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第1章 はじまりの村
第0話 転移の光
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その日も俺にとっては普通の一日だった。
テレビで特番とか組まれていたけど関係ない。
この世の子供達がプレゼントをもらっているらしいが関係ない。
恋人達がいつもよりも盛んにイチャつこうが関係ない。
クリスマスイヴという特別な日も、俺がやる事は変わらない。
「…………休憩するか」
乱れた髪をぐしゃぐしゃとかく。
俺がいる部屋は薄暗く、座る椅子は痛み、使うパソコンは妙な音を立てている。
普通なら買い替えるような状態だが俺にとっては関係ない。
俺の関心は一つのことしかないからだ。
「いや……まて。もう五分だけ狩ろう」
姿勢を正し、マウスを手に取り、もう一度パソコンの画面を見る。
そこに映るのは真ん中に黒いコートを羽織るイケメンのキャラクター。
そしてその横には銃をかまえメイド服で身を纏った金髪サイドテールの女の子。
画面の奥には数々のモンスター達。
――それは、いわゆるオンラインゲームやネトゲと呼ばれるものだった。
ファンタジー世界で自分のキャラクターを作り、狩りをしてレベルをあげる。
時には他のプレイヤーと共に狩りに出かけ冒険をして遊ぶという、ありがちなものだ。
俺がプレイするのは、そんな数あるゲームの一つ。
プレイヤーの数はおそらくネトゲ業界の中でも一番を誇る大規模かつ長寿のゲームだった。
典型的で、くせのないシステムや世界観が長く愛される原因なのだろう。
「…………」
カチ、カチ、カチと無機質な音だけが部屋に響く。
画面に映るキャラクターが魔法を使い、それに合わせるように寄り添うメイド姿のアシストNPCが銃で寄り付く敵を追い払う。
この単調な作業を俺は今まで続けていた。気の遠くなるような時間を使って。
それは今日も変わらない。地味で同じ作業。
それでも確実にレベルが上がるこの作業を俺はひたすら続けていた。
何時間、何十時間。何百時間。
レベルがカンストしようが関係ない。
今度は金を集めるためにひたすら狩る。
後に実装されるであろう、より強力な装備をいち早く手に入れるために。狩り続ける。
その生活はこれからも続けていく。
その生活が維持できなくなるまで続けていく。
例え最後に自分を待つのが破滅であろうとも。
もう、これぐらいしか俺にできることはないのだから。
「…………」
カチ、カチ、カチ。
マウスのクリック音が静かに響く。
これは俺の日常だ。何も変なところはない。
ないのだが──
「ん?」
思わず、声をあげる。
視線の先は自分のキャラクターを映す画面ではない。
「なんだこれ」
画面の奥が──というか、パソコンのモニターが光っている。
こんなエフェクトを放つスキルなど、俺は使ってはいないはずなのに。
「なんだ、どういうことだ?」
画面の真ん中から、その光はモニター全体へとその範囲を広げていく。
俺のキャラクターを覆い、横にいるメイドも隠し、見えている敵モンスターも見えなくなり――
「やべっ、故障か? おい」
俺は急いで強制終了のコマンドを入力する。
しかし、その光はとまらない。
左下のスタートアイコンすら見えなくなり、ついにモニター全体が真っ白になった。
……いや、モニターだけではない。
その近くにあるキーボード、積んである漫画。全てのものが白くなっていく。
「なんだ、どうなってる、おい! これはなんだ!」
俺は声を荒げながら逃げるように立ち上がる。
しかし、その行為は無駄であった。
光は急速に部屋全体を包み込み、俺の視界を奪っていく。
「うわ、うわああああああ!!」
白、白、白。
何も見えなくなったその部屋の中で俺は混乱したまま喚きだす。
しかし、その光は止まらない。
「た、たすけて──」
思わず手を伸ばし助けを乞うたその瞬間。
俺の意識は完全に閉ざされた。
テレビで特番とか組まれていたけど関係ない。
この世の子供達がプレゼントをもらっているらしいが関係ない。
恋人達がいつもよりも盛んにイチャつこうが関係ない。
クリスマスイヴという特別な日も、俺がやる事は変わらない。
「…………休憩するか」
乱れた髪をぐしゃぐしゃとかく。
俺がいる部屋は薄暗く、座る椅子は痛み、使うパソコンは妙な音を立てている。
普通なら買い替えるような状態だが俺にとっては関係ない。
俺の関心は一つのことしかないからだ。
「いや……まて。もう五分だけ狩ろう」
姿勢を正し、マウスを手に取り、もう一度パソコンの画面を見る。
そこに映るのは真ん中に黒いコートを羽織るイケメンのキャラクター。
そしてその横には銃をかまえメイド服で身を纏った金髪サイドテールの女の子。
画面の奥には数々のモンスター達。
――それは、いわゆるオンラインゲームやネトゲと呼ばれるものだった。
ファンタジー世界で自分のキャラクターを作り、狩りをしてレベルをあげる。
時には他のプレイヤーと共に狩りに出かけ冒険をして遊ぶという、ありがちなものだ。
俺がプレイするのは、そんな数あるゲームの一つ。
プレイヤーの数はおそらくネトゲ業界の中でも一番を誇る大規模かつ長寿のゲームだった。
典型的で、くせのないシステムや世界観が長く愛される原因なのだろう。
「…………」
カチ、カチ、カチと無機質な音だけが部屋に響く。
画面に映るキャラクターが魔法を使い、それに合わせるように寄り添うメイド姿のアシストNPCが銃で寄り付く敵を追い払う。
この単調な作業を俺は今まで続けていた。気の遠くなるような時間を使って。
それは今日も変わらない。地味で同じ作業。
それでも確実にレベルが上がるこの作業を俺はひたすら続けていた。
何時間、何十時間。何百時間。
レベルがカンストしようが関係ない。
今度は金を集めるためにひたすら狩る。
後に実装されるであろう、より強力な装備をいち早く手に入れるために。狩り続ける。
その生活はこれからも続けていく。
その生活が維持できなくなるまで続けていく。
例え最後に自分を待つのが破滅であろうとも。
もう、これぐらいしか俺にできることはないのだから。
「…………」
カチ、カチ、カチ。
マウスのクリック音が静かに響く。
これは俺の日常だ。何も変なところはない。
ないのだが──
「ん?」
思わず、声をあげる。
視線の先は自分のキャラクターを映す画面ではない。
「なんだこれ」
画面の奥が──というか、パソコンのモニターが光っている。
こんなエフェクトを放つスキルなど、俺は使ってはいないはずなのに。
「なんだ、どういうことだ?」
画面の真ん中から、その光はモニター全体へとその範囲を広げていく。
俺のキャラクターを覆い、横にいるメイドも隠し、見えている敵モンスターも見えなくなり――
「やべっ、故障か? おい」
俺は急いで強制終了のコマンドを入力する。
しかし、その光はとまらない。
左下のスタートアイコンすら見えなくなり、ついにモニター全体が真っ白になった。
……いや、モニターだけではない。
その近くにあるキーボード、積んである漫画。全てのものが白くなっていく。
「なんだ、どうなってる、おい! これはなんだ!」
俺は声を荒げながら逃げるように立ち上がる。
しかし、その行為は無駄であった。
光は急速に部屋全体を包み込み、俺の視界を奪っていく。
「うわ、うわああああああ!!」
白、白、白。
何も見えなくなったその部屋の中で俺は混乱したまま喚きだす。
しかし、その光は止まらない。
「た、たすけて──」
思わず手を伸ばし助けを乞うたその瞬間。
俺の意識は完全に閉ざされた。
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