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第三章
51話 支援術士、ひらめく
しおりを挟む「……くっ……」
どうする。俺はどうすればいい。
フレット……教えてくれ。お前ならどうする? 挑戦しても逃げても厳しいなら挑戦する、が口癖で信条のお前ならやりそうだが、処刑される可能性が高くても治療するというのか……? 形見の杖に語りかけるも、当然だが答えは返ってこない。
「――くしゅっ……!」
「……」
アルシュがくしゃみをする。こんなにも露出の多い格好だし、風邪だろうか?
「誰か私のこと、噂してるのかな……?」
「噂、か……」
そういや、本当に噂とくしゃみの関連性なんてあるんだろうか。正直、なんの関係もなさそうだが……。
「……あ……」
そこで俺ははっとなった。待てよ、関係、関連性、関連付け……そうか、この方法ならいけそうじゃないか……?
「グレイス?」
「グレイスさん?」
「グレイスどの?」
「グレイス様?」
「グレイス先生?」
「――わかった……」
「「「「「ええっ……?」」」」」
俺はアルシュ、テリーゼ、ジレード、カシェ、ナタリアに向かって、安心させるべく笑顔を浮かべてみせた。実際に自信があるので力強く映ったはずだ。このときを待ってたんだ。
「大丈夫だ、相手が仕掛けた罠なのはわかるが、さっきひらめいたある方法なら、あらゆる問題を克服できるはず。この挑戦、受けて立つ!」
「「「「「おおっ……!」」」」」
そういうわけで、俺は【なんでも屋】の店へ近付き、オーガの治療をすると宣言してみせた。
患者と二人きりにしてほしいので少し離れてほしいと言うと、ガゼルと幼い容姿の女がちらりと顔を見合わせてニヤッと笑ったあと離れていったから、多分通じ合ってるんだろう。オーガだけは無理矢理笑ってる感じで、どこか気まずそうだったが。
「グ……グレイスとかいうやつ……」
「ん?」
「ほ、本当におでの呪いを治してくれるっていうのか? だが、無理だ。いくらあんたでも……ブツブツ……」
最後のほうは聞き取れなかったが、俺が治療すると宣言して近づいたとき、オーガは明らかに動揺した様子だった。高い難易度だから治せやしないと思ったんだろうか。
「絶対治す」
「で、でも、治したとしても、あんた処刑、されるぞ……ここだけの話……」
「……ん、心配してくれるのか?《罪人》なのに、案外いい人っぽいな」
「お、おでは何も悪くねえんだ。本当なんだ……ブツブツ……」
「……」
わざわざ、処刑されるからと治療をやめるように教えてくれるあたり、本当に悪い人じゃなさそうだ。
「治したくないのか?」
「いや、そりゃ治したいんだけども……」
「だったら治したいと思ってくれ。治療っていうのは片方だけが治したいと思っても上手くいかないものなんだ」
「あ、あんた……いい人なんだな」
「お互いにな」
◇◇◇
「マニー、いよいよだぜ。これでグレイスの野郎の運命は決まったな」
「ですのう。こうも上手くいくとは……」
野次馬に混ざり、満足げな笑みを向け合う【勇者】ガゼルと【治癒術士】マニー。
「しかし、グレイスのやつ、呪いの治療に成功する可能性はあるな」
「な、なんですと……?」
マニーが信じられないといった様子で目をぱちくりさせる。
「俺だって悔しいし認めたくねえが、やつの回復術の腕は本物だからよ……」
「うーむ……わしもこんなことは言いたくありませんが……ガゼルさんは【回復職】にあまり詳しくないということですな」
「な、何? まあ専門外だしそうかもしれんが、どういうことだ?」
「絶対に治せないと、わしは断言しますですじゃ!」
さも自信ありげに言ってのけるマニーに、今度はガゼルが数回まばたきを繰り返す。
「え……ま、まあそれでもやつが治療にチャレンジしてる以上、どっちであれ処刑されるのは間違いないから別にいいが、なんでそうも断言できるんだ?」
「上位の呪いだからですじゃ。刻印というものは一生消えぬもの。これを治療するというのはもう、どうしたって不可能としか言いようがないものでしてなあ……」
「そ、そんなに強力なものなのかよ……」
「何か不都合でもおありで?」
「い、いや、そんなんじゃねえよ。むしろ嬉しいくらいだぜ! やつが恥をかいた上で処刑されるわけだしよ。ただ、上手くいきすぎて怖いくらいでなあ……」
ガゼルは腕組みしつつ首を傾げていた。
(妙だな。なんか違和感がすげーぜ。あいつは【回復職】については誰よりも詳しいはずだし、治すことが難しいのはマニー以上に知ってるはず。なのに、何故処刑されると知ってて、それも治療が不可能な上位の呪いを治そうとしてやがるんだ……?)
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