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第4章 魔の力

172話 死骸

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 範囲魔法では馬を傷つけるかもしれない。
 そう考えて、俺はアクアボルトを使うことにした。
 今まで何度も発動させているためイメージがしやすかったということもある。
 スイがこちらを見て返事をしようとした時には、一体のゴーレムは青い矢によって穴だらけになっていた。

「すごい……瞬殺……」
「アハハッ、爽快だねっ!」

 爆発するようにはじけとぶ水、水、水。
 即、次のゴーレムに狙いを定めて魔法を発動。
 ゲームでは、レベルがいくらあがってもスキル発動後の硬直時間は装備でなければ減らす事ができないため焦りがあったのだが――流石の破壊力。
 こちらへの接近を許すことなく、かなり余裕を持って撃破することができた。

「うん。さすがリーダーですね」

 にこりと笑って俺に話しかけてくるスイに、少し照れくさくなって目をそらした。
 どうも、超級の美少女に褒められるというのは何回体験してもくすぐったさが消えない。

「ねぇ、リーダー…………」 

 だがそんな雰囲気も一瞬でふきとんでしまう。
 声のする方向に視線を移すと先ほどとは打って変わって鋭い目つきをしたアイネが目に入ってきた。

「ん、どうした?」

 ぴくぴくと何度も動く耳。ピンと張られた尾。
 馬車から乗り出す様な体勢で遠くの方を見つめるアイネは、先ほどとは別人のように緊張感に満ちた顔をしている。

「いや……なんか変なにおいしないっすか?」
「におい?」

 その言葉に怪訝な顔をしたのは俺だけではなかった。
 スイが眉をしかめながら周囲を見渡しはじめる。

「特に異常があるようには見えないけど……」

 つい、そんなことを言ってしまう。
 とはいえアイネがかなり警戒心を強めているのは良く分かる。
 拳をひいて戦闘準備に入るような体勢をとっており、とても冗談で言っているようにはみえなかった。
 そしてそれは間違っていないと、すぐに思い知らされることになる。
 
「……これはっ!」

 大きな岩を過ぎ、視界が若干開けたその瞬間、俺は思わず息をのんだ。
 目の前に開けた荒野は、いままで見てきたそれとは別の場所であるかのように地面が荒れている。
 そして何よりも──

「ウルフの群れ? でも……」
「あぁ。全滅してるな」

 ぱっと数えてみた感じ、十匹弱。その数の青い体毛をした狼が血だらけになって横わたっている。
 その中心部分には黒い狼が一匹、伏せた状態で眠るように息絶えていた。
 おそらくはそれがリーダーなのだろう。トーラで討伐依頼が出されていたブラッドウルフだった。
 
「な、何が起きたの?」
「分からないけど……でも、多分この死体って新しいんじゃないか?」

 血は乾いているようだが、そこまで死体が腐っているようにも見えない。
 血のにおいだってこの距離なら俺でも感知できる。
 ウルフ達が倒れてからそう日時は経っていないように思える。

「ってことは最近、ここでウルフ達が死んだってことっすか? 仲間割れ?」
「うーん。仲間割れから全滅する魔物なんてきいたことがないけど……あっ」

 ふと、スイが、ウルフ達が倒れている場所から少し離れた場所を指さした。

「あれって、ゴーレムの体の一部ですよね?」

 その方向にはバラバラに砕けた岩が散らばっているのが見えた。
 指摘されるまでは分からなかったが──なるほど、確かに人の手のような形になっているものもあり普通の岩には見えない。

「え? なんでそんなもんが落ちてるんすか?」
「そ、そんなの私には分からないけど……もしかして、ゴーレムとブラッドウルフが戦ってたり……?」
「んー、魔物どうしがそんなことするの?」
「魔物と言っても様々ですからね。魔物間で食物連鎖があることも珍しいことではないのですが……ゴーレムとブラッドウルフはそんな接点があるようには──!?」


 ドオオオオオオオオオオオオオッン


 その瞬間。
 さっき聞いた音と同じ音が──いや、それよりも大きな音が、鼓膜を破ろうとするかのごとく俺の耳に飛び込んできた。

「えっ!?」
「なにっ──!?」

 ──近い。

 その音が、揺れが、物語っている。
 敵はすぐそこにいると。

「──!?」

 息を吸いながら振り向くと、そこには先に見たものと同じゴーレムの姿があった。
 だがその距離はまさに間近。ゴーレムが腕を伸ばせば移動する馬車に届くほど近く──

「フロストスピアッ!」

 魔法のイメージなど、している余裕は無かった。
 スキルの名前を声に出す。右腕にかたまっていく魔力の感触。
 ゴーレムが腕をこちらに伸ばすより早く俺の右手に青い魔法陣が展開される。
 
「やああっ!」

 揺れる馬車の上、アイネの肩につかまって狙いを定める。
 すると俺の手から三メートル程の氷の槍が放たれた。
 その槍はゴーレムの体を貫通し、後ろに飛んでいきながら粉々に砕け散る。
 そしてゴーレムも大きく後ろに弾き飛ばされると、スイッチが切れたかのようにその場に倒れこんだ。

「う、うわああっ!」
「うっ──」

 トワが悲鳴をあげているが緊急事態だ。
 その意思を無視して彼女をコートの内ポケットの中にしまいこむ。
 巨大な岩が地面にぶつけられる振動、飛んでくる岩の破片に耐えるため、俺はすぐに座り込んで二人の頭をつかんで、半ば無理矢理伏せさせた。


「……ごめん、大丈夫か?」
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