影さえ見つけることはできなかった。
今は、奏多の慰めは恋人の十夜のみだった。
彼はSMで名の知れた奏多に調教してほしいとSNSを通じてコンタクトをとってきた人間の一人だ。奏多は男でも女でも関係なく愛することができた。プレイならなおさらだ。
十夜はMとしては完璧だった。どんなプレイにも臆することはなく、身体中、奏多がつけた暴力の跡だらけだった。いつか奏多に殺されたい。それが十夜の願いだった。
「はは、死んじゃうかと思った……」
黒髪の美貌を持つ細身の青年は風呂場でぽたぽたと髪から水滴を垂らしながら笑った。腹を殴りつけて頬を張り、水風呂に沈めるプレイだった。奏多にとっても十夜にとっても手ぬるい遊びのようなものだったが、奏多は本気で十夜を殺すつもりで水につけていた。それを奏多も望んでいたしお互いに死を感じられるほどのプレイでないと興奮できなかった。
ひととおりプレイを楽しんだ後に身体をつなげた。そちらも普通のセックスとは程遠いものだったが、やはりお互いが望んでの行為は欲望を吐き出すのにちょうどよかった。
十夜はプレイとセックス以外でも奏多を慰めていた。柔らかな髪を撫でながら、奏多が黙って十夜を抱き寄せると「好き……」「奏多……、愛してる……」そう呟き奏多の無聊を慰める。
汐里を思い出しそうになると奏多は十夜を抱いた。
人肌に触れていないと気が狂いそうだった。
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