美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第４章 美しい女性

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「夏乃ちゃん」

富美乃様の柔らかな声が呼びかける。夏乃お嬢様の失礼な態度を叱るのだろうかと思ったが、彼女は私の斜め四十五度上を行く女性だった。

「綾時さんもお年頃だもの、恋人ぐらいいるわよ」

そんな思ってもいなかった爆弾を落としたのだ。

「恋人？　有り得ない！」
「恋人ですって、とんでもない！」

夏乃お嬢様と私の声が重なり、富美乃様の言葉を即座に否定したが、「あら、綾時さん」と富美乃様の意識は、いつの間に現われたのかドアのところに佇む西園寺オーナーに向いていた。

「お兄ちゃまぁぁぁ！」

夏乃お嬢様も同様だった。私のことなど瞬時に忘れ、西園寺オーナーに駆け寄ると抱き付いた。

「夏乃、久し振り。姉さんも……久し振りだね」

あれっ？　姪を抱き上げ微笑んではいるが……違和感？　いつもと同じ作り笑いのようだが、微妙に違う気がした。

しかし、身内にまで作り笑いで接するとは……彼はサイボーグなのか？

「で？」西園寺オーナーがスタッフルームを見回しながら「君たちはいつまでここにいるんだ？」と訊ね、「間もなくディナーが始まる。持ち場に戻れ！」と言い放った。

その恐ろしげな声にスタッフ一同そそくさと席を立つ。私もそれに倣い部屋を出ようとすると、「聖天寧々！」夏乃お嬢様の呼ぶ声が背中に聞こえ立ち止まった。

「絶対、貴女なんかにお兄ちゃまを渡さないんだから！」
「あらあら、夏乃ちゃんたらまたライバル宣言？」

肩越しに振り向くと、「相変わらず綾時さんはモテるわね」と富美乃様が脳天気に笑っているのが見えた。

彼女の視線は、鬼のような怖い顔で私を睨む夏乃お嬢様に向いていた。だから、彼女は気付いていなかった。西園寺オーナーが複雑な顔で二人を見つめていたことを……。