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婚約破棄
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「シャーロット・グラント、貴様との婚約を破棄する」
舞踏会が始まると同時に響き渡った婚約者であるバーライト王太子の声
ブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ見目麗しい青年の目が、目の前のシャーロットを憎らしげに睨み付けている
突然の事に微笑みを貼り付けたまま固まったシャーロットの前で、蜂蜜色の髪をふわふわと揺らした令嬢がバーライトの腕に縋りついた
それを見たシャーロットは、そういう事かと理解する
「承知致しました」
シャーロットは美しい礼を取ってその場を去ろうとしたが、蜂蜜色の令嬢が突然「怖い」と言いながら震え始めたので驚いた
「待て!まだ話しは終わっていない!貴様にはこのキャロラインに対する悪行の数々を償ってもらう。今もこんなに怖がらせて、震えているではないか」
シャーロットはバーライトの言葉が理解出来なかった
怖がらせた、と言われても、今シャーロットが何か怖がらせるような事をしたり言ったりしたかと疑問しかない
寧ろ今怖い思いをしているのは自分ではないかとすら思っている
ただ、王太子であるバーライトに待てと言われればその場に留まるしかなく、礼を取ったままの姿勢で顔を伏せていた
「·····っぅ、!?」
顔を伏せていたシャーロットの体に衝撃が走り強い力で床に組み伏せられていた
床に打ち付けられた膝と肩が激しく痛む
「キャロラインに危害を加えられては困るからな」
シャーロットを床に組み伏しているのはバーライトの側近である騎士団長子息のシュナイダーであった
シャーロットは公爵令嬢である、このような扱いを受けた事もなければ人に危害を加えた事もない
しかもキャロラインの周りにはバーライトの側近達が守るように取り囲んでいるのだ
キャロライン・リュグラーは、シャーロットより一つ年下の侯爵令嬢である
ふわふわとした蜂蜜色の髪にクリクリとした大きな淡い水色の瞳を持ち桜色の小さな唇の可愛らしい顔をした美少女だ、小柄な華奢な体で天真爛漫な天使のような令嬢だと学園に通う子息達の間で評判であった
バーライトも例に漏れず自由奔放に接してくるキャロラインに惹かれ今では恋人同士のように毎日学園でイチャイチャと過ごしていたのだ
それはバーライトの側近達も同じでキャロラインを守るように侍っているのである
対するシャーロットは、鮮やかな赤髪に深い蒼い瞳の涼やかな目をしている、濡れたような赤い唇の美しい美女である
スラリと伸びた女性としては長身で豊かな胸元の姿形と、アーモンドのような涼やかな目は気の強そうな冷たい印象を与えるが、実際には幼少期から受けてきた王妃教育の影響もあり、控え目で大人しい令嬢である
シャーロットはバーライトより半年後に産まれた
公爵家の令嬢として王子と同じ年に産まれたシャーロットは生を受けた瞬間から王子の婚約者としての運命を決定づけられた
三歳になった頃には王家からの家庭教師が派遣されてきて教育が始まった
八歳の時に正式に婚約者として引き合わされた時には既に完璧な令嬢として仕上がっていたほどだ
シャーロットは生まれてこの方自由というものを感じた事がない
常に王家の講師から監視されるような生活を送ってきたのだ
行儀作法マナーは勿論の事、自国の事他国の事など教養を身につける為に毎日寝る暇も惜しんで学んできた
このシーリンス王国では女性の発言権が弱い、王子の婚約者であるシャーロットは、決して王子には逆らわぬよう、王子のする事、言葉は絶対であると教育されてきた
故にシャーロットはバーライトに逆らう術を持っていないのである
毎日王家から監視され、学園と妃教育に明け暮れる日々を送るシャーロットにキャロラインを虐めるような暇はないのだ
にもかかわらず、今、力の強い騎士団長子息に床に組み伏され押さえつけられ、痛みと恐怖に震えるシャーロットに対してバーライトがキャロラインを虐めた罪状だと、キャロラインを腕にぶら下げて責め立てている
固唾を呑んでこの場を見ている貴族の大人達は、バーライトとキャロラインを白けた目で見ていた
