177 / 257
第三章 裏事情
166話 夜のお出かけ
しおりを挟む
ミハと別れ、スイ、アイネと合流した俺は日が完全に落ちるまで二人の組手を鑑賞していた。
その後、宿屋に戻り簡単な食事をすませて風呂をすませる。
今日は体を洗われるようなことはなかった。
スイ達にお礼をされるようなことはしていないし、何よりミハの話を聞いてテンションが下がってしまっている。
一人でリラックスした時間が欲しかった。
とはいえ、俺達が案内された部屋は昨日と同じくベッドが一つしかない。
だから必然的に寝る時になるとネグリジェ姿の女の子と添い寝をする事になるわけで。
別の意味で頭を冷やす必要があると感じた俺は、灯りが消えた部屋の中で一人、ベッドから身を起こした。
「……どこへ行くんすか?」
ふと、不意にかけられた声に、びくりと体が震えるのを感じた。
ふり返ると、静かな寝息を立てているスイの横で髪をおろしたアイネが上半身を起こし、じっと俺を見つめている姿が目に入る。
「ん、アイネ」
月明かりや僅かな街灯の光が外から差し込んできている。
そのおかげで、この暗い部屋でもアイネの顔はよく見えていた。
ぼーっとする訳でもなくしっかりと俺の事を見つめているアイネ。
その顔をみるに起こしてしまったのではなく、アイネも眠れていなかったのだろう。
「いや、散歩でもしようかなと思って」
「へぇ……じゃあウチも付いて行っていいっすか?」
疑問形にはなっているが、そう言った時にはアイネはベッドからおりて俺の横に立っていた。
俺が断る訳がないと確信しているのだろう。実際、それは当たっている。
「じゃあ一緒に行こうか」
俺の言葉に、にこっと笑うアイネ。
別にやましいことをする訳ではないのだが、一度スイとトワの寝ている場所に視線を移す。
……どうやら完全に寝入っているらしい。トワはともかく、スイが男の俺と一緒に寝ることに慣れてしまっている事が意外だった。
──アイネと二人か……
ふと、足を止めて考える。
当然、嫌という訳ではない。ただ夜に女の子と二人きりというシチュエーションは少し緊張してしまう。
この世界にきてから人と会話する事は圧倒的に増えたはずなのだが──それでも、自分に好意を寄せていると分かっている相手と二人きりというのは中々、慣れるものではない。
「ほらっ、行くっすよ」
「あ、あぁ……」
そんな俺の内心を知ってか知らずか、アイネはローブを二人分クローゼットから取り出すと、俺の手をひいてきた。
我ながら頼り甲斐のなさそうな、弱々しい声をあげてアイネの後をついていく。
そのままロビーに移動すると──
「あれっ、外に出るのかな」
ミハがきょとんとした顔で声をかけてきた。
思わず、目を反らす。
食事の時にはミハは姿を見せていなかったので、彼女を見るのは夕方に話をした時以来だ。
──ミハは気にしていないのか……?
蘇る頬に受けた感触で顔が熱くなるのを感じる。
「これ、鍵っす」
「はいはい、お預かりします♪」
いつの間に持ち出してきていたのやら。
そんな事を考える間もなく、アイネがもう一度俺の手をひいてくる。
すると、背後からミハが声をかけてきた。
「……散歩もいいけど、あまり遠くにいかないでね。もう遅くなってきてるから、早く帰ってきたほうがいいよ♪」
「分かりました。気を付けますね」
「うん♪ いってらっしゃい♪」
ミハからは前にも忠告を貰っている。
ふり返ると少しだけ寂しそうに笑うミハの姿があった。
今回は一人ではないし、ライルに会うようなこともないだろう。そう軽く考えていたが──心配させてしまっただろうか。
「…………」
ふと、俺を引っ張っていたアイネが動きを止めていることに気づく。
じっとミハの事を見つめるアイネ。数秒もするとその事に気づいたのかミハは怪訝そうに首を傾げ始めた。
「アイネ?」
「あ、ううん。なんでもないっす。さ、行くっすよ!」
声をかけると、アイネはスイッチが入ったように急に俺の手をひきはじめた。
「おっ、おいっ……あ、いってきます!」
頓狂な声になってしまったが。
ミハは優しく微笑んで手を振ってくれた。
†
外を出歩いて数分。
俺達の間には会話が全くない。
ただ、夜の風にあたりながら二人でぶらぶらと歩いていく。
気まずくもあり、心地よくもある沈黙。
「…………」
そんな中、不意にアイネは俺の腕を抱きしめてきた。
唐突なその行動に思わず、立ち止まる。
「アイネ?」
「ちょっと、こうして歩きたいっす」
俺に合わせて立ち止まるアイネ。
そう言った後に数秒の間を置いて、俺のことを見上げてくる。
「……ダメかな?」
その後、宿屋に戻り簡単な食事をすませて風呂をすませる。
