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第十七回 鏡

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「あたい、もう……限界なのだ……」

「あたちも……」

 ヤファとシャイルが伸びてしまっている。かなり食べてたしなあ。

「まあ、二人ともお下品なこと。乙女は腹八分で済ますものですのよ。オホホ……ゲップ……し、失礼……」

 俺の作ったティーカップで気まずそうに水を飲むリーゼ。

「アトリも結構食べてたけど大丈夫か?」

「はいっ。コーゾー様こそ平気ですか?」

「ああ、ちょっと食べ過ぎたけど、なんとか……うっぷ……」

「ふふっ……」

 俺が口を押さえると、アトリはそれが可笑しかったのか顔を背けて笑っていた。

「それだけ美味しかったんですね」

「ああ、結構いけたよ」

 異世界の食材は、現実世界のものとあまり変わらない味だったから安心して食べることができた。まだ不安はあるものの、上手くこの世界でやっていけそうだと感じる。

 今までは部屋に閉じこもって頭の中でこういう幻想的な物語を作ってきたが、これからは自分の行動がそのまま物語になっていくようなもんだから、エネルギー源である食事は特に大事だろう。



「――さー、そろそろおうちを建てましょー」

 片付けも終わり、アトリが包装された小箱を開け放って地面に置いた。魔法の家が建つには充分な空間が必要ということで、伸びていたシャイルとヤファを起こして空き地から出る。

「……おおっ……」

 瞬く間に家が建ってしまった。見た目は赤レンガの洒落た一軒家で、玄関や窓はもちろん煙突まである。

「あたちのおうち!」

「わたくしのです!」

「あたいのだー!」

「もー、私が先ですよっ」

 アトリも混じって、みんな我先にと中に入っていく。俺も入るとしよう。

「どれどれ……って、なんだこりゃ……」

 家の中は殺風景だったが、外観からは想像もできないくらい広かった。奥にテラスまである。

「……あれ?」

 テラスに行こうとしたが、いくら歩いても近付けないので足を止める。なるほど、魔法の家っていうくらいだし、これは部屋を広く見せるための仕掛けか……。よく考えて作られていると感じる。これなら豪邸にいるかのような気分を味わえるし、ぶつかる心配もない。

「さすがはご主人様、すぐ見破りましたわね。わたくしもですのよ……」

 リーゼがドヤ顔で話しかけてくる。

「そこのおバカな妖精と犬は、ついさっきまで透明の壁と戯れておりましたが……」

「あ、あんただって騙されたんだから似たようなもんでしょっ」

「同意なのだ! それに、あたいは犬じゃないのだあっ!」

「こらー、騒いだらダメですよー」

 まーた騒ぎ始めた。アトリが宥めてるが収まりそうにもない。でも、ここならいくら走り回ろうと壁にぶつかることはないし安心だな。

 お、鐘の音だ。ってことは零時過ぎたってことだが、教会の近くの割に音が小さい。まるで遠くから聞こえてくるかのようだ。

「夜だから絞ってあるとか?」

「この家、防音効果もあるんですよ」

「なるほど……」

 魔法の住宅街ができるのもわかる。

「六時間の命だけど、いい家だな……あ」

 いつの間にか、シャイル、リーゼ、ヤファの三人が折り重なるようにして寝ていた。

「疲れ果てちゃったんでしょうね。でも、とっても幸せそうです……」

「……だな。俺たちも寝るか」

「ですね……。あ、コーゾー様、その前に……」

「ん?」

「この精神鏡を見てください」

「……これは……」

 渡されたのは、アトリが道具屋で購入してた手鏡だ。

「精神鏡って?」

「自分の習得している魔法の種類、レベル、術等を見ることができます」

「へえー」

 早速覗き込んでみたが、自分の姿は映らずに代わりに例の異世界言語が出てきた。色でかろうじてなんの属性を習得しているのかわかる程度だ。

「……読めないんだけど」

「しばらくすると自動的に翻訳してくれますよ」

「お……」

 アトリの言う通り、鏡に映った異世界言語が見慣れた文字に変わっていく。



 名前:宮下光蔵

 種族:人間

 称号:勇者

 ジョブ:なし

 所持属性魔法:地レベル1 火レベル1 水レベル1 風レベル1 無レベル1 闇レベル1 光レベル1

 習得術:なし

 固有能力:不明



「……最後のだけ見られないんだな」

「はい。本人でもまだわかってないことですからね」

「なるほど……」

 わからないものも含めて、そのまま本人の現在の精神状態を映すのが精神鏡ってわけか。まあこれでわかったら鑑定師はいらないわけだしな。

「これでいつでも自分の状態を確認できるので、訓練の際は励みになると思います」

「……そりゃ言えてるな」

 自分が頑張ったことが目に見えてわかるんだからモチベーションUPにつながるわけだ。かなり昔の話だが、ロールプレイングゲームにはまっていた頃を思い出した。グラフィックは今の時代に比べると大分しょぼいが、徹夜してまで並んで買ったんだよな。懐かしい……。

「それでは、おやすみなさい、コーゾー様……」

「あ、ああ。おやすみ……」

 俺は彼女に背を向ける形で横になった。みんな寝てるから、見つめられると余計に緊張する。多分、彼女は尊敬できる先輩とか父親のような存在だと思って俺を見てるんだろうから、失望させないようにしないとな……。
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