シャーロットがキャロラインに危害を、などと言っているが、実際に危害を加えられているのはシャーロットであるし、婚約者のいる異性にベタベタとしているのはキャロラインである
が、学園に通う貴族の子息子女達は、大人とは違う目で見ている
学園で何かといえばシャーロットに虐められた酷い事を言われたと所構わず泣いているキャロラインを見てきたからだ
華奢で庇護欲をそそるキャロラインが涙を流している姿に皆同情し、意地悪で傲慢なシャーロットとして印象づけられているのだ
「バーライト様、私が、私だけが我慢すれば·····シャーロット様は幸せになれるのです。ですから」
「駄目だ。キャロラインだけを我慢させるなんて。シャーロットの為にお前が犠牲になる事はない」
「バーライト様·····」
涙ながらに自己犠牲を訴えるキャロラインと、それを優しく宥めるバーライト
まるでシャーロットが自分の幸せの為にキャロラインに犠牲を強いているような茶番が始まった
側近達や学園に通う子息子女達が涙ぐんで、キャロライン様お可哀想に、などと呟いている
「健気に自分が犠牲になるなどと、キャロラインは私が守ってみせる。シャーロット・グラントとの婚約は破棄し、新たにキャロライン・リュグラーを私の婚約者とする。キャロラインが犠牲になって行くはずだったヴァルドーラ帝国のハーレムへは、シャーロットを送る事とする」
皆に響き渡るように大きな声で宣言された
貴族達の前で、この国の王太子が発言した事を覆す事は出来ない
「王太子殿下の御心のままに」
シャーロットは静かに答えた
「こいつを地下牢に入れておけ」
王太子が命じると騎士達が寄ってきて乱暴にシャーロットを立たせた
視線を上げると、シャーロットの元に駆け寄ろうとしたのであろう公爵である父が、王太子の命を受けた騎士達に足止めされ、怒りに震えていた
騎士団長がそこに駆け付け騎士達を叱り飛ばして父は解放された
国王陛下が低い声を響かせて、シャーロットを乱暴に引き摺っていた騎士達に
「罪人ではない。乱暴な扱いをするな」
「ですが、王太子殿下が·····」
バーライトに命じられたと言いかけた騎士を、国王陛下がギロリと睨み付けて
「罪人ではないと言うのが聞こえなかったか?公爵家の令嬢だ。公爵家の屋敷まで丁重に送り届けろ」
「はっ」
顔を真っ青に引き攣らせた騎士達がシャーロットから手を離し丁寧にエスコートして会場をあとにした
馬車で屋敷に送られると、出迎えた執事や侍女が驚いた
侍女達の手で美しく結い上げられた髪は乱れ、ドレスには踏まれたような足跡がついているのだから、それは驚いたであろう
「お嬢様、どうなされたのです·····」
「少し休ませてほしいの。お父様がお帰りになったらきちんと話しますわ」
疲れた顔で微笑むシャーロットを部屋まで連れて、執事が紅茶を用意する
ありがとうと礼を述べたシャーロットが一人になりたいと言うと、執事と侍女は静かに下がった
夜会用のドレスから着替えぼんやりとソファーに座っていると、深夜になって屋敷に帰ってきた公爵が部屋に入ってきた
風邪で休んでいた母と執事が続いて入ってくると、父と母もソファーに座った
「シャーロット、体は大丈夫か?」
父が心配そうに問う
「大丈夫ですわ」
シャーロットが答えると怒りを押し殺した父が話し始めた
先ずあの後、騎士団長が息子のシュナイダーを顔の形が変わり意識を失う程殴りつけたらしい
それぞれの側近達やキャロラインも当主に連れられ屋敷で謹慎処分になった
バーライトも城内の自室で謹慎させられるようだ
「危害を加えられては困るなどという理由で令嬢に乱暴を加えるなど、奴は二度と騎士にはなれん」
怒りを滲ませる父に状況を知らない母と執事がどういう事かと詰め寄る
後で話すと言われれば黙ったが、心配そうにシャーロットと公爵を見ている
「キャロラインは、シャーロットに虐められていると学園で泣きながら吹聴していたようだ。会場にいた学園に通う者達から聞き出した」
「それは、もう分かっているのですけれど。一つ理解出来なかった事が。キャロライン様が犠牲になれば、というのはどういう事だったのでしょう」
公爵が顔を歪ませて話し始めた
先日、ヴァルドーラ帝国との国境で王家から派遣されていた騎士達がいざこざを起こしたのだと
あわや争いに発展しそうだった所をヴァルドーラ帝国の騎士隊の隊長が収めたらしい
