あの時の歌が聞こえる

関枚

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嘘ばっかり

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「ぎゃあ!?」

「隣でわめくなって圭!お前のチョイスの映画だろう?」

「いや、初見プレイだったからさ。ハハ」

「ルークに笑われるわよ」

「あ、あいつはカラスだからホラー映画見ねぇし」

「映画内にカラスがたくさん出てるってことでしょ?」

「さっすがホノカちゃん、あたり」

「そ、そんなの…」

圭は血眼になってホラー映画と対面する。なんだか映画よりも圭の方が見てて面白い。意外とみんなホラーは大丈夫な人間で圭だけがこうやってびびってる。

「おい、わしらはそろそろ寝るからの」

 きずけばもう10時だった。

「あ、もうこんな時間じゃん、明日続きみよっか」

「え?うん、そっか」

「まだ時間はたっぷりあるからね」

「布団は用意したからそこで寝なさい」

「「「「はーい」」」」

僕らは自分たちの荷物が置いてあった客間に行くと綺麗に布団が敷かれてあった。

「ふかふかだね!」

「あぁー、最高」

「ハハ、みんな明日は早いからもう電気消すぞ?」

「おう、おやすみ」

そうして僕らは眠りにつく。畳の上で寝るのはいつぶりだろうか。ベッドとは違う安心感に包まれて僕はまどろみの中に落ちていった。それから何時間がたったあと僕は急に起こされる。肩をゆっさゆっさ揺らされて誰かに起こされた。

「んんー?マイ?」

「起こしてごめんね、ちょっと恥ずかしいんだけど…」

「うん」

「トイレついてきて……」

「うん?」

「ちょっと怖いからさ、ホラー映画の後だし」

月に照らされて顔を赤らめながら目だけ違う方向を向いて頭をかいている。かわいいな。マイの意外な一面だった。
僕はマイを連れてトイレまでいく。なるほどたしかに怖い。廊下には明かりはないのでまるで迷路のようだ。それがこんな長い廊下だったら1人では通れまい。しかも今は深夜の2時。僕はトイレに連れて行き少し離れたところで彼女をまった。

 少しまっているとじゃーじゃーと手を洗っている音がする。彼女は小走りで戻ってきた。

「ごめんね」

「じゃあ、帰ろうか」

「いや、ちょっと話さない?」

「何言ってんだよ」

「ヒカルにだけ話したいことがある」

僕は他のみんなを起こしたらいけないので縁側から外に出た。外には綺麗な満月が僕らをてらす。青白い月は僕らを淡く染め出した。

「で?話って?」

「私の能力のこと」

「あぁ、それがどうしたの?」

「私ね、この能力に気づいたの小学生の頃なのよ」

「僕と一緒だね」

そう言って彼女は自分のエピソードを話してくれた。彼女の両親は彼女が小学六年生の時に離婚した。彼女は母の方についたのだがここからが彼女にとっての地獄だった。彼女は母さんと2人で暮らしていて毎日決まって母のすることが父の愚痴だった。

 離婚の原因は収入の問題だった。彼女の父はフリーライターをしていて小難しい顔をしながらパソコンと向き合っているのが彼のくせだった。マイはそんな父が好きだった。しかしフリーなので収入はあまり伸びず、母は離婚することにしたのだ。父は「稼げなくてごめんよ」と笑顔で自分の非を認めていたように見れた。だが彼女はその時聞いたのだ。

『嘘に決まってるだろ』

それは明らか父の声だったのだ。父はそんなこと口にしていない。なのにどうして?母の愚痴はいつも収入のことばかりだ。そしてその愚痴を終えるとマイに向かって「でもお父さんのそういうとこが好きになったんだけどね」
とにっこり笑う。

『嘘だよ』

という声に合わせて。彼女は朧気ながら理解した。一度本で見たことある嘘発見器そのものだ。自分は嘘発見器なんだと。この能力が適応されるのは人が話したときだけである。内面で何を思ったのかは知らない。人が話したことを嘘か本当か知ることができる。

ある日のことである。母がホクホク顔で仕事から返ってきた。

「マイ!マイ!驚かないでね」

「何よ」

「あなたに、お父さんができるのよ!収入のある!」

 声はこなかった。え?彼女はたらりと冷や汗を出す。これ、本当なの?収入だけを見て人を選んだ母が憎かった。
私が欲しいのは、前のお父さんなのに…。悔しかった。金銭感覚で人を見る母が憎かった。
その日は一睡もできなかった。

 そしてその三日後、新しいお父さんがきた。サラリとした髪に高身長、そしてブランドの服。見るからにお金だけの人間だった。そしてその背後を見ると、子供がいた。え?彼女は目をこらす。女の子だ。

「ほらマイ、新しい妹よ」

 妹?

「あなた下の子が欲しいってずっと言ってたものね」

『嘘だ』

「はじめまして、副島幸太郎です、三宅マイちゃんだね?」

顔を覗き込まれるのが嫌で顔をそらした。この人が…新しいお父さん?前のお父さんのことはもう頭にないの?