今日は体を洗われるようなことはなかった。
スイ達にお礼をされるようなことはしていないし、何よりミハの話を聞いてテンションが下がってしまっている。
一人でリラックスした時間が欲しかった。
とはいえ、俺達が案内された部屋は昨日と同じくベッドが一つしかない。
だから必然的に寝る時になるとネグリジェ姿の女の子と添い寝をする事になるわけで。
別の意味で頭を冷やす必要があると感じた俺は、灯りが消えた部屋の中で一人、ベッドから身を起こした。
「……どこへ行くんすか?」
ふと、不意にかけられた声に、びくりと体が震えるのを感じた。
ふり返ると、静かな寝息を立てているスイの横で髪をおろしたアイネが上半身を起こし、じっと俺を見つめている姿が目に入る。
「ん、アイネ」
月明かりや僅かな街灯の光が外から差し込んできている。
そのおかげで、この暗い部屋でもアイネの顔はよく見えていた。
ぼーっとする訳でもなくしっかりと俺の事を見つめているアイネ。
その顔をみるに起こしてしまったのではなく、アイネも眠れていなかったのだろう。
「いや、散歩でもしようかなと思って」
「へぇ……じゃあウチも付いて行っていいっすか?」
疑問形にはなっているが、そう言った時にはアイネはベッドからおりて俺の横に立っていた。
俺が断る訳がないと確信しているのだろう。実際、それは当たっている。
「じゃあ一緒に行こうか」
俺の言葉に、にこっと笑うアイネ。
別にやましいことをする訳ではないのだが、一度スイとトワの寝ている場所に視線を移す。
……どうやら完全に寝入っているらしい。トワはともかく、スイが男の俺と一緒に寝ることに慣れてしまっている事が意外だった。
──アイネと二人か……
ふと、足を止めて考える。
当然、嫌という訳ではない。ただ夜に女の子と二人きりというシチュエーションは少し緊張してしまう。
この世界にきてから人と会話する事は圧倒的に増えたはずなのだが──それでも、自分に好意を寄せていると分かっている相手と二人きりというのは中々、慣れるものではない。
「ほらっ、行くっすよ」
「あ、あぁ……」
そんな俺の内心を知ってか知らずか、アイネはローブを二人分クローゼットから取り出すと、俺の手をひいてきた。
我ながら頼り甲斐のなさそうな、弱々しい声をあげてアイネの後をついていく。
そのままロビーに移動すると──
「あれっ、外に出るのかな」
ミハがきょとんとした顔で声をかけてきた。
思わず、目を反らす。
食事の時にはミハは姿を見せていなかったので、彼女を見るのは夕方に話をした時以来だ。
──ミハは気にしていないのか……?
蘇る頬に受けた感触で顔が熱くなるのを感じる。
「これ、鍵っす」
「はいはい、お預かりします♪」
いつの間に持ち出してきていたのやら。
そんな事を考える間もなく、アイネがもう一度俺の手をひいてくる。
すると、背後からミハが声をかけてきた。
「……散歩もいいけど、あまり遠くにいかないでね。もう遅くなってきてるから、早く帰ってきたほうがいいよ♪」
「分かりました。気を付けますね」
「うん♪ いってらっしゃい♪」
ミハからは前にも忠告を貰っている。
ふり返ると少しだけ寂しそうに笑うミハの姿があった。
今回は一人ではないし、ライルに会うようなこともないだろう。そう軽く考えていたが──心配させてしまっただろうか。
「…………」
ふと、俺を引っ張っていたアイネが動きを止めていることに気づく。
じっとミハの事を見つめるアイネ。数秒もするとその事に気づいたのかミハは怪訝そうに首を傾げ始めた。
「アイネ?」
「あ、ううん。なんでもないっす。さ、行くっすよ!」
声をかけると、アイネはスイッチが入ったように急に俺の手をひきはじめた。
「おっ、おいっ……あ、いってきます!」
頓狂な声になってしまったが。
ミハは優しく微笑んで手を振ってくれた。
†
外を出歩いて数分。
俺達の間には会話が全くない。
ただ、夜の風にあたりながら二人でぶらぶらと歩いていく。
気まずくもあり、心地よくもある沈黙。
「…………」
そんな中、不意にアイネは俺の腕を抱きしめてきた。
唐突なその行動に思わず、立ち止まる。
「アイネ?」
「ちょっと、こうして歩きたいっす」
俺に合わせて立ち止まるアイネ。
そう言った後に数秒の間を置いて、俺のことを見上げてくる。
「……ダメかな?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,355
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる