幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった

名無し

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17話 叫声

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「さあウォーレン、頼んだよ」

「任せて、姉さん。クローズバリア――レッドウォールッ……!」

 セシアからバフを受け取り、さらに自身の魔法によって防御力を一層強化したタンク役のウォーレンが前に出ると、盗賊カイル、錬金術師レビーナ、回復術師アリーシャ、がそれぞれ後衛に回り戦闘、サポート態勢に入る。

「いっちょ行くぜえぇ! 風属性短剣乱れうちっ!」

『グルルァッ……!』

 ボスのハーティーが炎の壁に突っ込んできたタイミングで、カイルがありったけの黄色い刃を投げつける。その間、ウォーレンたちはまともな衝突を避けるべくその場を離れるため、ちょうど闘牛士のような戦い方になるのであった。

「いいよ、効いてる効いてる! カイル、相変わらず散財しすぎだけれど、経費は自腹で頼むからね!」

「うへえ!? そりゃねーよ、セシアちゃん……」

「うあー、カイルかわいそー!」

「くすくすっ……みなさん、盛り上がってきたところで私の劇薬を……」

 微笑を浮かべるレビーナの試験管が見る見る泡立ち、煙を上げ始めるとまもなくバチバチと小さな閃光が発生した。

「では、行きます……このボスのためだけに用意した劇薬『スペシャルライトニングボトル』の威力、どうぞご覧あれ!」

「「「「おおっ!」」」」

「みなさん、伏せてください――」

「「「「――ッ!?」」」」

『グガアアアアアアァァァァッ……!』

 レビーナの投薬とともに衝撃波が生じ、聳え立つ青き狼の咆哮と爆音がこだました。



 ◇◇◇



『シャシャシャッ……!』

 2階層のボス部屋、魔法陣の中心に現れたのは先端が天井に届かんばかりの一本の草だった。根本の一番太い部分に赤黒い口が覗き、挑発するかのように草を揺らしながら笑う姿も印象的だ。

「「ウスノ――」」

「――いや、待つんだ!」

 あー、肝を冷やした。シグ、サラのシュバルト兄妹がいつものように例の呪文を唱えようとしたんだが、それを言ってしまうとワドルがボスに突っ込んで玉砕するところだった。

「ど、どうしたんですかね、リューイ氏?」

「びっくりしたぁ。リューイさん、どうしたの?」

「あのボスは弱そうに見えるだろうけど、凶悪な攻撃力を持ってるから下手したら即死する」

「「「「えぇ……」」」」

 俺の台詞に対しワドルとアシュリーも混ざって青ざめてるが、それくらい恐れてくれたほうがちょうどいい。なんせ迂闊に近付いたら絶対にダメな相手だからな。

 2階層のボス……その名もスラッシュハーブ。近接なら最高クラスの攻撃力と防御力、タフさを誇るとされる植物型ボスだ。途轍もなく固いだけでなく、自身の体を剣のように軽々と振り回し、獲物を切り刻んでから口に運ぶという特徴を持つ。

 元パーティーリーダーの魔術師ウォーレンがタンク役で、特に防御力に自信を持っていたがそれでも近寄ることだけは絶対にしなかった。

 ただ、物理攻撃には無類の強さを発揮するが所詮は2階層のボス。遠距離の魔法攻撃や薬による攻撃には滅法弱く無抵抗であるため、魔術師か錬金術師をパーティーに入れるのは必須だと考えられている。

 そうそう、今思い出した。元パーティー時代、俺はこのボスに対して『アンチストロング』を使おうとしたが、口の悪い補助術師のセシアに火が出るほど怒られて、やつは地属性だからその反属性ってことで渋々火炎瓶を投げ込んだことを覚えてる。

 まあ俺自身、当時はこの劇薬にそこまで自信がなかったというのもあるが、相手がボスなんだしもっと主張してどんどん試せていればあそこまで舐められることはなかったんじゃないかな。とはいえ、今となってはこっちのパーティーのほうがずっと居心地いいし、悔いなんてまったくないが。

 さて、そろそろ『アンチストロング』が立て続けに完成する。火炎瓶だと100発以上投げてもまだピンピンしてたが、これならどうだろう? 1階層のボスは35発で倒したんだっけか。威力は既に証明済みなだけに、一体何発で倒れてくれるのか楽しみだ。

「――いっけええええぇぇっ!」

 豹変したワドルばりに俺は叫び、『アンチストロング』を連続投薬してみせる。

『ジャジャジャジャッ……!?』

 悲鳴か笑声か、どっちとも取れるようなスラッシュハーブの奇声が響き渡った……。
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