美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第１章 発端

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〈私を呼び捨てにするとは、いい度胸だな〉
「あっ、いえ、すみません」

電話に向かってペコペコと頭を下げ、ふと、なぜ私が謝るのだと思い直す。

「じゃなくて、西園寺オーナー、謝って下さい！」
〈だから電話をしたんだろう〉

どうやら西園寺オーナーもニュースを見たようだ。

「意外に誠実ですね」

思わず軽口を叩き、口を押さえる。

〈お前は馬鹿がつくほどの正直者らしいな。さっきから私に対して、信じられないほどの暴言を吐いているぞ〉

電話の向こうから舌打ちが聞こえた。

〈とにかく店に来い〉

そう言うと西園寺オーナーは返事も聞かずに電話を切ってしまった。

「謝罪する側が呼び出すって、どういうこと？」

呆れ返りながらも自然と口角が上がる。

「よし、行ってやろうじゃないの！」

きっと彼は約束を守って私を“美食倶楽部クーラウ”で働かせてくれる。
何の根拠もないが、そう思った。そして、私の勘は正しかった。

店に行くとスタッフルームの隣にあるオーナー室に通された。
西園寺オーナーはデスクに頬杖を付き憮然とした様子で待っていた。

私が部屋に入ると『こっちに来い』というように顎を引く。そして、私がデスクを挟んで真向かいに立つと――。

「約束は約束だ。先日は失礼なことを言ってすまなかった」

そう言いながら軽く頭を下げた。
でも……やっぱり偉そうに見えるのは、心からの謝罪じゃなからだと思う。

「それと、お前を雇うことにする。だが、皿洗いからだ」