美食倶楽部クーラウ ~秘密は甘い罠~

米原湖子

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第1章 発端

12

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きっとそんな証明などできないと思っているのだろう。完全に私を嘲罵している風だった。

悔しいが……西園寺オーナーの思っているとおりだ。
詐欺師がどこの誰かも分からないのに、証明する手立てなどない。

今頃、彼は雑踏に紛れ込み、ほくそ笑みながら今あったことを思い出しているに違いない。ゲームに勝ったと……。

それでも――。

「約束ですよ。今の言葉、絶対に忘れないで下さいよ!」

私は負け犬の遠吠えのように西園寺オーナーにそう言い放ち、食事代をテーブルに置くとその場を去った。

――あれほど晴れていたのに……。

『女心と秋の空』とはよく言ったものだ。“美食倶楽部クーラウ”を出ると、まるで私の心を代弁しているかのように、厚い雲からポトリポトリと雨が降ってきた。

いつも思うが……秋雨は春雨のような軽やかさがない。冷たさが含まれるからだろうか?

軒に佇みながら黒い空を見上げ、溜息を吐く。

今朝は浮かれ調子だった。だから、いつもは持参する折畳み傘を忘れてきてしまった。

走れば本降りになるまでに駅に着くだろうが……そんな気持ちになれなかった。

視線を落としておもむろに歩き始めると、下ろしたばかりの皮のローヒールに雨が当たる。その様を見ながら、「ついてない」と呟くと同時にデザートのことを思い出した。

――食べたかった……と幻のそれを思った途端、メラメラと怒りが湧き上がってきた。

己、あの詐欺師、よくも私の楽しみを取り上げたな!

本格的に降り始めた雨の中に立ち止まると、腰に手を当て仁王立ち姿で天を仰いだ。

冷たい雨が容赦なく顔を濡らす。それを物ともせず、私は怒号を放った。

「今に見ていろ、詐欺師め! 絶対に貴方は捕まる! そして、私は西園寺綾時に謝罪させる!」
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