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第3章

第132話 リリス14歳 再び森へ1

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その日の放課後、約束通りリリスとヘンリーは西の森へ向かっていた。ここへ来る前にネージュを迎えに屋敷へ戻ったが、ネージュの姿は部屋のどこにもなかった。それに落胆したリリスがヘンリーに「絶対に聖獣語を覚えるっ!」と決意を口にしたのは言うまでもなかった。

馬車で森の入口までやってくると、日暮れまで待つようにヘンリーは御者に言った。そして彼はこう付け加えた。

「もし日暮れまでに戻らなければ、学園のアルバス先生に僕達のことを伝えてくれ」

彼のセリフに御者は驚いたようだったが「畏まりました」と言った。そしてヘンリーは「行こうか」とリリスに微笑むと、彼女の手を取り森へと入って行った。

「ねぇ、何であんなこと言ったの?あれじゃあ、まるで私達に何かあると言ってるみたいじゃない」

「あれは念の為だよ。危険がないとも言い切れないだろう?」

ヘンリーの"危険"という単語にリリスはハッとさせられ、ゴクリと喉を鳴らした。そして彼とつなぐ手には、自然と力が入る。この時、リリスの頭に以前、城で聞いた噂が思い浮かんできた。

「あっ、そう言えば金色の獣の噂って知ってる?なんでもこの森に出るって話よ」

「あぁ、それなら聞いたよ。でも噂だけで、見たとはっきり言う人はいないそうじゃないか」

「その口ぶりは、信じてないのね」

「当たり前だよ。噂なんてものは信憑性に欠けるからね。僕は自分の目で見たものしか信じないよ」

そう言ったヘンリーが足を止めた。そしてリリスと真剣な表情で向き合うと「リリィは無邪気だから、その獣に会いたいとか思ってないよね?いい?昨日の約束忘れちゃ駄目だよ」と釘を差した。
リリスは心外だったが、そう言われる原因に思い当たりすぎるので、グッと言葉をのんだ。

「ねえ、それより方向はこっちで合ってる?」

「うん、ほとんど真っ直ぐ進んだのは覚えてるもん。多分、もう少し進んだところ」

ヘンリーは頷くと、再び歩みを進めた。そしてしばらく進むと、二人の目の前が開けた。目的の場所に到着したのだ。
目の前には、一昨日リリスが見たのと変わらない光景が広がっている。燃える木がそびえ立ち、炎は相変わらず勢いよく燃えていた。

「これが君の言ってた燃える木か。想像以上だよ。すごいな・・・」

ヘンリーはそう呟くと息をのむ。リリスは動かない彼の横に並び、何も言わずに木を見上げていた。少しの間そうしていると、ヘンリーがゆっくりと前へ進んだ。彼と繋いだ手が引っ張られるように彼女の身体も前に出た。
手を伸ばせば届きそうな距離まで近付き、近くで不思議な光景を確認する。そしてヘンリーは視線をそのままに口を開いた。

「本当に熱くないんだな。これは一体どうなってるんだ。これだけ燃えてるのに燃え尽きないなんて有り得ないだろう」

「ね?不思議でしょう?この前はここから歌が聞こえてきたの。
考えたんだけど、実はこの木がすごく特別な木で炎は幻とか結界だったりしない?悪い奴らから木を守るのよ」

「うーん。どうだろうね。魔力は感じられないと思うけど、やっぱり分からないな・・・」

そう言ったヘンリーが何か考え始めた。リリスはそれを邪魔しないよう黙って待っていた。そしてしばらくそうした後、彼が口を開いた。

「この事は先生とアルミーダさんに報告しよう」

「えっ」

リリスの反応にヘンリーは首を傾げる。

「リリィ、まさかとは思うけど、この選択肢は思いつかなかったの?」

(いやぁ、忘れてた。頭がいっぱいで。
考えたら、そりゃ言ったほうがいいよねぇ。でもさぁ、近づくなって言われた森に入って、燃える木を見つけましたなんて言える?どの面下げて言うのよ。雷落とされるか呆れられるかどっちかじゃない。あー、思い浮かぶわぁ、その未来)

目を泳がせ答えないリリスにヘンリーは苦笑すると言葉を続けた。

「リリィ・・そのまさかみたいだね。明日、学園で先生に言うからね」

するとその言葉に反応するようにリリスの足元でウーニャと声がした。下を見ると、いつの間にかネージュとメイルがちょこんと座っていた。

「あら、ネージュ来てたの?屋敷に迎えに行ったのにあなた居ないんだもの。
メイルもこんにちは」

二匹の聖獣に話しかけたリリスは、ヘンリーと繋いだ手をほどき、しゃがみ込んだ。するとその肩にヘンリーが手を置き、言った。

「リリィ、ごまさかさないの。ネージュも賛成するように鳴いただろう。これは報告するからね」

上を見上げたリリスの視線が見下ろすヘンリーのそれと交差する。彼の眼差しはいつもの優しさに加え、心配の色も帯びていた。リリスは「分かった」と了承すると、ヘンリーは心底ホッとしたようにニッコリ笑った。
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