ヴァルドーラ帝国は世界で一番の大国であり強国である、もし争いになれば確実に弱小国であるシーリンス王国は敗北する
争いを仕掛ける事はない心算を帝国に示す為に、国王陛下が親書と謝罪の文をヴァルドーラ帝国に届けた
此度の詫びに、所謂貢ぎ物と、ヴァルドーラ帝国の皇帝のハーレムに、人質代わりの者を一人差し出すと
それがキャロラインだったのである
シャーロットが王太子と婚約を結んでいる為に、この国で年頃の一番の高位貴族の令嬢がキャロラインなのだ
それを伝えられたキャロラインは泣き喚いたそうである
ああ、それで理解した。自分が犠牲になれば、と言った意味が
「さもシャーロットが自分の幸せの為にキャロラインに犠牲になれと言ったかのように、殿下や側近達や学園の生徒達の前で、涙ながらに訴えていたらしい。シャーロット様が幸せになる為には私が犠牲になるしかないのです。とな」
公爵が吐き捨てた
「ハーレム行きを決めたのは、国王陛下であってシャーロットは何の関係もないのに、殿下の気を引く為にお前を陥れたのだよ」
シャーロットは静かに頷くと
「では、もう決まったのですね」
公爵は悲痛な面持ちで頷いた
「陛下が、シャーロットに申し訳ないと」
「分かりましたわ。お父様、わたくしは大丈夫です」
王家にはバーライトだけしかいないのだ、バーライトと国を守る為には今夜の事は少しの謹慎をもって不問に付されるだろう
ヴァルドーラ帝国の皇帝は冷酷非道な暴君で好色王だと言われている
年老いた好色王の元に行くのが耐えられなかったキャロラインと、愛するキャロラインを行かせたくないバーライトが、気に入らない婚約者のシャーロットを嵌めて代わりにハーレムに差し出す事にしたのだ
話しを聞いていた執事は言葉を失い、母は泣き崩れた
シャーロットに縋り付いて泣く母をシャーロットが大丈夫だからと宥めた
三日後、支度を済ませた公爵家に、王家の馬車が迎えにきて、シャーロットはヴァルドーラ帝国へと送られる事になった
朝まで別れを惜しんだ母は、辛くて見送りに出る事が出来ず、父と執事、使用人達が泣きながら見送った
国王陛下がバーライトを引き連れて見送りにきたが、馬車に乗ったシャーロットに「お前は罪人だ。二度と国境はまたげないと思え」と囁いた
「承知致しました」
シャーロットが呟くと馬車が動き始め、シーリンス王国をあとにした
舞踏会が始まると同時に響き渡った婚約者であるバーライト王太子の声
ブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ見目麗しい青年の目が、目の前のシャーロットを憎らしげに睨み付けている
突然の事に微笑みを貼り付けたまま固まったシャーロットの前で、蜂蜜色の髪をふわふわと揺らした令嬢がバーライトの腕に縋りついた
それを見たシャーロットは、そういう事かと理解する
「承知致しました」
シャーロットは美しい礼を取ってその場を去ろうとしたが、蜂蜜色の令嬢が突然「怖い」と言いながら震え始めたので驚いた
「待て!まだ話しは終わっていない!貴様にはこのキャロラインに対する悪行の数々を償ってもらう。今もこんなに怖がらせて、震えているではないか」
シャーロットはバーライトの言葉が理解出来なかった
怖がらせた、と言われても、今シャーロットが何か怖がらせるような事をしたり言ったりしたかと疑問しかない
寧ろ今怖い思いをしているのは自分ではないかとすら思っている
ただ、王太子であるバーライトに待てと言われればその場に留まるしかなく、礼を取ったままの姿勢で顔を伏せていた
「·····っぅ、!?」
顔を伏せていたシャーロットの体に衝撃が走り強い力で床に組み伏せられていた
床に打ち付けられた膝と肩が激しく痛む
「キャロラインに危害を加えられては困るからな」
シャーロットを床に組み伏しているのはバーライトの側近である騎士団長子息のシュナイダーであった
シャーロットは公爵令嬢である、このような扱いを受けた事もなければ人に危害を加えた事もない
しかもキャロラインの周りにはバーライトの側近達が守るように取り囲んでいるのだ
キャロライン・リュグラーは、シャーロットより一つ年下の侯爵令嬢である
ふわふわとした蜂蜜色の髪にクリクリとした大きな淡い水色の瞳を持ち桜色の小さな唇の可愛らしい顔をした美少女だ、小柄な華奢な体で天真爛漫な天使のような令嬢だと学園に通う子息達の間で評判であった
