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第三十回 晩餐

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 俺たちはとあるレストランにいた。

 商都の中央通りにある人気店『エンジェル・フォース』には及ばないものの、最近人気が出始めたという『アンデッド・ハウス』。教会の近くにあり、値段は高めだが、量と味は最高クラスらしい。店名の由来はよくわからないが、看板に描かれた、棺から伸びた手がフォークを握っているポップな絵から察するに、死体でさえ食べにくるくらい美味しいと言いたいんだろう。

「――お待たせしましたー」

「……おおっ……」

 ウェイトレスが持ってきた料理の数々に思わず息を呑む。300グラードで豪華ミートセットを頼んだわけだが、大きな皿にチキンが山盛りになっていて、今にも零れそうなほどだった。そのほかにも特大のステーキやサラダ、デザート、ワイン等でテーブルは賑わっている。

「凄いな、アトリ……」

「ですねぇ……。それじゃ、いただきますか」

「そうだな。みんな、食べていいぞ」

「「「いただきまーす!」」」

 前のめりになっていたシャイルたちが一斉に食べ始めた。凄い食べっぷりだ。特にヤファなんて、あっという間にチキンをただの骨にしてしまった。

「コーゾー様も、はいどーぞ。あーん……」

「……い、いいよ。照れ臭い」

「ダメですっ。勇者様のおかげなんですから。はい、あーん……」

「あ、あーん……」

「どうですか?」

「……美味い」

 脂がのっていてとろけるほど柔らかくて、なんとも美味だ。これ以上の言葉を出すのがもったいないと思えるほど、舌が旨味に占領されていた……。

「ふふっ……」

「「「じー……」」」

「……」

 いつの間にかみんな食べるのを止めてニヤニヤしながら見てる。こういうときは口裏合わせでもしたかのように冷やかしてくるんだな……。多分今の俺の顔は真っ赤だろうから余計恥ずかしい……。

「美味い、だなんて、話術が得意なマスターにしては安直だわっ」

「シャイル、ご主人様は照れ臭いのですわ」

「この隙にぜーんぶいただくのだ!」

「「あー!」」

 ヤファの凄まじい食べっぷりを見て、シャイルもリーゼも話してる暇はないと気付いたようだ。競うように食べてる。

「みんな、コーゾー様の分も取っておくんですよ」

「「「はーい!」」」

「いいよ、アトリ。その分食わせてやればいい。俺はもう40歳だし、胃がもたれやすくなってるからな」

「まだ40歳じゃないですか。私がいた騎士団の長は齢70を優に超えてるのに団員の誰もかなわないほど強かったですし、食事の量も一番でしたよ」

「へえ……」

「というわけで老け込むのはまだ早いです。これからのためにもどんどん食べなきゃダメですよ。鑑定もありますしねっ……」

「……鑑定か。考えただけでも緊張するな。ますます食べ物が喉を通らないよ」

「ふふ……。それなら私が食べさせてあげます。あーん……」

「あ、あーん……」

 あー、照れ臭い。まだ酒も飲んでないのに酔いそうだ……。



 ◆ ◆ ◆



「申し訳ありませんがお客様、そのメニューはつい先ほど終了しており、受け付けておりません……」

「そんなぁ……」

『エンジェル・フォース』の一角、ウェイターにお気に入りのメニューを頼んだセリアの顔色が徐々に青ざめていく。ここに来るのが少し遅れたために起きた悲劇だが、その恨みは光蔵たちに向けられていた。

「折角楽しみにしてたのに……絶対許さない、無能おっさん、ゴミ騎士アトリ……」

「ど、どんまい、セリア」

「セリアさん、お気の毒ですう……」

 心配するロエルとミリムだったが、セリアは頭を抱えたまま微動だにしない。その一方で、隣にいる雄士はメニューを手にニヤニヤしていた。

「これ、何を頼んでもいいわけ?」

「おいユージ、空気読めよ」

「そうですよお。空気を読むべきですう」

「空気? 何それ……」

「おい……」

「死にたいのですかあ?」

「ひっ……」

「いいのよ、ユージ様。何を頼んでも……」

「「はあ……」」

 セリアの寵愛振りに、ロエルとミリムは溜息を重ねるばかりだった。

「わ、悪いねっ、セリア。んじゃ、これとこれと、あとこれ。……あ、もう一つこれと、最後にこれも追加でっ」

「……おい、お前いい加減にしろよ」

「ロエルさんの言う通りですう。図々しいですよお」

「……だ、だって、何頼んでもいいって……」

 立ち上がったロエルとミリムを前に慌てる雄士。

「大丈夫、ユージ様。あたしが払うから、みんな、ね? 大目に見てよ……」

「……なあセリア。今は我慢するけど、もしそいつが鑑定で無能だってわかったら殺していいか?」

「殺していいですかあ?」

「こ、殺すって、僕が何をしたっていうんだぁ……」

 涙目でセリアの後ろに隠れる雄士。

「もー、ユージ様が怯えてるじゃない。お願いだからみんなそんなこと言わないでよ。無能だったら下働きさせるくらいでいいわ。もちろん、あたし専用のっ……」

「……ほっ……」

「そしたら、ユージ様にお背中流してもらおうかしら……ポッ……」

「ひっ。そ、それだけは勘弁……」

「もー、あたしはいつもお風呂入ってるし、汚くないから大丈夫だってぇ……」

「か、確認したわけじゃないし……」

「じゃー、毎日一緒にお風呂っ」

「ひいぃっ……」

「「はあ……」」

 ロエルとミリムの溜息が虚しく響いた。
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