「ほら、楓。挨拶しなさい」

 楓と呼ばれた女の子はもじもじしながらマイのところまできた。

「はじめまして、副島楓です。5歳です」

「まぁ、礼儀正しいわね!」

喜んでいるのは母さんだけだった。その日を境に彼女の地獄がはじまる。ある日家に帰ると楓がおもちゃで遊んでいた。そのおもちゃはかつての父がくれた人形だった。

「触らないで!」

彼女は人形を自分の腕の中に隠すように抱き上げた。乱暴な扱われ方をしたのか右目が取れている。泣き出した楓に母がすっ飛んできた。

「どうしたの!?」

なく楓とマイが抱いている人形を見て母は恐ろしい形相になる。

「マイ!」

どうして私が怒られるの?どうして私が我慢しないといけないの?いっつも母さんの愚痴を我慢してきいてあげたのは誰よ?

「これは触らせたくない」

「もう人形遊びは卒業でしょ?あなたは来年に中学生になるのよ?」

「パパにもらったものだから……」

それを言ってとんできたのは母の平手打ちだった。転んでしまうマイ。

「あの人のことはもう言わないで!私達は新しい幸せを見つけたの!そうでしょう?」

違う、幸せになったのはあんただけだ。お金と身なりで人を評価した母さんだけ!

「何がいけないの?パパのこと…」

掠れた声で泣くしかなかった。実の娘は嫌いだったの?よそ者の女の子の方がかわいいの?身なりだけの男が愛おしいの?母が感じていたのは偽りの愛だった。

 そして卒業の時、両親への感謝のメッセージというのをやったのだが彼女は書けなかった。何を書けばいいのかわからなかった。周りを見るとスラスラと書いて次々に提出している。自分だけが違う世界にいるように感じられた。

 結局彼女は嘘の感謝をのべるだけの作文を作り上げてそれを母の前で読むしかなかった。

「かわいい妹をくれてありがとう」

『嘘だ』

「カッコいいおとうさんと結婚してくれてありがとう」

『嘘だ』

「今までしっかり育ててくれてありがとう」

『嘘だ』

 一言口を開くと聞こえてくる声に彼女は耳をふさぎたくなったが、塞げない。勘違いで泣いている母を正視することができなかった。なんとか緊張している人を装って作文を言い終えた後彼女はトイレへと駆け込み嘔吐した。
生暖かい胃液が口から流れて出て行くのと同時に涙も滝のように流れる。自分に居場所なんてないんだ。そう感じていた。

 そして中学校に入学したあたりから母は中学校の行事には参加してくれなくなり楓の方を優先した。
あの子の何が可愛いんだろう。ただかわいそうな子を演じているだけに過ぎない。新しいお父さんは話も何も聞いてくれない。自分と金だけを優先する。

 前のお父さんだとすぐコンビニに飛んでいってアイスやアメリカンドッグを買ってきて一緒に食べながら話を聞いてくれたのに。いつしか彼女は何も感じなくなっていった。そんな時だ。ひとりの少年にであった。二つ隣のクラスに注目を浴びている男の子がいる。その子を見に行くことになり見に行くとそこにいたのは沢山の人に囲まれて賑やかに話をする少年、梶野ヒカルだった。

 ペラペラと人の相談に乗って上げている姿はとても印象的だった。そして彼女は聞いてみたのだ。

「どうしてあの子はあんなに人気者なの?」

 すると友人は言ったらしい。

「優しいんだって。話しかけやすいんだとか」

  その日は見ただけで終わったのだが少しだけでも話してみたいという思いが募るに募っていた。

「だからマイ、僕が学校に来た時に?」

「バレちゃった?ずっと友達になりたいって思っていたの」

大変な過去を背負って生きていたんだろう。打ち明けることも出来ずたったひとりで背負いながら。

「私ね…ふと思うんだ…戻りたいの。元の家族に戻りたいの…副島でも三宅でもない。佐々木だったころに……」

彼女はとうとう泣き出してしまった。こんな時何をしたらいい?僕はそっと彼女を抱きしめた。彼女が泣き止むまでずっと。優しく包み込んだ。

「ヒカル?」

「いいんだ、泣いて。今までのものを全部吐き出しな」

僕には聞こえる彼女の叫びが好きだった父親に母の都合で別れさせられずっと身勝手な母の都合に合わせて生きてきたんだ。せめて今日だけでも彼女の好きにさせてあげたい。僕の服に涙がついても僕は気にもとめなかった。彼女が泣き終わった頃には月は雲に隠れていた。

「ごめんね、ちょっと汚れちゃったね」

「いいよこれぐらい」

「ありがとね」

 にこっと僕に向かって微笑むマイ。マイは強いなぁ、本当に強い。人を差別するときは外観じゃない、中身でしようと僕は思った。星は僕らを照らしてくれていた。僕はみんなを照らすことができるのかな?この力をいいように使えないのか?使える時が来るまで僕はもうマイを泣かせない。そう心に誓った。
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