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第2章 愉快な仲間たち

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「何を言ってるの?」

マミさんがハテナ顔になる。

「だって、今『愛』を感じないって」
「言ったわよ。彼の料理はいつも見栄えばかりなの。確かに味もいいけどね」
「だったら問題ないのでは?」
「それがアリアリなの」

キョトンとする私に「貴女、それでも料理人?」とマミさんが溜息を吐いたので、「いえ、皿洗いです」と返事をすると、デコピンされた。

「痛いです。暴力反対!」
「寧々がふざけたことを言うからでしょう!」

「こらこら」と横から樫野チーフが止めに入る。

「で、続きは? 教えてあげて」
「本当、世話が焼けるんだから」

チーフに促されてマミさんは文句を言いつつも説明してくれた。

「愛とは食べる人に対する思いやりみたいなものなの。例えば、これって秋のお弁当を意識したと思う。でも、秋秋秋。飽き飽きするのよね」

ダジャレ?

「秋に失恋する人って多いって聞くでしょう? ひと夏のアバンチュール、その成れの果てらしいわ。で、お客様の中にはそういった人もいると思うの。そこに秋をバーンと出した料理が出てきたら……食欲もなくなるってこと」

樫野チーフがクスクス笑い出した。

「なるほど、マミさんはそんな風に愛を感じていたんだ。他には?」
「食べやすさかなぁ。お弁当だし、一口の大きさを考えるべきでは?」
「味付けが全体に濃いと思う。旬の食材を使っているんだし、それを生かすべき」

次々出てくる意見はマミさんのよりも至極まっとうで、全てお客様を思っての言葉だった。

確かにどれも“愛”だと思うが、私が感じる漠然とした“愛”ではなかった。
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