バーライトも例に漏れず自由奔放に接してくるキャロラインに惹かれ今では恋人同士のように毎日学園でイチャイチャと過ごしていたのだ
それはバーライトの側近達も同じでキャロラインを守るように侍っているのである
対するシャーロットは、鮮やかな赤髪に深い蒼い瞳の涼やかな目をしている、濡れたような赤い唇の美しい美女である
スラリと伸びた女性としては長身で豊かな胸元の姿形と、アーモンドのような涼やかな目は気の強そうな冷たい印象を与えるが、実際には幼少期から受けてきた王妃教育の影響もあり、控え目で大人しい令嬢である
シャーロットはバーライトより半年後に産まれた
公爵家の令嬢として王子と同じ年に産まれたシャーロットは生を受けた瞬間から王子の婚約者としての運命を決定づけられた
三歳になった頃には王家からの家庭教師が派遣されてきて教育が始まった
八歳の時に正式に婚約者として引き合わされた時には既に完璧な令嬢として仕上がっていたほどだ
シャーロットは生まれてこの方自由というものを感じた事がない
常に王家の講師から監視されるような生活を送ってきたのだ
行儀作法マナーは勿論の事、自国の事他国の事など教養を身につける為に毎日寝る暇も惜しんで学んできた
このシーリンス王国では女性の発言権が弱い、王子の婚約者であるシャーロットは、決して王子には逆らわぬよう、王子のする事、言葉は絶対であると教育されてきた
故にシャーロットはバーライトに逆らう術を持っていないのである
毎日王家から監視され、学園と妃教育に明け暮れる日々を送るシャーロットにキャロラインを虐めるような暇はないのだ
にもかかわらず、今、力の強い騎士団長子息に床に組み伏され押さえつけられ、痛みと恐怖に震えるシャーロットに対してバーライトがキャロラインを虐めた罪状だと、キャロラインを腕にぶら下げて責め立てている
固唾を呑んでこの場を見ている貴族の大人達は、バーライトとキャロラインを白けた目で見ていた
シャーロットがキャロラインに危害を、などと言っているが、実際に危害を加えられているのはシャーロットであるし、婚約者のいる異性にベタベタとしているのはキャロラインである
が、学園に通う貴族の子息子女達は、大人とは違う目で見ている
学園で何かといえばシャーロットに虐められた酷い事を言われたと所構わず泣いているキャロラインを見てきたからだ
華奢で庇護欲をそそるキャロラインが涙を流している姿に皆同情し、意地悪で傲慢なシャーロットとして印象づけられているのだ
「バーライト様、私が、私だけが我慢すれば·····シャーロット様は幸せになれるのです。ですから」
「駄目だ。キャロラインだけを我慢させるなんて。シャーロットの為にお前が犠牲になる事はない」
「バーライト様·····」
涙ながらに自己犠牲を訴えるキャロラインと、それを優しく宥めるバーライト
まるでシャーロットが自分の幸せの為にキャロラインに犠牲を強いているような茶番が始まった
側近達や学園に通う子息子女達が涙ぐんで、キャロライン様お可哀想に、などと呟いている
「健気に自分が犠牲になるなどと、キャロラインは私が守ってみせる。シャーロット・グラントとの婚約は破棄し、新たにキャロライン・リュグラーを私の婚約者とする。キャロラインが犠牲になって行くはずだったヴァルドーラ帝国のハーレムへは、シャーロットを送る事とする」
皆に響き渡るように大きな声で宣言された
貴族達の前で、この国の王太子が発言した事を覆す事は出来ない
「王太子殿下の御心のままに」
シャーロットは静かに答えた
「こいつを地下牢に入れておけ」
王太子が命じると騎士達が寄ってきて乱暴にシャーロットを立たせた
視線を上げると、シャーロットの元に駆け寄ろうとしたのであろう公爵である父が、王太子の命を受けた騎士達に足止めされ、怒りに震えていた
騎士団長がそこに駆け付け騎士達を叱り飛ばして父は解放された
国王陛下が低い声を響かせて、シャーロットを乱暴に引き摺っていた騎士達に
「罪人ではない。乱暴な扱いをするな」
「ですが、王太子殿下が·····」
バーライトに命じられたと言いかけた騎士を、国王陛下がギロリと睨み付けて
「罪人ではないと言うのが聞こえなかったか?公爵家の令嬢だ。公爵家の屋敷まで丁重に送り届けろ」
「はっ」
顔を真っ青に引き攣らせた騎士達がシャーロットから手を離し丁寧にエスコートして会場をあとにした
