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第三章 裏事情

164話 ミハの過去

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「まぁ、魔法だけは才能が無かったんだけどね。六歳ぐらいだったかな……森の中で小屋を建てて二人を養ってた時があったんだけど……」
「六歳!?」
「その時、偶然一人の男に会って……それがエイドルフだったの」

 さらり、とミハは話を続けていく。

 ──いや、六歳ってやばくないか……?

 もはや天才とかの領域も突破しているような気がするが、あまり話の腰を折るわけにもいかないので気になった点を指摘する。

「エイドルフって……今日、ミハさんが言ってたあの?」

 こくりと首肯するミハ。
 色々と驚きどころがあったのだが──俺達のような反応をされる事に慣れているのだろうか。
 淡々と話を続けていく。

「エイドルフは私が作った小屋とか、あとは……武器とか、防具とか。色んな物を見て凄く驚いてた。器用貧乏もここまでくると天才になるみたい♪」
「……たしかに、天才ですね」
「アイツは私と妹達に街で生活できるような環境を用意してくれた。その時は本当に嬉しかったよ。それまでずっと森で暮らしてたから、実は言葉も全く喋れないってわけじゃないけど、あまりうまく話せなかったし。ただ、何日も私達が住んでた小屋に食事とか持ってきてくれて……言葉も教えてくれて……」

 少し顔がひきつるのを感じた。
 驚きを通り越して、恐怖のような感情が湧き出てくる。
 いったいミハはどんな状況で生活してきたのだろう。
 少なくとも文化的な生活を送っていたとは思えない。

「そーゆーのが二年ぐらいちょくちょく続いて、私達がネイティブに言葉を話せるようになった頃かな……アイツが私の養親になってくれるって言ってきてね。妹達も一緒に街で暮らすようになったんだ」

 ミハの顔が暗くなっていく。
 ふと、そんなミハの様子を見て疑問が湧き出てきた。

「街で暮らすようになってからは飢えることもなかったし、寒さで凍えることもなかったし、清潔でいることもできるし……ほんと、天国みたいだなって思ってた……特に私はなんでも出来たから。色々な職人のもとで修行して色んな技術を身につけるための勉強をした。いっぱい褒めてくれて……凄く嬉しかったからたくさん頑張って勉強して……」
「……? それって、エイドルフが良い人ってこと?」

 その疑問をトワが代弁する。
 ミハはエイドルフのことを嫌悪しているような言葉を発していたはずだ。
 しかしここまでの話を聞くとエイドルフという人が子供を救った人格者にしか聞こえない。

「違う。最悪の人だよ」

 そういう疑問を俺達が感じることは当然想定内だったのだろう。
 ミハはトワの問いに即答する。

「どういうことですか?」
「簡単に言えば借金を負わされたんだよ」
「えっ……?」

 話が見えてこなくて首を傾げてしまう。

「ちょっと法律がからむから、難しい話が混じるんだけどね」

 そう言いながらミハは困ったような笑みを浮かべた。

「エイドルフは私の養親になっていなかったの。アイツは自分の人脈を使って、借金まみれで、しかも死ぬ間際の老人を私の養親にしたんだよ。こうすることでエイドルフは私達を扶養する義務を負わなくてすむし、しかも未成年の私でも法定代理人がいるから正式に契約が結べるようになるの」

 なるほど。確かにミハの話は難しい。
 トワもしかめっ面になってミハの話を聞いていた。

「私や妹達を養うお金は本来、その老人が支出するものだった。そのお金をエイドルフが老人に借金という形で出したことになるから、老人が死亡した時の相続によって私に支払義務が生じる。……ま、ひらたくいえば未成年の私に借金を負わせる事ができるように影で色々手続きを踏んでたってこと」
「なにそれ……?」

 正直、全ての話がすんなりと頭に入ってきた訳ではない。
 しかし、結論としてはこういうことだろう。

 ──エイドルフは最初からミハに借金を負わせることが狙いだった。

「もともとあった老人に対する不良債権と、私の育てるためのお金を合わせて……いつの間にか私はエイドルフに対して凄まじい程の借金を負っていたの。それこそ、億単位のね」
「お、億……!?」

 驚く間もなく、ミハが淡々と話を続けていく。

「その返済をするように言われた時にはもう遅くて……そこで初めてエイドルフがどういう人間か知った。アイツは……私と妹達に莫大な借金を負わせた。全部、それが狙いで私達をひきとったんだ」

 ──最悪だ……

 当時の彼女はどういう感情を抱いたのだろう。
 苛酷な状況で育ち、やっと向けられた自分への愛情が嘘だと知り──

 ──もし、俺がミハだったら……

「……ねぇ、私って可愛いんでしょ?」
「へ?」

 最初はからかっているのかと思った。
 だが、その声のトーンがあまりにも真面目なものだったので、そうではないとすぐに分かる。

「正直なところ自分ではよく分からないんだけど……少なくともエイドルフはそう思ったみたい」
「……そうですね。俺もミハさんは可愛いと思います」

 アイドルを自称する彼女からすれば当然分かっていることだと思っていたのだが──それは彼女の素直な気持ちだったのだろう。
 声質のせいで甘い感じは抜けていなかったが、その表情は真剣なものだった。
 だから俺も真面目にそう答える。客観的に見て、ミハはスイやアイネに並ぶランクの美少女だという事は間違いない。

「……そう。私の妹達も可愛いんだって」

 俺から僅かに視線を外しミハが顔を赤らめる。
 だが、すぐにミハは真面目なトーンで続けていった。

「私は物作りの才能があった。でも妹達にはそれがなくてうまくお金を稼ぐことができそうになかった。……だからエイドルフは娼婦になってそのお金を返済させようとしたの。お前らは人気が出るってね」
「っ……」
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