馬車で屋敷に送られると、出迎えた執事や侍女が驚いた
侍女達の手で美しく結い上げられた髪は乱れ、ドレスには踏まれたような足跡がついているのだから、それは驚いたであろう
「お嬢様、どうなされたのです·····」
「少し休ませてほしいの。お父様がお帰りになったらきちんと話しますわ」
疲れた顔で微笑むシャーロットを部屋まで連れて、執事が紅茶を用意する
ありがとうと礼を述べたシャーロットが一人になりたいと言うと、執事と侍女は静かに下がった
夜会用のドレスから着替えぼんやりとソファーに座っていると、深夜になって屋敷に帰ってきた公爵が部屋に入ってきた
風邪で休んでいた母と執事が続いて入ってくると、父と母もソファーに座った
「シャーロット、体は大丈夫か?」
父が心配そうに問う
「大丈夫ですわ」
シャーロットが答えると怒りを押し殺した父が話し始めた
先ずあの後、騎士団長が息子のシュナイダーを顔の形が変わり意識を失う程殴りつけたらしい
それぞれの側近達やキャロラインも当主に連れられ屋敷で謹慎処分になった
バーライトも城内の自室で謹慎させられるようだ
「危害を加えられては困るなどという理由で令嬢に乱暴を加えるなど、奴は二度と騎士にはなれん」
怒りを滲ませる父に状況を知らない母と執事がどういう事かと詰め寄る
後で話すと言われれば黙ったが、心配そうにシャーロットと公爵を見ている
「キャロラインは、シャーロットに虐められていると学園で泣きながら吹聴していたようだ。会場にいた学園に通う者達から聞き出した」
「それは、もう分かっているのですけれど。一つ理解出来なかった事が。キャロライン様が犠牲になれば、というのはどういう事だったのでしょう」
公爵が顔を歪ませて話し始めた
先日、ヴァルドーラ帝国との国境で王家から派遣されていた騎士達がいざこざを起こしたのだと
あわや争いに発展しそうだった所をヴァルドーラ帝国の騎士隊の隊長が収めたらしい
ヴァルドーラ帝国は世界で一番の大国であり強国である、もし争いになれば確実に弱小国であるシーリンス王国は敗北する
争いを仕掛ける事はない心算を帝国に示す為に、国王陛下が親書と謝罪の文をヴァルドーラ帝国に届けた
此度の詫びに、所謂貢ぎ物と、ヴァルドーラ帝国の皇帝のハーレムに、人質代わりの者を一人差し出すと
それがキャロラインだったのである
シャーロットが王太子と婚約を結んでいる為に、この国で年頃の一番の高位貴族の令嬢がキャロラインなのだ
それを伝えられたキャロラインは泣き喚いたそうである
ああ、それで理解した。自分が犠牲になれば、と言った意味が
「さもシャーロットが自分の幸せの為にキャロラインに犠牲になれと言ったかのように、殿下や側近達や学園の生徒達の前で、涙ながらに訴えていたらしい。シャーロット様が幸せになる為には私が犠牲になるしかないのです。とな」
公爵が吐き捨てた
「ハーレム行きを決めたのは、国王陛下であってシャーロットは何の関係もないのに、殿下の気を引く為にお前を陥れたのだよ」
シャーロットは静かに頷くと
「では、もう決まったのですね」
公爵は悲痛な面持ちで頷いた
「陛下が、シャーロットに申し訳ないと」
「分かりましたわ。お父様、わたくしは大丈夫です」
王家にはバーライトだけしかいないのだ、バーライトと国を守る為には今夜の事は少しの謹慎をもって不問に付されるだろう
ヴァルドーラ帝国の皇帝は冷酷非道な暴君で好色王だと言われている
年老いた好色王の元に行くのが耐えられなかったキャロラインと、愛するキャロラインを行かせたくないバーライトが、気に入らない婚約者のシャーロットを嵌めて代わりにハーレムに差し出す事にしたのだ
話しを聞いていた執事は言葉を失い、母は泣き崩れた
シャーロットに縋り付いて泣く母をシャーロットが大丈夫だからと宥めた
三日後、支度を済ませた公爵家に、王家の馬車が迎えにきて、シャーロットはヴァルドーラ帝国へと送られる事になった
朝まで別れを惜しんだ母は、辛くて見送りに出る事が出来ず、父と執事、使用人達が泣きながら見送った
国王陛下がバーライトを引き連れて見送りにきたが、馬車に乗ったシャーロットに「お前は罪人だ。二度と国境はまたげないと思え」と囁いた
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